第7話 警備隊長 ゴートの小話
警備隊の詰所でぼーっとパイプを燻らせながら、椅子に座っていると聞くともなしに、色々な話が聞こえてくる。
「あれっ、お前今日仕事入ってたっけ」
「それがさぁ、いつものとこで飯食ってたらセイが『飯おごるから仕事代わって』って、金置いて飛び出して行っちゃってさぁ。返事も聞かないで」
「へぇ、あのまじめな奴が珍しいね。そんなこと。何をそんなに急いでたんだ」
「実はさぁ、どうも女を追いかけていったみたいなんだよねぇ」
「ほお、王子様も生真面目そうな顔して、やっぱり年頃の男の子だってことだな」
「ちがいねぇ。」
若い騎士たちがハハハッと笑い合っている。
ふーん、そういえばセイ王子がいない。あの王子が女のことで仕事さぼるなんて考えられないけどねぇ。でも、隊内で噂はすぐ広まる。あの王子、またしばらく皆にからかわれることは必至だな。可愛そうに。
「それにしても、今日は王都に来る人が多いな。全然減らない」
「そりゃあだって、もうすぐ王都の祭りだからな。もう色んなところから人々が集まって来てるんだよ」
「そうかもうそんな時期かぁ。今年の警備も大変だろうなぁ」
「町中の警備だったら、いろいろ見て回れるんだけどなぁ」
おーい、隊長ここにいますよ。堂々とサボる発言ですか。
「でもなぁ、もっと色っぽい見世物とかはできないもんかね。祭りなのにお固すぎるだろ」
「しょうがないだろう。王都の風紀取り締まりは厳しいんだ。宗教的な教えで女性の見世物は破廉恥だとかなんだとかで、王都内でできないことになってるんだから」
「そりゃそうだけどさ、野郎の曲芸ばっか見てもなぁ。つまんないよ」
まぁ、そうだろうな。騎士団は基本的には男所帯だ。いろいろ溜まるものもあるだろう。
「まぁ、普段はない珍しい屋台とかも出るし、酒と食べもんがあればいいんだろ、お前は」
「だってそれくらいしか楽しみねえじゃんか」
それにしても、サボる話ばっかしてるね。こいつら。もうちょっと締めていかないといかんか。
うん? そういえば、祭りと言えばなんか忘れているような気が、なんだっけなぁ……
「隊長っ!」
「うわっ」後ろからの不意な大声につい声が出た。声の主は警備隊の副隊長キリだ。
「どうしたの、そんな大声出して」
「どうしたじゃないですよ。今日は庁舎で会議だって言ってたでしょ。祭りが近いから、警備の配置とか他から借りる人員の調整とか」
そうだった。さっきから思い出そうとしてたのはそれだったか。
「いやぁ、ごめんごめん。すっかり仕事に夢中になっちゃって」
「椅子に座って、パイプ吸ってるだけが仕事ですか? もう早くしてください。皆、もう集まってるんだから」
「そんな怒んないでよ。キリちゃん。ちゃんと窓から不審物がないか見張ってるんだよ、これでも」
「キリちゃんって呼ばないでください」
厳しい顔を一層険しくして、詰め寄ってくる。
「そんな怖い顔してると美人が台無しだよ。嫁入り前なのに」
冗談のつもりだったが、言った瞬間、わなわなと震えていたキリの渾身の右拳が左ほおに直撃していた。
「じゃあ行きますよ」
俺をぶん殴ったキリは少しはすっきりしたのか、笑顔でそう言うと、襟首をつかみ引きずりながら連れて行こうとする。
「わかった、わかったから。ちゃんと歩くよ」
「そうですか」
キリが手を放した。立ち上がり服の土を払っていると、先程噂話をしていた若い騎士たちが、
「いいな、隊長はサボってばっかで」
「美人の副長もいつも一緒だしなぁ」
おいおい、サボりってお前たちがそれを言うかい? 若い奴らにはもう少し厳しさををもって接しなければ……
「隊長っ!」
「は、はいっ! 今行く、今行くから」
まぁいいか。