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ちなみに、このおはなしは、ゆずソフト「天色*アイルノーツ」発売の前に書いたものです。

(わかるひとだけわかってください)

(そういえば、「なろう」の二次創作許諾には、ゆずはOKとか書いてあったような……)

琴さんと一緒に原稿にさらに赤を入れながら、紅茶や水を飲みながら、延々と喫茶店の片隅を占拠して話し合う。

 

ソファの材質がいいのか、ぜんぜん疲れない。また、適時軽い甘いものを挟んだりする。経費で落ちるらしい。すばらしいな……。


 だいたい次のように、まとまっていった。


 ・新世代ファンタジーの旗手として打ち出していく

 ・ガチファンタジーと硬派戦記とSFちっくなメカの空中戦という世界観をさらにソリッドにしていく

 ・同時に、「ゲームっぽい」システムだとか、メソッドだとか、雰囲気(まったり殺伐バーチャル的な)といったものは、ほかになかなかみられない僕の作品の個性であるみたいだから、大事にしていく。

 ・文章のスピードをもっと早く

 ・ルビ三割減

 ・パロネタ入れたっていいんですよ? 下品にならなければ


 など、など、など。


 きわめて実践的な指摘と再構築。僕が次にするべきことが、明確になっていく。書き直し、みたいなことを言われたらどうしよう、と思ったが、これならいける。


 「ときにゆうせんせい」


 「なにかな?」


 この娘との関係も、ずいぶんフランクになったよね……緊張なんてねえぜ。うーんすごくいい感じだ。ゆうせんせい、ゆうせんせい、と、ほがらかに話しかけられると、とても幸せな気持ちになる。慕ってくれてる、とまで認識するほど、うぬぼれてはいない。が、親しみは抱いてくれてるらしい。


 「高校生ということで、スケジュールは大丈夫なんですか?」


 「あー、そこに関してはぜんぜんだいじょぶ。僕、高校いってもいかなくても、関係ないから」


 「それはだめですよぉ。私たちの責任になってしまいますから。大学だって……」


 「だって僕、もう大学卒業しちゃってるし」


 「……え?」


 顔文字で「ポカーン」てのあるじゃん、まさにあの顔を、琴さんはした。まじ口あいてる。


 「……飛び級って、ホントにあるんですか?」


 「それよりも怪異の存在の方が不思議だとは思わんかね、君」


 まじまじと僕の顔を見つめられる。まいったな……隠しきれない知性が琴さんを圧倒してるようだ。


 「……うー、えー、……見えません」


 「そうかい?」


 「やっぱり可愛い系の女顔ショタ中学生にしか」


 「をい」


 そうきたか。そっちかよ。


 「でもホントでねー……こんなとこで嘘いっても仕方ないし、嘘つくなら、もっとリアリティのあるものにしますわな。小説家なんだから」


 「ですよねー……あまりにも突飛でびっくりしてしまいました……じゃ、なんで今更高校通ってるんですか?」


 「んー、趣味」


 「趣味!?」


 「だって僕、もう大学いく必要ないから、受験戦争する必要ないし」


 「そりゃそうでしょうけど」


 「ていうか高校の定期試験、全部僕が作ってるし」


 「嘘っ!」


 「それから総合学習プログラムも僕が作ってるし」


 「嘘だっ!」


 「おかげで葵高校、現在じゃ埼玉王国トップの進学校だし」


 「ひぐらしっ!」


 「あんたはどこぞのドラゴンワナビか」


 ノリのいい人間は嫌いじゃないぜ?


 「全部本当なんですか……?」


 「んじゃ琴さんのテストの問題用紙持っておいでよ。全部まるっと高校の方針とか教師の傾向とか洗い出してあげるから」


 「事もなげにいいますねゆうせんせい……ていうか、ゆうせんせいって天才キャラだったんですね」


 「キャラいうな。けど、僕は、天才じゃないよ」


 そこだけは、はっきりと名言しておく。絶対に、そこだけは。


 「ひぐらしっ!」


 「そのネタ気にいったの?」


 「じゃなくてっ、ゆうせんせいがやってることって、完全に天才のそれじゃないですかっ。現役……かどうか怪しくなってきましたけど、高校生でラノベ作家になって、で、学校の教育システムを完全に掌握して、大学まででて……」


 「ふたつ、勘違いがあるかな。まずひとつ。オベンキョーの才能と、創作の才能は、まるっきり別だってことは、琴さんには釈迦に説法だよね。僕だって、それ相応に……てか、投稿=ワナビ関連については、ずいぶんと地べたをはいずり回ったんだよ」


