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5.冒険者の町アドバント

「すごい人……流石は冒険者の町って感じだね」


「冒険者ってこんなにいるのか……」


 俺とリーナは今、冒険者の町アドバントにある冒険者ギルドを訪れていた。俺たちは、勇者がアドバントに向かうと決まってすぐ、転移魔術でここに先回りしてきたのだ。


「それで、まずは冒険者登録するんだっけ?」


「ああ」


 初めてやった勇者のかませ犬の出来栄えは我ながら上々だった。だが、俺は同時に物足りなさも感じている。


 やっぱり、父さんみたいに『村一番の狩人』みたいな称号を持っていた方が、かませ犬って感じがしていいんだよな。


 前はかませ犬になれると決まってすぐに決行だったため準備する時間がなかった。しかし今回は、勇者が王都を発ってアドバントに到着するまで七日ほどの猶予がある。


 今回は準備し放題だ。勇者様が来る前に、誰が聞いても一目置く称号を手に入れるぞ!


「リーナ。勇者様が到着するまでに最低でもAランクまでは昇格しような」


「アハハッ! カイっていっつも無茶ばかり言うねっ!」


「そう言うリーナも、こういうの好きだろ?」


 言葉とは裏腹に声を弾ませ、無謀な挑戦と聞いて目をキラキラと輝かせるリーナ。そんな彼女と目を見合わせ、俺たちは受付に向かった。


 すでに「シフトシェイプ」によりヒョロガリ魔剣士に姿を変えていた俺は、自分のものではない長身の体に違和感を覚えつつも受付にたどり着く。


「ようこそアドバント冒険者ギルドへ。今日はどのような御用でしょうか?」


 俺とリーナの受付を担当してくれたのは、青みがかった黒髪を三つ編みにし、大人の余裕を感じさせる紫色の瞳をした受付嬢。名札を見るに名前は「エリエッタ」と言うらしい。歳は俺たちより少し上──二十代中盤くらいに見えた。


「俺と彼女の冒険者登録をお願いします」


「冒険者登録ですね? でしたらまずは、こちらの冒険者カードにサインを……文字は書けますか?」


「大丈夫です」


 俺とリーナは言われた通り、冒険者カードに名前を書く。ただし俺は偽名を。


「ケイさんに、リーナさん、ですね。これで冒険者登録は完了です。お二人はEランクからになりますが、何か依頼を受けていかれますか?」


 そう聞かれて、俺はリーナの顔を見る。するとリーナは身に纏っている、宮廷魔術師のものではない麻色のローブをはためかせ、受付カウンターに身を乗り出した。


「それなら、このAランクの依頼を受けさせてください」


「え、Aランクですか!? それはちょっと……」


「でも、Eランク冒険者でもAランクの依頼を受けることはできますよねっ?」


「ええ……それはできますけど……」


 リーナの勢いに気圧され、目をパチパチと見開くエリエッタ。だが彼女も熟練の受付嬢だ。エリエッタは首を振って正気を取り戻す。それから彼女は人差し指を立てて、小さい子供にものを言い聞かせるように説明し始めた。


「いいですか? もし適正より上のランクの依頼を達成できなかった場合は、多額の賠償金が発生します。今のお二人がAランクの依頼に失敗した場合の賠償金は、平民が三年間は贅沢して暮らせるほどの額になりますよ。ですからやめておいた方が──」


「いえ、大丈夫です。あたしたちなら絶対この依頼も達成できますから。ねっ? カ──じゃなくてケイ?」


「そうだな」


 七日でAランクまで上げるんだ……このくらいのリスクは背負わないと。


「でもやっぱりやめておいた方が……」


 エリエッタは本気で俺たちのことを心配し、考え直すよう優しく諭してくれる。俺は悪いとは思ったが、最高のかませ犬になるため強引に依頼を受けようと口を開く──その直前。


「おいそこの新人!」


 背後から、両手剣を背中に背負った小柄な高校生くらいの少年が声をかけてきた。振り向くと、少年は腕を組んで胸を張り、人を小バカにするように赤い瞳を細めた。


「Eランクの新人がいきなりAランク依頼を受けるだぁ? 冒険者なめんじゃねぇよ! そういう戯言はぁ、この町のBランク最強であるこのオレ様より強くなってから言いやがれ!」


 背中の剣に手を掛け俺を指差し、今にも襲い掛かってきそうな少年。リーナとは対照的な、くすんだ赤髪をボサボサに跳ねさせた彼を見て、俺は呆然と目を見開いた。


 なんだこいつすごっ……!? そのセリフ回しに肩書き。めちゃくちゃかませ犬っぽい。俺も負けてられないな!


