少年になる。(15)
次に目を覚ますと、目の前に茶色と桜色の混じったものがジャックの頬をなでる。その真ん中で丸々と開かれた目がジャックとバッチリ合うと、ぱっと明るくなり、視界が開ける。
「ママー!ジャックおきたー!」
妹のアンナがマリーの元へと駆けていく。その背を視線だけで追うと、我が家の見慣れたテーブルに腰を下ろす見慣れない四人組とプラスα。
その中のプラスαがソファに寝かされるジャックに近づき、髪をガシガシと頭ごと乱暴に揺さぶる。
「…やめてよ、父さん…。頭がクラクラする…」
「おお?そうかぁ?」
ハハハと豪快に笑いながらもジャックの頭を揺さぶる手を止める気配のないこの人はジャックの父であるヨハンだ。筋骨隆々というわけではないが、しなやかな筋肉を全身にまとい、青い短髪をしている。その髪は普段は深い青だが時々澄んだ泉のようにキラキラとする。この人物こそ、マリーに惚れ込み、家まで建て、狩猟採集、畑仕事何でもござれの超人である。満を持しての登場だ。
その後ろから、かの四人衆の後ろの一人から声がかかる。
「しっかし、ヨハンの息子だとは思わなかったなー。」
その中の銀髪の女性が近づいてきて、ジャックの顔をまじまじと見つめる。彼女の瞳の中にいる自分が見える位にそれはもう近くまで顔を近づけられる。
「確かに言われてみれば似ているような気もする…、ん、瞳の色が同じ。黒に緑が入ってる。」
満足したのか、その瞳がジャックから離れていく。なんだかドギマギした。
「魔力はヨハンさんとジャックくんとても似ていましたから、治療の段階で気がつきました。」
そう口にするのは、貴族だったらこうだろうを体現した様子の濃紺のローブを着た青年。
「…ん」
椅子に座った状態でもなお、その彼の背中に隠れるようにしている真っ黒な男がその言葉に同意するようにわずかに顎を引く。明るい場所で改めてみれば、ほかの三人よりもいくらか若そうである。
「俺は魔法使うとき、感覚でやってるから、そういうの苦手だなぁ」
「感覚で出来るのが考えられないんですよ…。まあ出来てしまえばそれで良いのですが。」
ジャックは再び父に視線を向ける。ヨハンとこの四人はどうやら知り合いのようだということは理解できた。
「父さん、この人達とどういう知り合いなの?というか、そもそも誰?」
遮られ続けていた疑問をようやく最後まで口に出す。
「ん?なんだ、まだ知らなかったのか?こいつらは俺が昔一緒に旅をしていた頃の仲間だよ。」
「父さん、冒険者だったの?!なんで言ってくれなかったんだよ!!」
ジャックは思わず身を起こす。
「いやー冒険者って訳じゃないんだ。俺がこいつらのパーティーにくっついて行っただけって言うか…」
やけに歯切れの悪い回答だ。それを茶化すようにワインレッドの彼が口を挟む。
「おまえの父ちゃんな、元々俺たちのパーティーに依頼をしたお貴族様の息子だったんだよ。依頼が終わった後に妙にコソコソ付いてくるやつがいるなーって縛り上げたらこいつだったわけ。家出してきたから一緒に連れて行けってな!でもお貴族様だろ?さすがに勝手に連れて行く訳にもいかないから、もう一回こいつの家に行ったら、両親ともに乗り気になっちゃってさ、貴族学校に行くまでならって引き受けたんだよ。」
「でも、ヨハンさん、この村に以前立ち寄った際に、マリーさんと出会われて…。そこからはジャックくんの知るとおりです。」
にこやかに笑うローブの彼は親が子を見る目をしていた。
「それはそうと、自己紹介がまだでしたね。私はレイモンド。私も貴族出身ですが、お家が取り潰しの目に遭いまして、今はこうして魔術師として旅をしています。」
「俺はサイモンだ!よろしくな。んー自己紹介って言ってもなぁ。俺は元々平民だし、親もよくわからない。たまたま剣を教えてもらって、レイモンドに魔術教えてもらってって感じだな。」
「そちらの銀髪の女性は、シルビアです。彼女は元々うちの従者をしていたのですが、お家がなくなった際に私に付いてくることとなりまして、今に至ります。」
ぬっとシルビアが手を差し出してくる。ジャックはおずおずとその手を握ると、ずいと身体を近づける。
「レイモンド様に余計なことしたら、タダじゃおかない。」
何これ怖い。距離の詰め方といい、脅し方といい。前世では主人にだけデレるツンデレ美少女は大変おいしいものであったが、デレられない側に向けられる、狂気に近い忠誠から来る闇を今思い知った。
「そんでこの影みたいなのはルカ。あんましゃべんないから詳しいことはわからないんだけど、俺たちが助けたときに、やたらべったり懐かれたもんだから、そのまま連れてきた。」
ルカは視線だけこちらによこす。一瞬殺気を感じた気がしたが、気のせいだろう。そう信じたい。この人、絶対元暗殺者とかだ。
その雰囲気に押されつつもジャックはとあることを口にする。
「父さん、それに、皆さん、俺、魔法使いになりたいんだ。一緒に連れて行ってくれないか?」
みんな少し驚いた様子であったが、三名はニコニコとするようにこちらをみるが、二名から、は?というようなゴミを見るような視線をいただいた。その視線がもう刺さる刺さる。
「俺も似たようなもんだから、俺は反対しないけど、マリーがどう言うかだなあ。」
形勢逆転である。キッチンから感じる見えない視線に負けたらしい。父さんは母さんに頭が上がらないのである。
チッ、どこの世界でも似たような家庭内カーストが存在するのか。そんなことを思いながらもジャックは言葉を続ける。
「でも、俺、戦える様になってるんだ。そのために身体も鍛えてるし、ライから狩猟のやり方も教わったりしたんだ。それに、フィルと協力して、攻撃用の道具なんかも作れるようになった。」
「荒いところはあっても、悪くない身体の動かし方だったな!」
「確かに、ワイバーン相手に、少しの間応戦できていましたね。そうですね、サイモン、連れて行っても問題はないと思いますが…」
よっし。年長者二人のお墨付きゲット。いやな顔をしている二人も、この人達の言うことは受け入れるだろう。
「だめよ。ジャック。許しません。」
エプロンで手を拭きながらそう言ってマリーが出てくる。ヨハンがゆっくりと隅の方に移動したのをジャックは見逃さなかった。




