#20 第八十ニ噺
「宮代?終わったのか?えらく時間がかかったな。……それで…、ここにおるこやつらが、おぬしの言っておったオトモダチか??正式な紹介がないから危うくコロすところだったぞ。」
と蟲姫は言い、立ち上がった蛍に壁越しに近付いていった。
「なんじゃ、そんな怖い顔をしおって?ところで宮代?ちょっと前までおぬしが使っておった、あのゴツイ武器はどうしたんじゃ?中学生の体に戻ったから、軽い武器に変えたのか?ほれ、あれじゃ、刃渡り6寸ほどで柄が空洞になったやつ…。
よくあれを木の先端に差し込んで槍にしておったじゃろ?迷い込んできた猪なんかを退治してたやつじゃ。ああ、そういえば何度か妾を刺そうとしたこともあったな。うふふ、おぬしは本当に面白い女じゃ……それにしてもその小刀、昨日もちらっと見せてはもろうたが、もう少し良く見せてくれんかの。」
蟲姫はそう言うと、心持ち警戒した様子の蛍を手招きし、
一方、脚の後ろに白い帯を垂らしたブルマ姿の巫女は、いつでも相手の首をかっ切れるように刀を水平に構えつつ、
青白く光るメノコマキリを見せてやった。
「……ほう可愛いな……宮代に良く似合うておる。」
ポッと頬を赤らめた蟲姫が、マキリを握った蛍の手に自分の白い手を重ね合わせてきたので、
蛍は、ゆっくりとした動きで、龍神の涎油を利用して蟲姫の指を振りほどき、ブルマに巻かれた革のベルトに差された鞘にスチャッ…と硬い刀を収めた。
蟲姫は少し傷付いたような表情をし、もう一度こちらに手を伸ばそうとしたが、手のひらを宙にさ迷わせた後で、そのまま指を白髪の房に絡めてクルクルと回し、
「聞け、宮代、そこのオトモダチは酷いんじゃぞ?50年前のクラスメイトみたく妾をばい菌扱いしようとしたのだからな…、全く。スパルガヌムを感染させて、脳を喰わせようかと思っていたところじゃ。」と言った。
紬は、愛衣花・エル・ターナーの手が震えながらこちらを握り締めてきたことに気付き、「メイカちゃん?」と小さく囁いた。
んん???
手を繋いだ背の低い友人を斜めに見下ろすと、
金髪のスク水少女は(グスン…)と俯きながら、足元の土に向かってどんどんお水を落としていた。
「あ、あ、……メイカちゃん……?こ、怖かった……よね。」と紬は小さな声で言って、強く手を握ってやった。
「汚れても平気な服で良かったね…」と続けて紬が言うと、
正面にいた蛍が(……たく…)と肩で溜め息をつきながら「姫様?あんまり私の友達のおちびちゃんを怖がらせないでくださいね。」と言った。
その言葉を聞き終わらないうちに蟲姫が、
「おぬし!気に入ったぞ!」と叫びながら手をパチパチと叩き始める。
「そこの金の髪!近う寄れ!そうか、そうか!やってしもうたか!よいぞ、よいぞ、ああ気にするでない!妾もおぬしの気持ちがよく分かるぞ!宮代、そやつの髪の色が黄金なのはそういうことか??そうなのか?お水の方も、いみじくキラキラとして琥珀色で綺麗じゃの~。いやあ、久しぶりに同類を見たわ。」
蛍は、金髪幼児と白髪少女を代わる代わる見てから、鞘に置いた手を離し、紬に目で(……もう大丈夫かも…)と合図を送った。
「そっちの黒の髪も、よくよく見ればモンペに致した跡があるでないか?隠さなくとも良いぞ……いやあ、宮代?いいオトモダチを連れてきてくれたな。歓迎するぞ。この者達なら屋敷に入っても平気じゃ。危害は加えん。妾が約束する。」
蛍はホッとした顔をして、
「紬?今の聞いた?入ってもいいって。それなら、中の掃除も一緒に手伝ってよ!洗濯物と捨てる物が山ほどあるのよ!お願~~い」と、可愛くウィンクをしながら拝むポーズを取る。
