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実験台の女騎 ――赤い夢の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 命の価値 ――連合軍・パスリュー本部――
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第18話 壊すこと、殺すことだけ

 私はガンシップの中でうずくまっていた。体がバラバラになりそうなほどの痛み。口から絶えず吐き散る血。苦しい、苦しい……!

 力を使い過ぎた事による反動なのはすぐに分かった。エリア:テトラル以後、私は休まないで魔法や超能力を使い続けてきた。その反動が今になって一気に来たっ……。


「はぁ、はぁッ……!」


 私は、死ぬのか? このまま、死ぬのか……? 頬を自分の吐き散らした血で汚し、激しい頭痛のする頭でぼんやりと自分の死を考えていた。まだ、死にたくない……。死にたくない……!

 人を散々殺しておきながら、私は自らの死を拒絶していた。まだ、私の復讐も、敵討ちも、パトラーとの再会もまだなんだ。まだ、死にたくないッ……!


「死に、たくないッ、パト、ラー……」


 激しく震える体で拳を握りしめる。少しでも気を抜けば、死んでいきそうだった。でも、意識を集中すれば、体中の痛みで気が狂いそうだった。


「死、にたくは……、痛い、苦しいッ……」

「……今まで人をいっぱい殺しておきながら、そんなこと言うんだ」


 今まで沈黙を貫いてきたセイレーンが急に口を開いた。そんなことは分かってる。でも、死にたくないんだッ……!


「わ、たしを、殺したい、か? セイレ、ーン……」


 力の入らない腕と膝を床について、私は無理やり体を起こす。もう、呼吸すらままならない。口や鼻から血が流れ出続ける。単に力の乱用だろうが、今の私にはそれが殺していった者たちからの仕返し――呪いか何かに思えた。


「私はそんなむやみに人は殺さないよ。死んだ人はもう還ってこない。私も大切な人や友達を失っているから。……あなたのせいで」


 怒りのこもったセイレーンの声。ふと、5年前の事が蘇る。私がサキュバスを討伐した時のことだった。あの日、大半のサキュバスが死んだ。あの中にはセイレーンの友達も多くいたかも知れない。


「あなたも同じように仲間を失っているのに、なんでそれが分からないの?」

「う、るさいッ…… きさ、まにナニが、分か、る」


 そこまで言ったとき、再び口から血が噴き出る。血しぶきが舞い、床に散る。今までは誰か名前も知らない他人の血ばかりだった。でも、今は自分のものだ。


「あなたにとって、連合の兵士の命は憎くて価値のないもの。でも、誰か別の人にとっては重いものかも知れない。あなたが人を1人、軽く殺すことでその人にとっての重かった命は永遠に消えてしまう。それがあなたは分かっていない」


 私はガクガクと震える膝と腕で体を引きずるようにしてセイレーンに近づいて行く。彼女を睨めつけるようにして進んでいく。


「じゃぁ、連合軍の、している、ことを見過ごすの、か……!? アイツら、わたし、のクローンを――」

「連合軍のしていることは許されない。でも、あなたは連合軍をひとくくりにして、皆殺しにしようとしているでしょ? それが私は許せない」

「き、さま、ぁッ!」


 うるさい、うるさい、うるさい……! 黙れ、セイレーンッ!! 私は無意識のうちに下唇を噛み締める。憎悪という感情が、私の身体を引き裂いて飛び出してきそうだった。

 私は壁にもたれ掛りながら立ち上がる。まだ、脚が震えている。今にも倒れそうだ。でも、お前を吹き飛ばすくらいの力は……!

 私は手をかざす。セイレーンは不意に操縦席を立つ。彼女の怒りの瞳が私を捕える。彼女がハンドガンを取り出す。私が力を爆発させる。ガンシップが大きく揺れる。窓ガラスが一気に砕け散る。ハンドガンの弾が私の右脚を貫く!


「ぐぁぁッ!」

「殺しはしないよ、私はね」


 私はなんとかその場に立ち止まり、もう一度、手をかざす。だが、その手はセイレーンのハンドガンによって撃ち抜かれる。それと同時にもう一度発砲。今度は左脚を撃ち抜かれる。鋭い痛みが走る。


「あの時、ツヴェルクが何で死んだか分かっていない」

「うぐぐゥッ!」

「ツヴェルクは、あなたを庇って死んだの!」

「…………!?」


 ツヴェルクが、私を庇って……?


「あの時、ケイレイトが狙っていたのはツヴェルクじゃなくて、あなただった! あの子はあなたのことが――」

[危険! 所員は防護体制を取って下さい! 危険! 所員は防護体制を取って下さい!]


 ガンシップが急に傾く。一気に硬度を下げていく。さっき力を爆発させた時に、機体を大きく傷つけてしまった。

 全身の痛みと未だに流れ出る血。そして、セイレーンにやられた傷で私はその場に倒れ込む。もうバランスを保てなかった。


「あなたに出来ることは壊すこと、殺すことだけ」

「ぐゥッ……!」

「……さようなら。もう、会うことはないかもね」


 そう言うとセイレーンは翼を広げ、割れた窓から飛び出す。そういやアイツ、サキュバスだったな。サキュバスは2枚の黒色の翼を持っていた。

 ガンシップは勢いを増して地面に向かっていく。もう、コンピューターもエンジンも完全にストップしている。


「ああ、そう、だ。サキュ、バスも、連合軍、も私が殺し、まくってき、たさ……」


 敵を徹底的に殲滅する。自分が憎む命には価値がないと判断したからだろうか。だから、私は簡単にサキュバスや連合軍の人間を殺せるのだろうか……?


 苦しい、痛い、息が出来ない、身体が砕け散りそうだッ……! もう、動けない。意識を保つだけで精一杯だ。一方でガンシップはますます勢いを増して落ちていく。

 死にたくない、死にたくないッ! こんな所で、死にたくないッ! せめて、もう一度、パトラー……。


 それからすぐだった。消えゆく意識の私を乗せたガンシップが轟音と共に砕け、粉々になったのは――。

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