第一話 がしゃどくろちゃん
昔――
彼は“恐怖”だった。
大型遊園地のお化け屋敷、その入口。
来園した子供たちを最初に絶望させる存在。
巨大な骸骨モニュメント。
泣き叫ぶ童。
逃げ出す親。
写真すら撮れずに通り過ぎる人々。
それが誇りだった。
「フフ……今日もよく泣いた」
がしゃどくろは満足していた。
ちなみにSNSもやっている。
アカウント名:がしゃどくろ
フォロワー:3人
そして現在。
「……終わったな」
遊園地は、不況で閉鎖された。
彼は撤去されることなく、
なぜか近所の寂れた公園に移設された。
通称――おばけ公園。
「来い……童よ……恐怖を味わえ……」
日中。
子供が来た。
「ママー!これ見てー!」
「でっかいガイコツー!」
登る。
座る。
笑う。
「はいチーズ!」
ピース。
満面の笑顔。
「……なぜだ」
恐怖の象徴だったはずが、完全に遊具扱いだった。
隣には、かつての同僚。
ぬりかべがいた。
「お前もか……」
ぬりかべの顔には、丸い穴が開けられていた。
後ろから子供が顔を出して
「ばあ!」
「きゃはは!」
記念撮影。
「尊厳が……ない」
「ないな」
夜。
公園は静まり返る。
がしゃどくろは空を見上げた。
「このままでは終われぬ」
彼の中の“恐怖”が、まだ生きていた。
ある夜。
計画は実行された。
「配置完了……」
公園のあちこちに、青白い人魂がふわふわと浮かぶ。
「これで童どもは震え上がる」
スマホを構える。
SNS用だ。
しかし。
その日は
町内の花火大会だった。
ドンッ!!
夜空に大輪の花が咲く。
赤、青、金。
そしてその下で。
人魂が、ふわふわ揺れる。
「……ん?」
人が来た。
どんどん来た。
スマホを向ける。
「なにこれ、エモ!」
「めっちゃ綺麗!」
「人魂と花火、最高じゃん!」
「……は?」
気づけば。
公園は人で埋まっていた。
カップル。
家族連れ。
インフルエンサーっぽい人。
全員、笑顔。
「怖がれ!!」
叫んだが、誰にも届かない。
投稿された写真。
“#おばけ公園”
“#人魂映え”
“#夏の奇跡”
バズった。
翌朝。
がしゃどくろは震える手でスマホを見た。
フォロワー:1503人
「増えすぎでは?」
通知が止まらない。
いいね。
コメント。
フォロー。
コメント:
・ここどこ!?
・行きたい!
・怖いのに綺麗って何!?
・がしゃどくろちゃん可愛い
「……可愛い?」
数日後。
雑誌の取材が来た。
「“癒し系ホラースポット”として話題なんです!」
「癒しではない」
写真を撮られる。
なぜかポーズ指定される。
「もう少し優しい感じで!」
「優しさとは」
記事掲載。
さらにバズる。
フォロワー:1500 → 2200 → 3100
そして、現在。
がしゃどくろは夜の公園でつぶやく。
「目標は、、、3500」
隣でぬりかべが言った。
「何を目指しているんだ、お前は」
少しだけ、間があって。
「……影響力だ」
今日も。
童たちは笑いながら登る。
人魂は、ふわふわと揺れる。
花火はもうない。
それでも人は来る。
恐怖は、もうない。
でも――
誰かが、少しだけ楽しい夜を過ごしている。
がしゃどくろは、小さくつぶやいた。
「……まあ、悪くない」
フォロワー:3521人
コメント:怖くないけど、また行きたい
少しだけ、間があって。
「……次は5000だな」
「……それでいいのか?」
「なりたい自分と、求められる自分は、同じとは限らないのかもしれません。」




