8【蛇足】姫様と毒をさえずる小鳥
胸糞悪い展開で、残酷な描写ありです。面白系(?)で終了したい方は、読まない方が良いと思われます。
《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、今、目の前には隣国の国王陛下と王妃陛下が主催した茶会へ参加中の姫さまが、豪奢な金髪を輝かせ美しい微笑みを見せながら、かの国では言ってはいけない言葉を、国王夫妻と近衛騎士2人と数名の侍女たちの前で仰った……
「夫婦の閨を他人に見せるとは、下品極まりないですわね」
親善と言う名のお見合旅いであろう事は明白。なのに、かの国のしきたりを話したのに全否定。かの国では嫁に処女性を求めず、結婚適齢期になると必ず愛と出産の神の神殿にて、性技の指導を受けなければならない
これにはちゃんと理由があって、血を重んじる為に権力をかさに着て無理矢理事をなし、結果祝福されない出産を憂えた愛と出産の神様が、自らの娘達に愛と技術を説き、不幸な出産を無くすようにと仰ったからであって……と第2席上級女官が何度も言ったのに
あいもかわらず、いい仕事をする姫さまだ
外から見たら卑猥、そして内情はもっとドロドロとしている。父は息子の嫁と交わり、息子は神官と乱交する。時には夫婦に神官を交えて悦をえていると、私がさえずった通りに姫さまは記憶する
『未来の女王たるもの、物事の真理を見通さなければならない』と
隣国の国王陛下は壮絶なる黒い笑みを見せて、姫さまに最後通牒を叩きつける
「確かに秘め事ですから、他人に見られるのは恥ずかしいでしょう」
「恥ずかしいではなく、破廉恥だと言っています。神官たるもの不特定多数の男と関係するなんて、ただの売女ではないか!!女として最低だと、王妃陛下もそう思いにはなりません?」
「……」
王妃陛下は真っ青な顔をしながらも、笑顔をたもっている。さすが先代国王の王女にして当代の王妃陛下と言わざるを得ない。王妃陛下は、先代国王と上級神官との間に産まれた『神に望まれた子』として有名なのに
震える王妃陛下の手をそっと握りしめ、当代国王陛下は言う
「神官の定義は神それぞれでしょう。姫君、貴女はすぐさまこの国を出た方が良い。人の考えはいろいろあります、しかし口に出してしまった以上、飲み込むことは出来ないのですよ」
近衛騎士に姫様の御退室の準備を命じ、自室へ帰ろうとする。姫様は高貴な自分に失礼なふるまいだと思ったのだろう、大声で国王陛下を罵った高貴な方のとても下品な言葉だった。あぁ、面白い
さすが、姫さまは私が見込んだ傲慢姫
私は《3の国》の中の独立都市として存在する魔術師の街に生を受けた。魔術師とは、《3の国》のなかでも珍しい種族だと思っている。王族の様に稀少で、貴族のように気位が高く、騎士のように強い。魔力の高い者は魔術師か神官の道を歩むこととなる。私は人に奉仕する神官ではなく、真理を追究する魔術師を選んだ
真理を追究する魔術師と言っても人に奉仕するものもいるが、私は奉仕なんておぞましい。自らの欲求の為に自らの力を磨く
魔術師とはいえまだ子供だった私は、好奇心に従って転移を繰り返した。そして警備が厚いはずの王城の中へと侵入し、そこに大きな扉の前で間抜け面で立っている子供の頃の姫さまに出会った
「どうかなさいましたか?」
姿を若い侍女へと変える。本来身分の低い者が高い者へと声をかけるのはマナー違反だと聞いたのだが、間抜けな姫さまは気が付かないようだ
「お祖母さま、中にいるの」と言うと扉を見つめる。この時点でお祖母さまという年齢の王族は1人だけ、最近退位した元女王だけだ。それにしてもこの姫さまは何故1人でぽつんと立っているのだろうか?ちょっと頭の温い子なのだろうか?