ようやく水を全部流し終えた様子の愛衣花・エル・ターナーは、「ツム?ホタル?か、勘違いしないでよ??これは、さっきスク水を洗った時に残っていた残り湯(?)ですから!!ほら、用水路で田んぼの泥を洗い落としたでしょ??あの時ツムちゃんが、ちゃんと搾り切れてなかったから!これはアナタ方が考えているようなものでは、決してございませんからね!…………お、お、お風呂はどちらにありmuscat?」と言って、ショボン……と肩を落とした。
優しい紬は、愛衣花の言葉を無視し、「……ホタル?本当に上がって大丈夫なの??」と、ブルマ巫女の耳に口を近付けて言った。
「……でね、あとホタル……とても言いにくいんだけど……貴女のブルマから天女の羽衣がはみ出ておりますが……」
「ぬわに??!」宮代蛍は仰け反って見返り美人のポーズを取り、「ち、違うのよこれは!!」と叫んだ。
「わざとよ、わざと!」と蛍は言うと、鞘からマキリを抜いて、トイレットペーパーを刃で切り裂いてから千切って丸め、ポイとそこいらへんに捨てた。
「……アナタがゴミを散らかしてどうするのよ……」
大八車からビニール袋と大きなピンセットを持ってきた紬は、落ちた紙屑をポイ!と透明袋に放り込んだ。
「と、とにかく!ツムギ、メイカ!蟲姫様の許可が下りたからもう安全よ!みんなで中に入って汚れ物を回収するからね!」
愛衣花は、履いていたビーチサンダルを足の裏でブチュ…ブチュ…といわせながら裏口をくぐり、「お邪魔します……」と小さな声で言う。
「上がれ上がれ」と向かって姫は嬉しそうに金髪女子の背中を触り、「おぬしらは2人共、口にパンツを履いておるが、それは我らの共通の悩みに対して何かの役に立つのか?」と、こそっと耳打ちをした。
「もう、マスクは外してもいいんじゃない?」と蛍が無責任そうに後ろから言ってくる。「埃や黴なんかは、姫様があらかた片付けてくれたようだし……なんか新築のおうちの匂いがするわ……。さ、今から大広間に行って、纏めてある洗濯物と使用済みのオムツを片付けましょ!3人がかりだし思ったよりも早く終わりそうね!」
「……あ、あのお風呂はどちらに……」と愛衣花が水着のお尻に指を挟んで引っ張りながら言った。
「そうじゃな……さっきは少し運動をして汗をかいたし、皆で軽く行水でもするのもよいかもな?のう宮代?どう思う?妾は汚れておるか?臭うか?」そう言うと蟲姫は、自分のジャージの襟首を引っ張って、蛍の顔の前に首を差し出した。
「クンクン………姫様はまだ大丈夫そうだけど……メ以下っちがね……」
黒く湿った水着から、すえた臭いを発する金髪碧眼少女を振り返り、
「姫様?お風呂場はもう綺麗にしてある?ガスは使えたんだっけ?」と聞いた。
「だから姫様と呼ぶのはよせ。日向子で構わぬ。先月おぬしが持ってきてくれたプロパンガスはまだ切れてないと思うぞよ。」
「………宮代はそこまでやんなきゃいけないの……」と蛍がぐったりとした表情で言った。
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ホカホカと湯気をたてながら、ピンク色の肌をした白人少女が、「いいお湯でございました。」と言って出てくる。マスクはもう外されており、彼女は蟲姫に向かってニカッと笑うと、唇の端に八重歯を1本光らせた。
「なるほど、おぬしは口パンツの中に、その、矯正なしの歯を隠しておったのか。歯茎が途中まで被っていて、まだ剥け切れておらんの…。おぬし、中学生と聞いておったが、年齢の割に、まだ直していない口内が未熟な感じがするな、…これは確かに…見ている方が恥ずかしいの……。」「これはメイカのcharm-pointです!恥ずかしくはないです!」
「もうよい。口を閉じよ。それだと食べかすとかが挟まって、毎回洗うのも大変じゃろ……。口パンツの中で蒸れて臭そうじゃな。早う直した方が良いぞ。イメージが悪い……」
