表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/79

50話 族長


 魔族の道を、悠然と歩いてきたのは、青い肌の女性でした。青い肌に、青い髪。そして、額についた、3つ目の瞳以外は、人に近い形です。なので、相手は魔族だと言うのに、私たちを囲んでいる牛顔の魔族よりは、親近感を感じます。それに、凄い美人さんです。顔はスラリとした形で、鼻は高く、青い肌もキレイです。髪の毛には、前髪の一部を編み込み、そこに金色の花形の装飾品を付けたりして、凄くお洒落で、可愛いと思います。身長は、レストさんと同じくらいでしょうか。私よりは高いですけど、そこまで高くはありません。長身で、スラリとした美人さんと言った感じですね。ただ、普通の位置についた目は、切れ長でカッコイイ目なんですが、額の目が金色に輝いている上に、ギョロギョロしていて、正直ちょっとだけ気持ちが悪いです。


「久しい、か。人にとっては、たった一年ですら、そう感じてしまうものなのだな」


 気づけば、レストさんの登場により、ざわついていた魔族が、静まり返っていました。皆、この魔族の言葉を遮らないよう、静まり返っているのです。


「そうですよー。一年という時は、人にとって貴重な物なんです」


 魔族の寿命は、長い者だと数百年だと聞きます。エルフ族も長命ですが、人とは寿命からして、根本的に違う生き物なんです。

 だから、人の一部には、魔族やエルフのような、年老いもせずに長命な生き物に憧れて、彼らの血や肉で色々としようとする人もいるんですよね。当然、そんな事はできません。先程も言いましたが、人と彼らは、作りが根本的に、違うんです。


「……分かった。それで、そちらの人間のメスだが。先ほど、彼の国の姫だと言っていたな。様子から察するに、私たちと争いに来た訳でも、人質として差し出しに来た訳でもあるまい」

「違いますよー。グレアちゃんは、エルシェフとお話がしたくて、来たんです」

「え」


 レストさんに、急にそう言われて、私は思わず素で言ってしまいました。


「え。て言ってるが。それに、そちらにいる、もう一人の──」

「しー!しー、です!」


 レストさんが、慌てて彼女に詰め寄り、口に人差し指をあて、黙るように促しました。完全に、何かを隠していますね。この魔族の女性は、そんなレストさんが隠したい事に、気づいたようです。私には、残念ながら、それが何かは分かりません。


「分かった、分かった。それで、話とは?こう見えても、私たちはもうじき、戦闘を開始するところなのだ。手短に頼むぞ」

「ほら、グレアちゃん」

「……」


 私は、レストさんに促されて、魔族の女性の近づきます。間近で見ると、更にキレイな女性です。ただ、その美貌以上に、とてつもない威圧感を感じます。まるで、お城の壁の前にいるような、そんな重圧と、圧倒的な高さを感じさせられるのです。


「わ、私は……私は、グレア・モース・キールファクト。キールファクト王国国王の、三女です」


 そんな壁に向かい、私は勇気を振り絞り、自己紹介をしました。

 身長だけ見れば、私の親兄弟の方が高いです。だから、臆する必要なんて、ありません。でも、やっぱり高いです。お母様よりも、遥かに、ずっと……。


「私は、ファラ族族長。エルシェフ・エシェルノア。この軍の、最高指揮官であり、この辺りの魔族の長を務める者だ」


 この人が、族長……。人間でいえば、相手の国王と対峙しているようなものですね。彼女が、遥かな高い壁に見えるのは、そんな階級の高さから来る物でした。私のような、一国の三女が、気軽に対話をしていいような相手では、ありません。


「し、失礼致しました!」

「いや、いい。今は、格式に捉われる必要は、ない。何故なら私たちは、敵同士なのだからな」


 私が、跪こうとしたのを、彼女は止めてきました。敵同士……確かに、その通りですね。なら、遠慮をする必要はありません。


「良い目になった。怯える子羊が、餌を求める子羊くらいになったかな」


 よく分からない例えをされますが、バカにされている事は確かでのようですね。


「それで、グレアよ。敵である私に、何の話があるのか、言ってみろ。つまらん話だったら、ミストレストと共に、このオス達の慰み者にでもなってもらうぞ」

「……」


 周囲の牛顔の魔族を見て、私はゾッとします。誰も色めき立っている者はいませんが、とてもじゃないですけど、相手をできるような体格ではありません。

 そもそも、私はともかくとして、レストさんを巻き込むのはよしてください。レストさんはただ、私の我儘を聞き入れてくれただけなんですから。


「つまらない話など、するつもりはありません。私は、戦いを止めるためにきました!」

「戦いを、止めるだと?グレア、とか言ったな。本気で言っているのか?」

「はい。私は、本気ですよ。エルシェフ」


 名前を呼び捨てにされたので、私も呼び捨てにして、返しました。内心、凄く怖かったです。言った瞬間、殴られるんじゃないかと、思いました。でも、敵同士なんですし、別に構いませんよね。


「本気?私には、子供がおふざけで言っているようにしか、見えないが」

「本気ですっ」

「言っておくが、この戦いには大義がある。お前も、知っているのだろう?森に住まう、聖なる存在。妖精族が、あの国の手先に何名も浚われ、行方不明になっている。その後の足取りは不明だが、彼女たちがあそこでどのような目に合わされているか、聞かずともわかる。妖精が、泣いて、叫んでいるのが聞こえるのだ。大地を、風を震わせ、その泣き声は私に届き、しきりに助けてと訴えてくる。いいか。お前たち人間は、私たちの逆鱗に触れたのだ。戦いを止めろと言うのなら、まずは妖精を解放しろ。それから、一人残らず、最大限の苦痛を与えてから、殺してやる。当然、お前もだ。お姫様」


 エルシェフは、私を殺気の籠もった目で睨みつけてきて、そう宣告してきました。その、あまりの迫力に、自然と、身体が震えだします。

 エルシェフの台詞に、周囲の魔族が沸き立ち、雄叫びを上げました。

 私は、何も言い返せず、ただ震えて、呆然としてしまいました。何も、言う事は許されない。何も、できない。敵国の王を前にして、私はただ、恐怖したのです。


「姫様。しっかりしてください。ここで諦めたら、全てが無駄になってしまいます」


 雄叫びの中で、オリアナの声が、聞こえました気がしました。すぐに、周囲を見渡しますが、しかしどこにもオリアナの姿はありません。そもそも、こんな所にいる訳がないです。それじゃあ、聞き間違えだったのでしょうか。


「分かってますよ……妖精が、苦しんでいる事は、分かっています!だけど、その代わりに貴方たちが傷ついて、何になるっていうんですか!」

「……」


 私は、聞こえてきたオリアナの声をバネにして、叫ぶように、言いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