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巻き込んだ側ですが転がされてます

陸奥(むつ)……とは、えっと。青森県?ではなく、東国の果て、ですかね」

「そうなの!小霧ちゃん!こんな急に、どうしましょう。母様も一緒に行こうかしら?ねぇ。寂しいわ」


父が突然、陸奥守(むつのかみ)として赴任することになったという。


(陸奥って確か、砂金も採れるけっこうな大国では……?父様大丈夫かしら)


半泣き状態で取り乱す母を、父がのんびりなだめている。


「まぁまぁ、落ち着いて。今生の別れではないんだから」


高速道路も新幹線もないこの世界で、京から陸奥は果てしなく遠い。母の気持ちもわからなくはない。

とはいえ、おっとりお嬢様育ちの母がそんな長旅をし、さらに東国の果てで数年間暮らすのは、難しいように思える。

弟も同じように考えたのだろう。母の東国同伴を阻止すべくやんわり言う。


「母上まで一緒に行っちゃったら、僕も姉さんも寂しいよ」

「……そうよね。小霧ちゃんは結婚したばかりだもの、一緒に行けないし……。わかりました。子供たちとしっかり留守をお守りします」


父がほっとしたような、少し寂しいような顔をする。


「でも、寂しいわ……」


一瞬キリっとしたものの、次の瞬間にはまた目を潤ませ、少女のように寂しがる母をどうにか励まさないとと、私はない知恵を絞った。


「そ、そうだ!出立前に送別会、出立の宴をしましょう!東国の果てとはいえ、陸奥守だなんて栄転だもの!盛大にお祝いしなくちゃ!」

「出立の、宴……?」

「……」


母の期待に満ちた眼差しとは対照的に、弟はげんなりした顔を見せた。



そんな面倒そうな顔しなくたっていいじゃん。



***



「でね!そこで太鼓がずんってなってね!!」


思い出すとどうしても興奮して語彙がどこかへ行ってしまうのを許してほしい。


いつものように我が家にやってきた秋成様・親房様に、先日のあやめ様との声明ライブを絶賛報告中だ。


「わかったわかった。すごかったな」

「ちか、バカにしてるでしょ」

「してねーよ。アレだろ、雲鱗寺っつったら有名な寺じゃん。最近おっさん連中も手玉に取ってるって聞く」


口が悪い。"おっさん”ってたぶん大臣クラスの公卿連中を言ってるに違いない。


「へー!そうなんだ。確かにただ者じゃないよね。推しグッズとかリピーター戦略とか…」

「りぴー?何ソレ」

「いや、あやめ様もなかなかのめり込んでらっしゃったしね」

「でも実際法会はすごいらしいよね」

「あっきーも知ってるの?」

「うん、父から聞いたことある」


そこへ、いつものように鳥籠を抱えた弟が顔を出す。


「姉さん、お二人にちゃんと話してくれた?」

「あ、忘れてた」

「……」


弟が出かかった溜息を吸い込んだ。


(ポンコツでごめんね!)


***


「へぇ。陸奥守って、良かったじゃん。それは盛大に見送らないとな」

「だね」

「ありがとう!我が家の事情に巻き込んじゃってごめんね。やっぱり宴に管弦があると全然違うし。協力してもらえると嬉しい」

「尚、宴の準備なんて大変だね。管弦以外でも何かできることあったら言って」


優しく声をかける秋成様に、悲壮感を漂わせた弟が縋りつく。


「秋成様ありがとうございます!!姉さんの暴走を止めてもらえたら僕それで……」

「はっ、ちげえねぇ」

「人聞きが悪いなぁ!暴走なんて、したことないじゃん」

「どの口が言ってんだよ」

「ちかには言われたくないよー」


子供のように言い合いをしていると、突然背後から思わぬ声がかかった。


「盛り上がってるね」

「実雅様……!」

「ただいま、小霧。父上の宴の相談?」


(た、ただいまって言った?小霧って言った?一回も言ったことないのに、なに⁈)


私の動揺をよそに、弟は助かったというような顔をする。

ずいぶん頼りにしてる風だ。


「姉さんが管弦を入れたいって言うんで、お二人にお願いしてたんです」

「いいね。尚も、舞とかどう?」


(無茶ぶりしてない——?)


「前に一度見たけど、割と得意だよね。俺も入るから一緒に、二人舞で」

「あ、それなら……」


二人と聞いて、弟もパッと表情を明るくした。


(実雅様と尚の二人舞……。見たいかも……)


「一緒に練習しよう。小霧たちも」


いつの間にか実雅様のリードで、準備の段取りや招待客への連絡、当日の流れなど、宴の大まかなことが決められていった。

あとは家人や、それぞれ持ち場の人間にふるだけだ。



まさか実雅様がここまでしてくれるなんて。

気付けばいつも実雅様の手の上で、家族まとめて転がされている。それに気付いてはいるんだけど——。


こんなの、抗いようがなくない?









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