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ずっと一緒にいてください

「実雅様!あやめ様がね――」


またもや三日空けてやってきた実雅様に勢いよく報告しようとしたら——。


「三日ぶりに会ったのに、あやめ? 」

「はい――?」

「俺よりあやめと仲良くなった?」


なぜか突然ジャブを繰り出してきた。


(なんだなんだ?)


妙な流し目を寄越すので怯んでしまう。

どうしたんだろう、突然。


実雅様とあやめ様、どっちと仲良しかと聞かれたら、残念ながら大差ない。

そんなことでいいのか、小霧。


思わず自分に問いかけていると、彼の手が伸びてきてそっと頬に触れた。


「今日は元気そうだね」

「え?はい元気です——」


(あ、こないだ弱ってたから……?)


恥ずかしくなってちょっと顎を引くと、すぐ手は離れていった。


「えーと。来てくださってありがとうございます。お待ちしておりました」

「なに、今度は急に他人行儀だね」


また三日ぶりだし、実雅様がどこでどうしてるのかよくわからない。

でもそれより問題は、笛ばっかりの自分なんじゃないかなって。


で、笛じゃなくって妻をがんばろうと思って――。


(まずは楽しさをシェアしようとしたんだけど……)


今日のこの波状攻撃は何だろう?


「かしこまって何かあった?」

「いえ、妻として、ちゃんとしなきゃと思いまして」

「”つま”——?」


実雅様は一瞬ぽかんとして、次の瞬間吹き出した。


「ははっ。妻って意識あったんだ」


え、やっぱ笛と思われてた?いやいや違う、妻だよね!


「あります!!」

「へー」

「え……」


実雅様がいざり寄ってきてくっついて来ようとする。

息がかかりそうな距離でいい匂いがして、思わず身を引いてしまう。


「へー」

「あ……」


今度は背を逸らして私を見下ろした。


(しまった。反射的に……)


「ははっ。失格!」

「だって……!」


脇息にもたれ、おかしそうにクスクス笑っている。


今の、ぜったい反則だよね?




実雅様に頼らず山盛りの文を捌くことにも少し慣れてきた。


ある日の出張コンサートの後、秋成様と親房様に透子様のことを報告した。

ちなみにこの日の私も花の牛車で登場だ。

普通の牛車に乗るのはもう諦めた方がいいみたい。


「んじゃ次は山吹の宮様のとこ?」

「うん、一度お伺いして、4人で合わせてみようよ」


透子様を思い出して、思わず熱が入ってしまう。


「透子様ってね。すっっっごく素敵な方なんだよ! 絶対好きになっちゃうから!」


いきなり会うとびっくりして大変なことになるかもしれないから言っとかなきゃ。


「おま、バカだな。好きになってどうすんだよ」

「そういうんじゃなくってね。キレイでやさしくって光ってて……」


ダメだ、これじゃあ全然伝わらない。事前告知なしじゃ危険レベルの尊さなのに――。


「……まぁ会えばわかるよ」


会ってからわかっても遅いかもしれないけど……。


「心構えはしてきてね?」

「ははっ、なんだそれ」

「わかった」


親房様は鼻で笑って、秋成様は神妙な顔をして頷いた。


警告はしたよね?大丈夫かな……。





「……」


(ほら、やっぱり)


親房様は固まってしまって、さっきから一言も発しない。

もちろん御簾越しだけど、それでも後光の射すような透子様の優雅な気配に呆然としている。


「わたくしでお力になれるかしら」

「いやっ、そんな恐れ多いというか……」


耳まで真っ赤になってしどろもどろに返事をする。


(こいつ……初々しいにもほどがある)


初めて見る友人の純情に、頬の緩みが抑えられない。

対照的に、秋成様はまったくいつも通りだ。


(あっきーは、そうだよね。透子様とある意味、同じ属性だから……)


このままじゃ親房様が透子様の光で灰になっちゃう。

どうにかしなきゃ。


「えーと……じゃあ、試しに一回に合わせてみようよ!」




透子様の指先から生まれる音は、別世界のものだった。

これまで三人で奏でていた空間が、新しいものに形を変える。

まるで二次元だったのが三次元になったみたいに。


私たちが鳴らし続ける響きの上に下に、やわらかに音が刻まれていく。


透子様は私たちの音の波間で弾んでみせては、新しい言葉で新しい意味を紡ぎ続ける。

自由自在に飛び跳ねてるのに、一粒一粒の音がすべて、私たちを支えてくれてた。



「ふふ。楽しいですね」


弾き終えると、透子様はかわいらしく笑った。


「透子様……わたし、わたし……!」

「小霧、落ち着いて」


世界が変わった一大事に落ち着いてなんていられない。

透子様の音は、私をもっと遠くへ連れて行く。


「あっき~!感動で爆発しそうだよ!!」

「お前、大げさすぎ」

「だって!こんなことってある?」


にこにこと微笑んでいる透子様に向き直り、縋りつく勢いで言った。


「透子様!!ずっと……ずっと一緒にいてくれますか?」

「ふっ、プロポーズじゃん」


思わず秋成様が吹き出した。


「わたくしでいいなら喜んで」

「透子様がいいんですっ……!」

「……暑苦し」


親房様が呆れたようにささやいた。



今の透子様の返事、聞いたよね? 私、ちゃんと言質取ったから。


透子様はもうぜったい離さないんだから——!




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