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「しかし、なぜ魔改造が得意か、という説明になってないような気がしますがね。それと、どうして編集者になったのか。まあ、ガンホーとしての生活をブッチした僕が『言え!』いうのもおかしい話ではありますが」
なんて言ったら、琴さんはおかしそうに笑ってくれた。反応がいいのは助かる。
「いえいえいいんですよ、ゆうせんせいですから」
どきっ。
……え、あれ、これ? なんか期待していいの?
いやいやこれは仕事なのだ、私情は挟むな。挟むな。挟むな……気になるっ。童貞ソウル丸だしじゃねえか。粗末なジョイスティックを丸だししてるよりはいいか?(黙れよ)
うーん琴さんの、そう、なんちゅうか……そりゃ、他意はないんだろうけどさ、でもね。酔ってもいいじゃない、こんな世の中なんだから。え? こんな世の中おまえが作ったんだろって? うるせーばか。
ええい話を戻す。
「でも魔曲使いだけで仕事になるじゃん。どうしてラノベ編集部に?」
「本が好きなんです」
すっごいシンプルなお答えありがとうございました。あまりにシンプルで、しかも強くて、まぶしい……
「とはいっても、ほとんど最初は遊びに行ってたようなものなんですけどね」
「遊びに行っていいんですかい」
「……これ言うと、完全に傲慢に聞こえてしまうんで、あんまり言いたくないんですけど……誤解しないで聞いてもらえますか?」
「了解です」
琴さんがここまで予防線張るというのは、確かな見地によるものだろう。
「仕事のできる、能力の高いエージェントは、基本的に会社を遊び場にしていいのが、会社ってものなんです」
「勝ち組の理屈じゃねえか!」
つっこんでしまったが、しかしな、しかしなっ!
「冗談ですよぉ……1/4は」
「ガチ率が多いわっ!」
「ま、まあそんなわけで、新興レーベルということで、これまでの社のコネを使って、様々な作家さんを招聘して、ブランド設立を目論んでいたのが、前の話です。で、エージェント職権乱用で、出版前のゲラをしこたま読んでいたんですね」
おとなしそうな顔して、なかなかやるなこの女の子は……しかし嫌いじゃない、趣味に人生をかける女の子っていうのは、嫌いじゃない。
「その中で、これこうした方が、もっと面白くなるんじゃないか、って、主任と話していたんです」
「ん? 琴さんと主任って、昔からのつきあい?」
「あ、そうなんです。コネというわけじゃないですけど」
「ふーむ」
ここでやたらと詮索するのは非モテのオタなので、こらえる。
「そしたら、いつの間にか、主任に、編集者としてのあれこれを仕込まれるようになってしまいまして。これで私のお話はありがとうございます」
「うん、最後が打ち切り漫画のように駆け足だったけど、だいたいわかった」
つまり、比良野琴という少女にとっては、自身の能力が高いから、とくに屈託もなくこの業界に入った。
んでもって、あの魔曲に代表されるような、アレンジ能力にも長けている。以上二つから導き出されることはなにか。――ひとの作品に手を加えることに、さほど抵抗がない。
……といったら完全に語弊があって、琴さんすごい冷酷なように見えるんだけど、今ここで相対している琴さんからは、僕の作品をバカにしたり、冷笑したり、侮ったり、ということは、一切、いっさい見受けられない。肌でわかる。
屈託がない、抵抗がない、と僕はいった。それはすなわち、ワナビ的みょうちきりんなプライドとは無縁だということだ。ちょっとヘイト(非難)されただけでダダヘコみしたり、自分はまだ一作品も上梓してないのにアーティスト気取りだったり、トーシロのくせに「生みの苦しみ」云々と語ったりする、あれ。
そして一番タチ悪いのは、若い頃そういった生活をしていて、ワナビとして小説家になろうとして、しかし夢やぶれて、しょうがなく編集者とか、コンテンツビジネスの片隅でウジウジやってる、ってパターン。すげえやっかいだぜ!