「ひどい言われよう……」と愛衣花はグスン…と涙を流し、「ツムちゃんはそんなこと思ってないよね!」と抱きついた。
庭の物干し台には、肩のところを洗濯バサミで挟んだスク水が揺れていて、その横にはついでに洗った白ワンピースと麦わら帽子が吊るしてあった。
夏の少女、愛衣花・エル・ターナーは首からゴム襟のバスタオルを被っていて、腕を出して紬に抱きついたせいで、後ろが捲れ上がり、こちらにツルンとしたお尻を見せていた。
「……蒙古斑は消えておるようじゃの。」と蟲姫が腕組みしながら目を細めて言う。
「モーコハン?」と金髪少女が振り返る。
「ほれ、あれじゃ、幼い頃、お尻や肩にある青アザのことじゃ。」
「メイカは外人よ。」と蛍が代わりに答えた。
「ガイジン?」
「ええ、そうよ。この子は白人の遺伝子強めだから、元々蒙古斑はないわ。肩にあるのはBCGの痕だけよ。」
「BCG?……それは韓国のアイドルグループか?」
「なんで、蟲姫様がそんなこと知ってんのよ……おちゃっぴーに聞いたの?」
2人の会話をキョトンとした顔で聞いていた紬に向かって、蟲姫が「おい、黒の髪?ところでおぬしは、その口パンツを脱がぬのか?」と聞いてくる。
「いえ、……少しまだ不安で……その、つまりこれからお掃除をするわけですし、念のため着けておいた方が良いのでは……と。」と紬が答える。
「そこにいる金の髪と違っておぬしは、それなりに大人っぽく見えるがな?ははあん……毛でも生えてきたのか?」
「なっ??!」と紬が真っ赤な顔をして、蛍に助けを求めるように視線を向ける。
「アハハ…気にするでない。恥ずかしがることはないぞよ?そうそう、妾も中学生になった頃じゃったな。急に、も邪も邪と生えてきたぞ。黒の髪、安心せい。宮代も生えておるぞ。今はオムツもあるし、夏も近いからな、蒸れぬよう宮代に剃ってもらっておるが……、
……おい、宮代?おぬしがひと月も来んから、また伸びてきてしもうたぞ?今朝、おぬしも見たであろう?……いや、待てよ?ははあん。その可愛らしい小刀を使うのか?…なんだかドキドキするな。慣れていない武器で上手にやれるのか?まあ、よい。妾は宮代を信頼しておるからな。後でよろしく頼むぞ?」
「ホタル???」
「いや、違うって紬!?」
蟲姫が「…じゃが口のまわりには男しか毛が生えないと聞いておったがな……。まあ、最近は男女は平等になってきておると、おちゃっぴーも言っておったしな。そんなに気になるならおぬしも剃ればよかろう?何も隠すことなどなかろうに……。」と、何処か嬉しそうに手を擦り合わせながら言った。
「いやあ、宮代!いいオトモダチを連れてきてくれたな!これならあと20年くらいは皆で遊べるな。こやつらも若返ったりせぬのか?さすれば永遠に遊び続けていられるのに……」
「いや、蟲姫様?少しは勉強してください。年を取らないからって、何年中学を留年してるんですか……」と、紬は思わず突っ込んでしまっていた。
「べんきょう………?」と蟲姫が不思議そうな顔をしてこちらを見つめてくる。
そこへ 愛衣花・エル・ターナーがバスタオルに生首を乗せた姿で入り込んできて「日向子ちゃん?……て呼んでいいのかな?丁度いいから、メイカ、一つ聞きたいことがあるんですけど…」と言った。
「ああ、ヒナコで構わぬぞ。なんじゃ、聞きたいことというのは?言うてみい。」
蟲姫はそう言うと、一瞬黙って真顔になると、心持ち変な姿勢で立ったまま遠い目をすると、ブルッ…と体を震わせた。
「姫様……。おしめ縄の消費、ちょっと早くないですか……もう少し、大事に使ってくれないかしら……」と宮代蛍が呟く。
「High。メイカが聞きたいのは、他でもない、ヒナコちゃんの若さの秘ケツです。なんか、食べ物とかに気を遣ってらっしゃるんでスカ?クソ簡単に素人でもマネできることがあればゼヒ教えてくだsigh!」