「貴人にお会いするためには、まずは先触れを出す決まりです。御身がお孫様とはいえ、社交デビューをはたしていない今、気軽にお会いできる方ではありません」
「でも……」
「未来の女王陛下、今は戻りましょう」
「女王……、わたくしが女王?」
たしか王太子がいるはずだが、ここは持ち上げておこうとわざと大好きなお祖母さまと同じ称号で呼ぶ。これは面白い素材かもしれない、人はどれだけ傲慢になれるのか……実験してみよう。そう思って言葉を紡ごうとした時、誰かがやってくる気配がしたので、とっさに小鳥へと姿を変え姫さまの肩へ
「姫様、こちらへお出ででいらっしゃいましたか。教授方がもういらしております、何卒お急ぎを……」
「……わかっている」
『女王に意見するなんて、婢としてなっていない娘だわ。女王を侮っているのね、キョウジュなんて待たせておけばいいのに。女王に拝謁できるだけでも感謝しなければならないのに』
「……そうよ、そうだわ」
学友であろうどこかのご令嬢は、その場に立ち尽くしブツブツと何かを言っている姫さまを不審に思い声をかけるが、姫さまは返事もせずに歩きはじめる。私は姫さまにしか見えない小鳥となって、傲慢の毒をさえずり続ける
思春期を迎え、男に興味を示し出す姫さま。女王の側に侍るのは高位貴族の男子としては、最高の誉れであると。なのに声をかけてやった公爵家令息は、あの学友のご令嬢が良いという……血を分けた兄妹でありながら。学友のご令嬢は公爵家ご令嬢だったらしい、なるほど立ち振る舞いが完璧なのもうなずける
『女王を侮辱した罰として、あの婢はボロボロになるまで使っておやりなさい、そして捨ててしまえ』
「そうね、兄妹でなんて汚らわしい……汚らわしいわ」
実際は妹の方が可憐で聡明な優しい娘だという事を言いたかっただろう少年。君の気持はとてもわかるわ、私が言わずとも勉強はしないし、思いやりにも欠けている空気も読めない姫さまなのだから
そして王宮の男ども、と言っても下級侍従・騎士・兵士たちのちょっとしたお遊び。誰をお嫁さんにしたいかなんて投票しているそうだ。どうやら1番は姫さまの側付……たしか第2席上級女官という役職の伯爵令嬢。下級使用人たちとしては憧れのご令嬢という事で、伯爵家から選んだのだろう。公爵・侯爵家は恐れ多いだろうし
『男漁りにお忙しい第2席は、男にうつつを抜かして媚を売って、ちやほやされているわ。とんだ阿婆擦れね』
「そうね、そんなに暇ならばもっと私に奉仕しなければいけないのに……。下級の男どもに媚を売って……」
実際は全く暇じゃない、かわいそうな第2席。嫌がって授業をすっぽかす姫さまの為に、時間調整に奔走していてとても忙しいのに
そしてセンスのない姫さまは、センスのない服を着る貧乏子爵家令嬢にご立腹。この子爵家令嬢のドレスは貸衣装、貧乏だから本人も仕方がないと微妙なドレスを恥ずかしがっているのに。その貸衣装を気に入る姫さまは流行ってモノを理解していないにも程があるわ。さすが私の見込んだ姫さま
『この国の女性の頂点に立つ姫さまを馬鹿にする愚かな娘ね、恥をかかせるなんて臣下としてなっていないわ』
「そう、臣下の癖に……」
姫さまの使用人の内、特に嫌いなのはこの3人の様だ。この3人の嘘っぱちな毒をさえずり続け、とうとう爆発した姫さまのお見合い旅行。最初は伯爵家令嬢が、姫さまの無礼の賠償として他国に売られた。そして子爵家令嬢は自ら飛び出したのを幸いに解雇した。そして公爵家令嬢は走る馬車から突き落とされ、捨てられたのだ
姫さまが最も嫌っていた3人のご令嬢は、姫さまと縁が切れた事でそれぞれの幸せを掴んだなんて相当な皮肉
これ以上のショーはなかなかないわ!!