でも、琴さんには、その屈託はない。いやらしさがみじんもない。あるのはただひとつ、いい本を作ろうという精神。
魔改造、と、主任も琴さんも言った。でも、案外、こうやってまっとうに僕(と作品)を扱われて、「いいものつくろう」とするのは、嫌な感じじゃないことがわかった。ワナビだったらわかんなかっただろうな……自分が、頼りにされてる、この感触。
僕は琴さんに言われた改善点を、脳内のメモ帳にリストアップし、考える。
「……あ、ひょっとして、ゆうせんせい、私の魔改造……お気に……」
「ぜーんぜん。むしろ、すっげえ感心してるよ。僕も僕で、ワナビ精神をいい加減抜かないといけないし、こうやって琴さんと打ち合わせていると、いいもの作っていってる、っていう、健全なやりがいがあるんだよ。実際、どれも指摘は妥当だしなぁ」
持ち上げるわけではなくて、あくまで本音。
それを聞いた琴さん、なんと目を潤ませている。え、僕地雷踏んだ?
「ちょ、ちょっと琴さん?」
「ち、ちがいます。うれしいんです。ごめんなさい泣き虫なんです泣き虫なんです」
「大事なことだから二回言いました?」
「あははははは」
泣き笑い、ってやつ、すげえ珍しくみた。ていうかこれはあれか? 周囲からみたら、ある種のラバーズ的なちちくりあいに見えるか? まいった……いや、別にいいか。
「ごめんなさい。突然」
「いやいや」
「魔改造を受け入れてくれるひとは、全体の半分なんです」
「半分もいるんだ」
「ご飯食べていけませんからね」
なーる。
「でも、それを、肯定的に受け取ってくれるひとって、まずいません。さっと、視線が変わるんです。裏切ったな、みたいに。こんなのやらせるのか、みたいに。なにか大切なものを傷つけられたみたいに」
「それは、アーティスティック精神に関わるものと思っていいのかな?」
「……私自身のことをいうと、編集者って、そういうふうにみられているのかなぁって、思ったんです。そりゃ、私は会社の人間です。やっぱり創作者じゃないです。売れることを考えます。けど、それでも、やっぱり、いいものを作っていきたい、いっしょに……って、気持ちは、ぜんぜん嘘じゃないんです」
「わかるよ。よく」
本当に、ね。その目を、体の乗りだしを、勢いをみてればわかるよ。
「敵になるつもりなんてぜんぜんないのに……でも、ゆうせんせいは、同じ高校生なのに、こうやって、作品のある種の否定じゃないですか。それを、すっと受け入れて、そして私とつくっていこう、としてくれたこと。それを一瞬で思ったら、ふっと、体の力が抜けるように、潤んじゃって」
「まあ傷つけたんじゃなかったらよかった。仕事はじめて会って二回目で修羅場だったら、この先どうするねん、って思ったし」
「ゆうせんせい」
「ん?」
「一緒に……がんばらせてください。ふたりで、一緒に」
……やべ。
感動した。
思いっきり勘違いしちゃいそうな言い回しだなぁ。事実どきっとした。けど、琴さんの発言は、そのような底意など有るわけはないのは明白であって。
僕は答える。
「わりと僕、こんな性格だから、やるとなったら、暴走すると思うんだよね。小説家としてのスキル上がったら」
「暴走って……まさか、ある種の作家さんのように、暴言とか奇行とかじゃなですよね?」
琴さんは笑って聞く。
「作品のこと。どんどんネタをぶち込んでいきたいし、『そこそこ』で落ち着きたくもないしね。……さて、琴さんは、それでもついてきてくれるかな?」
僕の挑発に、琴さんは、
「はいっ!」
即答であった。うーん……この心のかたち、マジ僕の好みだな、この女の子編集者……。