「「ちょっとメイカちゃん??!」」と、蛍と紬が同時に声を上げる。
「ほう。おぬし、この中で一番幼く見えて、美容と健康に興味があるとか、……なかなかの洒落もの女子じゃな。感心じゃ。そこの髪ボサ巫女にも爪の垢を煎じて飲ませてやるとよい。」と蟲姫が言うと、
愛衣花が、「つ、爪の垢ですか……それを飲むのはちょっと……」と、
若干タオルから生乾きの臭いを発生し始めながら言った。
「おぬしが飲むのではない。宮代に飲ませろ、と言ったのじゃ。」
「……それもちょっと……。ゴメンね☆」とべろを出しながらウィンクした愛衣花が、顔の前で手を合わせて蛍に謝る。
腕を外に出したせいで、思い切り捲れてしまったバスタオルの下から、丸いお腹と以下、屈託のない子供らしいメイカ臭い場所をCircle-outにして、
愛衣花・エル・ターナーは映画のように静かに丸くフェードアウトしていった。
「ちょい待ちなさい!勝手に場面転換しないでよ!誰がアンタの垢を飲むかってーのよ??こっちから願い下げだわ!」と蛍が叫ぶ。
「まあまあ、宮代怒るでない。垢は後で妾のを飲ませてやるから。……そうじゃな、妾が食事で特別気を付けていることと言えば……」
と、蟲姫が顎に手を当てながら、心持ち顔を上に向けて、何かを思いすように目をさ迷わせてこう呟いた。
「スーパーモデルにならって、お腹にはサナダムシを飼うておるのは勿論のこと、週に2回は昆虫食を食べておるな。……おう、そうじゃ!今日は丁度、昆虫食を食べる日じゃった!ご馳走するから、そこで待っておれ!……ああ、そうか、今日はゴミ集めに来たんじゃったな。
……それならば、おぬしらが働いている間に妾が腕によりをかけて夕飯を作ってやろう!なんじゃ?その顔は。よもや、妾の作る飯が食べられないなどという訳では無いよな?」蟲姫の目が赤く光り、ゾワゾワゾワ……と3人の少女達の背中に、見えない虫が這うような感覚が伝わっていった。
直立不動のまま笑顔で固まった少女達は、お互いを肘で小突き合い、最後にふくらはぎを蹴られるようにして前に出てきた蛍が「え~っと……」と言うと、「……あーその、何て言うか……まだ私達お腹が減ってないって言うか……」アハハ……と笑いながら言った。
「では、沢山働いてお腹を減らすとよい。妾はお台所に行くから、楽しみにしておれ。」そう言うと蟲姫は、ルンルン♪と鼻唄を歌いながら、殆どスキップするように部屋を出ていってしまった。
「…………」「…………」「…………」
「どーすんのよ!」と蛍が言いながら、金髪の生首の頭をスパコーン!とはたいた。
「なんであんなこと聞いたのよ?!」と紬もバスタオルの首を引っ張る。
「でもよく考えたらホタル!そもそも蟲姫様のおうちに上がろうと言ったのはアナタよ!何とかしてよ!私、虫なんか食べたくないわ?!」
「……で、でも……あんな感じに乗り気になってしまった蟲姫様を止めるには、もう、討伐するしかないわよ…」と蛍が、腰のメノコマキリに手を置きながら言う。「でもさすがにこのクラスの神殺しは、ママでも難しいと思うの……」
「いや、別にコロさなくてもいいけど…」と紬は言い、マスクのずれを直した。
「メイカ!あんたのせいだからね!」と蛍が小声で責任を転嫁する。「……ったく。もうこうなったらパッパと部屋を片付けてどう逃げるか考えましょ。あといつまでもその格好じゃマズいでしょ。ノーパンはさすがにコンプラ違反よ。…て、コンプラって何だっけ?紬?これ使い方あってる?」
「合ってるんじゃない?きっと金比羅様はパンツを履くことを推奨しているわ……」
「ほれ、メイカっち、そこに使ってない紙オムツが残ってるわよ。ひとまずそれでも履いてなさい。」
「ばぶー」愛衣花・エル・ターナーはそう鳴くと、畳の上に横倒しになったビニールパックに近付いていった。