 琴さんは黙って、静かに話を聞いてくれている。


 「もひとつ。僕がやったあれこれ……それこそ、LAOのことですら、天才の領域じゃないのさ。あえていうなら『秀才』のたぐいかな」


 「秀才、ですか」


 「平たく言えば、天才が神に愛されし化け物だったら、秀才は、ちょこっと頭が回るだけの、凡人の延長線上さ」


 「凡人の……延長線上……」


 あれ? 琴さん、ずいぶん厳しい目つきになっちまいました。僕は間違ったことを言ってはいないつもりだけど、どしたのか。


 「延長線上……そう、そうなんですよね……」


 「琴さん?」


 彼女の目の前で手をひらひらさせて、問うてみる。


 「あっ、すいません、ぼおっとしてしまって」


 「僕は間違ったことはいうてないつもりだったけど、ひょっとしてデリカシーに欠ける発言だったかな」


 「いえいえ、これは、個人的な思いなんです……」


 語尾の「……」的思慮が、妙に重そうだと思ったので、僕は話を変えることにした。


 「じゃ、天才ならざる凡俗の努力の結晶について話を、また元に戻しましょうか?」


 「……もって回った言い方ですねえ」


 なんとか、琴さんは苦笑してくれた。まあマイナスにいってないだけよかった。


 「でも、私、さんざん魔改造って言いましたけど、ゆうせんせいの小説、本当に好きなんです」


 「具体的に詳しく、しかし雰囲気でもよいのだけど、ぜんぜん遠慮なく、アグレッシヴかつ率直に、長文いくらでもOKなので教えていただけますでしょうか比良野様?」


 「ものっすごい食いつきですね」


 だってよ、僕の小説、自分で「プロにはかなわんわ……」と思ってるのに、しかしプロ編集者が「好き」いうてくれてるんだよ!? 舞い上がるよバーニンハート! 


 「じゃ、これからの改善点と共に、私の個人的な思いも込めて」


 僕は一気に神妙になる。いい意味でのどがカラカラだ。


 「ゲームのファンタジーっぽいんですよね」


 「やっぱわかります?」


 「キャラと職業の対応とか、飛空挺のメカメカしさとか、自身に傷を与えて、攻撃力アップとか」


 「ファイナルフ●ンタジーが大好きなんです」


 「どれがお好きですか?」


 「4はRPGのバランス面での完成系、5はRPGのバランスをカスタマイズ出来る奥深さ、6はRPGのバランスよりも伝えたい大事なことを描ききった物語性」


 「古きよきスクウ●アRPGに思いいれありまくりじゃないですか。三十秒で噛まずにすらすらいえるなんて」


 「大好きなんだ」


 「ゆずソ●トの新作のキャラソンでそういうタイトルのシングルありましたよね。獣耳少女の」


 「どんだけマニアックなネタを拾ってくるねん! ていうか琴さんエロゲもいけたんですか」


 「あ、これは仕事の……あ、話しちゃいけないんでした。忘れてください」


 「忘れられるかホトトギス!」


 「で、建物や情景の柔らかな描写や、モブキャラにいちいち個性的なセリフをいわせる芸の細かさとか……」


 「話をずらしおって。で、そこは、FFの影響もですが、しかしポポロクロ●ス物語の影響も多分にありますね」


 「あ、だから、どことなく童話っぽいところもあったんですね。でも、そうはいいつつも、ファンタジーなのに、妙に銃器というか、硝煙の臭いというか、武器関連のメカメカしさが……」


 「ワイルドア●ムズ最高ですよね」


 「なるほどー」


 琴さん、しみじみと納得してくれたようである。


 「そういった世界観……優しくて、でもキャッチーで。中二を恐れず、自分の好きなものをかき集めて煮詰めて……っていうところ、作品の『ウケさせよう』というあざとさよりも、むしろずっと魅力的だったりするんです」


 わからんものだな……僕は、今のラノベシーンでは、とにかくハデであざといキャッチーさを恐れないことのほうが重要だと思ってたから。……やっぱ、書きたいものを、書いたほうが、認められるってことか。ワナビはあれをしろこれをしろ業界を分析しろ……というが、しかしそれは所詮ワナビの戯言だしな。考えたら。


 「ありがとう」


 僕は、琴さんの意見に、素直に礼を言った。やっぱり、うれしい。あざとい努力を評価されなかったことは残念だというのは正直な気持ちだが、自分の「真にして芯」を誉められたことは、ね、やっぱ、いいもんだよ。


