3.かませ犬デビュー
「ふんッ……やはりゴブリンは雑魚だな」
「だなっ! どれだけ来ようが楽勝だぜ!」
「神楽坂くん、尾川くん。油断はしないで」
俺とリーナが転移した少し先で、勇者パーティーは大量のゴブリン相手に無双していた。
裕也は時々「オレかっこいい」的な決めポーズを取りながらも純白の槍──正確には槍先に突起と斧のようなものが付いたハルバードを振るい、無駄のない動きで周囲のゴブリンを薙ぎ払う。
「せやぁああっ!」
純白の片手剣に盾を持った隼人は盾でゴブリンの拳や足、タックルを防ぎ、隙を見ては剣でとどめを刺している。彩花は身の丈ほどの純白の杖で魔術を行使し二人の援護。
「右から五匹。神楽坂くんお願い」
それに加えて周囲の状況を見て他の二人に指示を出していた。
「勇者様ってみんな基礎はできてるんだね」
「そうだな。それにどんどん動きがよくなってる。三人とも実戦で成長するタイプってところか」
これなら確かに、早く実戦で経験を積んでレベルアップした方がいいと思うのは当然か……。
勇者には特別な力として、召喚時に神聖武器とレベルが与えられる。レベルは勇者のみが持つ成長要素で、魔物や魔族を倒すことでのみレベルアップが可能なのだ。
それに神聖武器にも魔物や魔族に特攻の特別な力があるのだが──。
さすがにまだ使えないみたいだな……。
「あれでもやっぱり勇者なんだね。ただのいけ好かないかっこつけじゃなか──カイ!」
勇者たちに軽蔑と尊敬が混ざり合った目を向けていたリーナが、急に鋭い声を上げる。彼女の視線の先では、水色の流体を体とするメルトスライムが勇者たちを凝視していた。
「ようやくか……」
全身の血が沸き立つような感覚に汗が滲む。父さんが死んでから八年もの間待ち望んだ瞬間に、俺は笑みを我慢できるはずもなく。
「行ってくる!」
俺は勇者とメルトスライムの位置を確認し、勇者の元へと駆け出した。
ああ……シフトシェイプで体格が変わっているのに体が思い通りに動く。こんなの初めてだ!
大量発生しているゴブリンの隙間を掻い潜り、ゴブリンの屍を量産していく。そうして、自分でも信じられないほどのスピードで勇者の近くまでたどり着いた。
始めるぞ! 始まるぞ! 俺の『勇者のかませ犬』デビュー戦だ!
その時、勇者パーティーの前にメルトスライムが躍り出た。
「ほう……これがメルトスライムか」
「でっけーなー!? あいつ木を丸呑みしてるぜ? 俺、手のひらサイズのスライムを想像してたんだけど……」
「だが、このオレの前では図体がデカかろうと無意味だということを教えてやろう」
メルトスライムに仕掛けようと重心を落とす裕也。
ここだっ!
タックルしてきたゴブリンの首を剣で切り落とし、俺は大きく息を吸う。
「……っスゥ……おいテメェら!」
俺は今回の変装テーマ──「自分勝手で調子に乗っている新米冒険者」らしい口調で勇者に怒鳴りかかる。すると裕也は動きを止め、俺に鋭い眼光を向けてきた。
「なんだ貴様は? このオレに何か用か?」
ちゃんと反応してくれたっ! ありがとう勇者様!
俺は内心喜びを噛みしめ、瞳に偽りの怒りを滲ませる。
「『何か用か?』じゃねぇよ! その恰好。テメェら勇者なんだろ! 金に困ってないんだろ? だったらそいつは俺に寄越せ! レアな魔物の素材は高く売れんだよ!」
「ふんッ……そういうことか。だが貴様にこのスライムを倒せるのか? オレたちがここにいるのは、貴様ら冒険者がこいつを討伐できないと泣きついてきたからだぞ?」
ん? この勇者、意外と聞く耳持つな……まあ今は関係ない。
かませ犬になるためにはまず相手に、俺がある程度の実力者だと認めてもらわなければならない。でなければ俺の動きに注目してもらえず、攻略法のヒントを見せても汲み取ってもらえないからだ。
実際に今、勇者たちは俺のことを「何だこいつ」程度にしか見ていないし。
「じゃあ俺の実力を見せてやる! そのクソ生意気な目に、俺の強さを焼き付けとけ勇者ども!」
啖呵を切った俺はすぐさま右手で持った剣を引き、腰だめに構える。それから群がってくる二十匹ほどのゴブリンを見据えて、唱えた。
「ライトニングブーストッ!」
瞬間、左手首に付けた、杖の役割を果たす銀の腕輪が黄色く光り輝く。と同時に、俺の両足が稲妻を纏う。
こめる魔力は……ほんのちょっとでいいな。
「行くぜ……!」
俺は腰を落として足に力を溜め、地面を抉った。
「……っ!? 速い……!」
俺は裕也の目でもギリギリ追えるかどうかというほどのスピードでゴブリンの間を滑るように走り抜け、ものの数秒で二十数匹のゴブリンを全滅させた。
「どうだ勇者ッ! これが俺の実力だ。メルトスライムは俺がもらうッ!」
俺は勇者の返事も待たずにメルトスライムへと接近。そのまま高く跳び上がり、物理攻撃で倒すことがほぼ不可能なメルトスライムに対して剣を振り下ろした。
これで気付け勇者! メルトスライムに物理攻撃はダメなんだ!