これ以降、他国に恥をさらした傲慢姫は奥宮で飼い殺し。奥宮から出る事は叶わない身の上となる。しかし優しい私は姫さまに、楽しい楽しい時間を提供するのに夢中となっている
小鳥の姿から侍女の姿へと変え、愚かな貴族令息を姫さまの閨へと導く。女王様のようにご奉仕すれば、大金が転がりこむと。幽閉生活で見た目も醜くなった姫さまを抱くのは苦痛かもしれないが、金にはかえられないと言う愚かな男どもを厳選して贈る。あっという間に悦楽の虜となった姫さまは、奥宮の女王として君臨している……気になっているのだ
「おイタが過ぎるわ、お嬢ちゃん」
「……神の下僕がわざわざ来て下さったとは、いや、貴女が神本人なのかな?」
「ざ・ん・ね・ん、私は大神官の位を賜る『神の娘』よ、知っているでしょう」
黒髪の肉感的な女はそう言い、艶やかな笑みを浮かべながらも、瞳は冷たい光を宿していた。隣に立つ黄金色の髪のスレンダーな女も見かけに似合わない重々しい口調で言った
「王族を悪戯に枯れさせるなど、役割の範囲を超えている。まぁ、本人にも問題があるから不問にしようかと思ったのだが。やりすぎたのだ」
黒髪の女と黄金色の髪の女。まさか『愛』を冠する『神の娘』がわざわざ出向いてくるとは……、2人は神官でありながら魔術師でもある。自分よりも長い時を生きているバケモノ達
「祝福されずに殺される出産に、我が神はお怒りなのよ」
「他国の事なのに?ずいぶん心が広いのねぇ……」
「他国の事だからその国の民にと言っていられないほど、お嬢ちゃんの力は大きくなってしまったのよ。もっと違う使い方があったでしょう。それで何人目?」
「我らをも超える魔術師となれたのかもしれぬが、もうお遊びの時間はお終い。過ぎた罪は魔術師たる我らが刈り取ろう」
私の腕の中には姫さまの産んだ何人目かの姫君。いつものように処分しようとしていたのだが、そろそろ閉幕の時間らしい。この子は造園中の庭に生き埋めにしようとしていたんだけどな、美しい薔薇の下には醜い姫さまの落とし胤が埋まっている……とても詩的でしょう!!
「お嬢ちゃんに対して何が罰になるのかと考えたのだけど」
「魔力を奪っても、記憶を奪っても、たいした罰にはならなそうだ」
「だから魔力も記憶も奪わない」
「奪うのは『立場』『役割』。そして『行使できない力』を与えよう」
暗転
気が付くと寝台の上、体は年老いて力が入らない状態だ
今の私には2つの人生の記憶がある。1つは《3の国》に魔術師として生まれ、ある国の姫さまを枯れさせ『神の娘達』に断罪された記憶。もう1つは《4の国》に生まれ、普通の人生を送り老いて寝たきりとなった人生、今のこの状況の記憶
《4の国》でも魔力を失わなかった私だがこの国では何もできない。守護女神の違う国では、そもそも《3の国》の魔力は消えてしまうはずなのに。『神の娘達』の言うように消えなかった、しかしまったく意味のないモノ。下手に昔の記憶があるせいで、この国になじめず結局1人
魔力があればなんとかなると《3の国》へ行こうとしたが、国境へ近づくことも出来なかった。使えない膨大な魔力がかの国に反発してしまって足が動かないのだ。遠くに見えるのは医療大国と呼ばれた国だ、昔々幼い頃に好奇心に従って転移を繰り返した時に訪れた事があるあの草原。知らず涙を流しながら思う、昔は力があったからこそ、1人でも平気だった
でも今は……使えない力に押しつぶされている
近くて遠い4つの世界。大地は大きな大きな輪の形をしていて、それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している。その中の《4の国》は欲と機械の国、科学が発達した国で、仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない危うい国という
溺れるほどの無駄な魔力を内包しながら、まったく”力”に溺れることができない、乾いた人生の中にいた。
まれに高位貴族の中に歪んだ人が出てきて、それを正すシステムが脆弱な国。基本的にこの国、あまり神様を身近に感じていないのです。ギフト持ちも少ないと言う設定。おそらく駄目夫神がサブでついていたのでしょう、今どこへ行ったのか、何を司っていたのかすら忘れ去られています。まぁ、裏設定なのでそんな事知らなくてもおっけーなのです。
読んでくださって、ありがとうございました。胸糞で申し訳ありませんでした。