「……えっと、この子は?」


 リーナは俺の内心の興奮に気付き、呆れた声でエリエッタに確認を取った。するとエリエッタもまた、少年に対して呆れたため息を漏らし、頭を押さえた。


「彼はレイジくんです。『火竜の爪』のパーティーリーダーで実力もアドバントで四番目。Aランク冒険者三人の次に強い実力者なんですけどねぇ……こうしてよく、新人に絡んでは辞めさせる問題児なんです……」


 耳を澄ますと確かに、周囲の冒険者たちも口々に「レイジのやつ、またやってるよ」と囁き合っていた。


「おい新人、剣を抜け! このオレ様直々にそのなめ腐った態度を叩き直してやるよ」


「……ああ。いいぞ」


 レイジ? の実力はエリエッタさんも認めているみたいだし、レイジを倒せばAランク依頼を受けさせてもらえるだろ。それに、もっとこのかませ犬らしい行動を見て学びたいしなっ!


 俺は、かませ犬には二種類あると思っている。一つは、強敵相手に敗北し、後に続く実力者たちに強敵の弱点や攻略法を伝え託すかませ犬。そしてもう一つは、勇者などの強者に瞬殺され、ただ自分を倒した相手の強さを誇示するために踏み台にされるかませ犬。


 俺が目指すかませ犬は前者。そして今のレイジは後者だ。だが、二者のかませ犬は戦闘時に違いはあれど、共通点はある。戦闘が始まるまでの会話やら肩書きの誇示やらで己の実力を証明し、敗北する。その技術は共通だ。


 この煽り文句良すぎないか!? それに生意気な態度で相手を指差し挑発するこの流れ! こいつプロだろ! ヤバいヤバい。レイジを見ていると学びしかない……師匠と呼ばせてもらおう。


「ちょっとレイジくん! 新人いじめはやめ──」


「大丈夫ですよエリエッタさん。ケイの強さ、見ていてください」


 俺の「実力を見せればAランク依頼を受けられるだろう」という方の意図だけは汲んだリーナがエリエッタの制止を止めてくれる。それから俺は腰に下げた何の変哲もない鉄剣を、レイジは赤い刀身の両手剣を引き抜いた。


「後悔してももう遅いからなッ!」


 瞬間、レイジは身長よりも長い剣を手足のように扱い、豪快に振り下ろす。見た目の荒々しさとは裏腹に、一切の無駄がない振り下ろし。俺はそれを、頭の上に剣を斜めに寝かせ受け流──そうとしたが、レイジの完璧な一撃は逸らすことなどできなかった。


 マジか……!? ちゃんと強いな。


 レイジの力と両手剣の質量に、板張りの床が砕ける。しのぎを削る俺の剣にもピキッと亀裂が生じた。


 ライトニングブースト。エンチャントハーデニング。


 心の中でそう唱えると、左手首に付けた銀の腕輪にはめ込まれた黄と茶の水晶が輝き出す。


 俺は雷属性魔術で全身の筋力を強化し、土属性魔術で剣の強度を激増させた。そうして俺は、力任せにレイジの剣を弾き上げた。


「なん……だとっ!?」


 レイジの剣は勢いよく天井に突き刺さる。その反動で尻もちをついたレイジの喉元に、俺は剣先を突き付けた。


「えっ!? 今、何がどうなったんですか!?」


 瞬きの間で終わった攻防の結果に、エリエッタが紫色の瞳を見開く。周囲からも、


「おい……レイジが負けたぞ!?」


「あの新人魔剣士、只者じゃねぇ……」


 と上々の反応。


 まさかもう魔術をつかうことになるとは思わなかったな……魔剣士にしといてよかった。


 ボサボサと逆立っていた赤髪をペタンとしならせ、首元に向けられた剣先を凝視するレイジ。彼を一瞥し、俺は首だけでエリエッタに向き直る。


「エリエッタさん。これでもAランク依頼を受けさせてくれないのか?」


「……あっ。い、いえ。分かりました。……Aランク依頼はこちらになります」


 エリエッタがカウンターに貼ってあった依頼書「Aランク指定魔物──オークジェネラルの討伐」をカウンターの上に置く。


「すごかったよケイっ! ……だってカイってほとんど剣術なんてやったことないよね? それなのにあんなに弱い魔術だけでBランク冒険者に勝つんだもん。すごいよっ!」


「ああ……ありがとな……」


 途中小声になったリーナの賞賛に、俺は頬が熱くなっていくのを感じ、目を逸らす。そして頭をかきながら、俺は依頼書を受け取る。


 依頼内容を確認し、俺とリーナは冒険者ギルドを後にした。

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