メルトスライムは、触れたものを全て取り込み溶かす性質を持つ。それはたとえ勇者の神聖武器であってもだ。だからメルトスライムは「前衛殺し」と呼ばれ、討伐には魔術による攻撃が求められる。
「ぐぉっ!?」
ジュッっという、熱した石を水に放り込んだ時と似た音を出し、俺の剣は一瞬にして溶かされる。そして空中で体勢を崩した俺は、(魔術を使えば何とかなるが)なすすべなくメルトスライムに取り込まれた。
おまけだ。もう一つヒントを残すぞ!
俺はメルトスライムに呑み込まれる際、足に纏っていた雷でメルトスライムの体を少しだけ吹き飛ばした。
これで魔術を使えばいいってことに気付けよ?
かませ犬としてやるべきことをやり切った俺は、抵抗することなくメルトスライムに身をゆだねる。すると、一瞬にして服や革防具の大部分は溶かされ、今度は皮膚が溶け始める。
くそっ……これでも痛みを感じられないのか……。
水色のメルトスライムの中、皮膚や肉が溶かされ、そこから出た気泡で視界が塞がる。それでも、生まれつき痛みを感じない俺は、何も感じなかった。
はぁ……潮時か……。
隠蔽魔術で姿と魔法陣を見えないようにする。その後俺は転移魔法陣を展開し、リーナの元へ転移した。
***
「カイっ! あぁぁあぁカイぃー!」
転移直後、俺の耳を打ったのはリーナの泣き叫ぶ声だった。青ざめた彼女は、意識を保っているのがおかしいレベルの重傷を負った俺の横に膝をつき、慌てて回復魔術を行使する。
勇者はどうなった? 俺はかませ犬として、勇者にメルトスライムの倒し方を伝えられたのか?
確かめようにも顎が壊れていて声が出ない。筋肉が溶けていて体が全く動かない。そのため俺は、もどかしい思いでリーナの治療を受け入れた。
「バカっ! 痛みを感じないからって無茶しすぎっ! 死なないでよカイ……あたしが、絶対助ける……!」
俺の体に杖をかざし、光のカーテンで俺を包み込むリーナの回復魔術はすさまじかった。ものの十数秒で俺の体には骨や筋肉、皮膚が戻った。さらに、展開されていた光属性の魔法陣が光ったかと思えば、失った分の血液が体内に生成されていた。
「ハァ……ハァ……よかったぁ……」
栗色の瞳に涙を浮かべ、息を切らしたリーナ。彼女は俺の上体に重なるように倒れ込むと、俺の首に手を回して抱き着いてくる。
体が動く……!
そう思いリーナを見ると、彼女は魔力──は問題なさそうだが、精神的に疲れたのか、あまり元気がない。
「ありがとうリーナ。さすがは宮廷魔術師序列二位だな!」
そう言って俺はリーナごと上体を起こし、リーナの頭を撫でた。
「えへへ……」
するとリーナは元気のない声とは裏腹に、飼い主に甘える子猫のように照れた笑顔を見せた。子供の頃からずっと見てきたその愛おしい笑顔に微笑み、俺は問う。
「それで、勇者たちはどうなった? 様子を見てもいいか?」
「もぉー! ……いいけど、情緒ってものも考えてよー!」
「ん? ……よくわかんないけど、魔術を展開してもいいんだな?」
ムスッと口元をすぼめて頷くリーナに首を傾げつつ、俺は唯一無事だった装備──腕輪型の杖を使って遠隔透視魔術を展開した。
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