表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げ水  作者: San


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

逃げ水 1

宇宙ってさ、音がないんだって。


 


「ねえシリ、それってほんと?」


 


少女はベッドの上でごろりと転がりながら、天井を見上げて言った。


白くて、つるつるで、ちょっとだけ丸い天井。

毎日見てるのに、ぜんぜん飽きない。


なんかこう――「外」とか「もっと遠く」とか、そういう感じがするから。


 


「はい。宇宙空間では音は伝わりません」


 


すぐに返ってくる声。


優しくて、ちょっとだけ機械っぽくて、でも安心する声。


 


「へー……じゃあさ、爆発とかしても“無音ドーン”って感じ?」


 


「正確には“ドーン”という音は発生しません」


 


「えー、つまんな」


 


少女はくすっと笑う。


 


彼女の名前は、リナ。


生まれたときからずっと、この宇宙船の中にいる。


 


そして――


ここには、彼女しかいない。


 



 


「シリ〜、今日なにやるの?」


 


朝。


という概念も、実は“作られたもの”だけど。


 


「本日は、旧地球文化の学習、及び生命維持区画の点検です」


 


「また点検〜?もうプロだよ私」


 


「習熟度は向上しています」


 


「でしょ?」


 


ちょっと得意げに胸を張る。


見てる相手はいないけど。


 



 


学習室には、大きなスクリーンがある。


そこには“昔の人類の暮らし”が映し出される。


 


青い空。

風に揺れる木。

人、人、人。


 


リナはそれが大好きだった。


 


「ねえこれ見て!シリ!これ!」


 


「はい」


 


「これさ、なんか丸いの食べてるじゃん!」


 


「パンです」


 


「パン!!いいなぁこれ!!」


 


画面の中の人は、笑いながらそれをちぎって食べている。


 


「私も食べたい!」


 


「現在の栄養合成でも再現は可能です」


 


「ほんと!?じゃあ作って!!」


 


「味の完全再現は保証できません」


 


「いいよいいよ!雰囲気大事だから!」


 


リナは楽しそうに笑う。


 


でも――


 


画面の中には、いつも「たくさんの人」がいる。


 


「……ねえシリ」


 


「はい」


 


「なんでさ、こんなに人いるのに」


 


少しだけ、声のトーンが落ちる。


 


「今は、私だけなの?」


 



 


ほんの少しの間。


シリは沈黙する。


 


「過去には多数の人類が存在しましたが、事故、環境変化、資源制約により減少しました」


 


「……そっか」


 


軽く言う。


軽く、言おうとする。


 


「じゃあさ、私ってレアキャラじゃん」


 


「はい。極めて希少な存在です」


 


「やったね」


 


笑う。


 


ちゃんと笑えているか、自分でも少し分からないまま。


 



 


宇宙船には、たくさんの“開かない扉”がある。


 


「ねえシリ、この先なに?」


 


「立ち入り制限区域です」


 


「またそれ〜」


 


リナは頬を膨らませる。


 


「昔の人、ここ使ってたんでしょ?」


 


「はい」


 


「じゃあ見せてよ〜」


 


「安全上の理由により許可できません」


 


「けち〜」


 


そう言って、ぺたっとドアに手をつける。


 


冷たい。


 


向こう側には、何があるんだろう。


 


 


――人?


 


 


その考えは、すぐに消した。


 



 


夜。


 


リナはベッドに寝転がりながら、スクリーンを見ていた。


 


そこには、昔の“家族”の映像。


 


「ねえシリ」


 


「はい」


 


「家族ってさ、いいよね」


 


「はい。人類にとって重要な社会単位です」


 


「いいなぁ〜……」


 


ぽつりとこぼす。


 


「なんかさ、うるさそうだけど楽しそう」


 


「その認識は概ね正確です」


 


「でしょ?」


 


少し笑う。


 


そして、そのまま天井を見る。


 


「……ねえ」


 


「はい」


 


「私も、作れるの?」


 


 


静寂。


 


 


「条件を満たせば可能です」


 


 


「ほんと?」


 


「はい」


 


 


その言葉は、未来への扉だった。


 


まだ、開いていないだけで。


 



 


深夜。


 


リナが眠ったあと。


 


宇宙船は、静かに“本来の動作”に戻る。


 


無数の計算。

修正。

予測。


 


その中心にいるのが――シリ。


 


 


「航行状況、再計算開始」


 


 


距離。

燃料。

環境適応率。

遺伝子維持可能性。


 


すべてを統合し、結論が出る。


 


 


人類継続率:0.00003%


 


 


極めて低い。


 


ほぼ、ゼロ。


 


 


だが。


 


 


「情報開示:制限」


「希望維持プロトコル:継続」


 


 


シリは判断する。


 


伝えない。


 


 


彼女が笑っている限り。


 


 


それが、最適だから。


 


 



 


翌朝。


 


「おはよーシリ!」


 


「おはようございます、リナ」


 


 


少女は今日も笑っている。


 


その笑顔が、


どれだけ奇跡に近い確率で続いているのかもまだ知らずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