 「でも……ごめんなさい、言わせてください」


 「どうぞどうぞ」


 「そういう暖かさ、丁寧さが、即座に理解されてウケるようなシーンでもないんです……要するに、ゆうせんせいの、私が好きなとこは、地味なんです。言葉を変えれば、素朴で実直で丁寧で誠実で……なんですけど、すべての読み手が、世界観のフェアネスを評価するわけではないことは、ご存じですよね?」


 「だからこそ、主任は、琴さん……魔改造のスペシャリストを、僕にあてがったわけ、かな?」


 こくり、と琴さんは、首をふる。小さな挙動であったけど、確かに肯定の意だ。


 妥当な判断だよな……むしろ、主任は主任なりに、僕の作品を愛してくれたといってもいい。「埋もれさせたくない」的な意味合い。魔改造してでも、世に出したいという。


 「……うーん、僕のこの小説って、LAOの一大勢力になりうるくらいのポテンシャルってあります? それだけ地味さが評価されるようでは」


 「たとえば、『狼●香辛料』や、『僕は友達が●ない』を考えてみてください。今でこそラノベ界を席巻する一大コンテンツですけど、作品自体を虚心坦懐に読めば、筋自体は、というか本質は、とても地味といえませんか? 『狼』は経済というテーマ、『は●ない』はぼっちというテーマ」


 「そういわれれば、そういう見方もあるかなみたいに思えるけど」


 「でも、とても強度の高いキャラ性をもってますよね、両方とも」


 「全く異論はない」


 「その上、キャラを生かしつつ、テーマを完全に展開していって、ストーリーも面白い……というか、これらは分断できるものじゃないです」


 「作品の面白さは単一の要素だけで語れない……芥川龍之介が芝居……人情もの芝居ラブロマンスについて語っていたもののなかで、主人公の男はヒロインの恋人の好きなとこをあげることなら、十も二十も百もあげられる。その目、口、髪のつや、体つき、そしてなにより心……しかし、それらを分割して、分析して、並べ立てたところで、『彼女そのもの』は現出しない。彼女が彼女として魅力的なのは、ただ単に総体としての『彼女であるから』であるという、批評家殺しの論理ですが」


 「はい、そういうことなんですけど、ホント批評家殺しですね」


 ふたりして笑う。いや、批評家としての僕は笑えんのだけど、でも小説家となった僕は、この論理が真実であることを知っている。創作って、そういうもんだから。僕ら小説家は、文章を練り、キャラを磨き上げ、ストーリーを練り、設定を磨き上げ……でも、結果現れるのは、批評家がいうところの、「データの集積」ではない。作品は、ひとりのひとのように、一個の分かてない存在なのだ。


 ……ふう。ガンホー第二階梯「批評家」……LAOがLAOである最大の所以「批評ネタ精神こそが力」というルールを提唱し、いろいろな世の中の批評がどのように強度へと結びつくか、そのバランス調整を一手に引き受けていた人間がな……。


 「ゆうせんせい? どうしましたか?」


 「ああいや、ちょっとね」


 今度は僕が逡巡してしまった。まあいい。終わったことだ。あるいは、終わりつつあることだ。僕はこれから第二の人生を歩む。


 「まあ、創作は結果オーライだということ、だよね?」


 僕は琴さんに振る。


 「はい。それは簡単に見えますが、実はどうしようもない茨の道なんですけど」


 「覚悟の上っすよ」


 「でも、ここまでの理屈からいったら、丁寧に作られた作品は、たとえ地味なものが中核でも、『結果』光輝く、ってことです。そして、それを見てもらうためには、多少の飛び道具が必要です。私のような魔改造職人は、そのお手伝いをするだけです。飛び道具がヒットして、作品の本質が理解してもらえたら、ゆうせんせいの勝ちです。結果よければすべてよし、です。そのためだったら、あざとさも取り入れますし、ステマだってします。でも、作品の本質を作り出したのは、作者の先生です。魔改造した人間は、偉くはないです」


 一気に琴さんは言い切った。しかしそこまでいうかね。しかし……そこまで言ってくれる、という、嬉しさもある。僕の作品を愛して、賭けてくれようとする思いと、世に出したいという思い。


 おそらく、僕は……以前の僕だったら、魔改造だの、ステマだの、やっきになって否定していただろう。文芸的には、それは「悪」だ。でも、ここにある精神は何だろう……これが悪なのだろうか?


 これが……プロの小説家、としてのありかたなのか。

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