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勇者の弟子セイル

シエル・ラングリッターの繰り出したカラメソード・ウカタユミによって胸を貫かれたレイ・スノビー。縦に開いた傷口からドクドクと血の流れる身体だったが、まだ生命の炎は燃え尽きていなかった。



「なんでわざわざ最後に殺したやつの名前使ったのよ?勇者シエルの弟子だって堂々と名乗れば良かったのに」

「師匠が勇者として有名なのはアイクラウンドでの話さ。変に名乗ったところで困惑されちゃうだろ?」



岩の陰から一人の女が現われた。彼女はレイのそばに近付くと、傷口に手を伸ばして治癒魔法を発動した。彼女は魔法使いのマユ。アイクラウンドの勇者セスタ・サーティンの弟子だ。


「ところで…暇潰しにあの子殺そうとして一杯食わされたのってどんな気分?」

「無駄に時間使って悪かったよ。ここの魔物全部殺しちゃっても足りなかったんだ。いや~もう一回戦いたいな。あの子達が魔王の仲間だったりしないかな?」

「そんなわけないでしょ。この島、イケネミからすっごく離れてるんだから」



そしてシエルが倒したつもりでいるこの男も勇者セスタの弟子の内の一人。本当の名前はセイルと言い、本来は弓で戦うアーチャーというクラスなのだ。


「やっぱり殺すなら魔族よりも人間だよね。魔族を殺すのって感覚的に魔物殺すのと変わりないんだもん」

「その感覚マジで理解出来ない。人間は殺しちゃいけないのよ」

「ただし、魔族の味方をする者は人間じゃないから殺してもいい………道中、そういう人達に沢山出会えるといいね」


傷が塞がると男は立ち上がった。そして胸の傷が塞がったのを手で触れて再確認すると、喜んでハイジャンプを決めた。


「そういえば…もう一人いた妙な髪型してた女。あんたが生きてるって気付いてたわね。まあ流石に気配殺してた私には気付けなかったみたいだけど」

「あの子も良かったよねぇ~戦いたいなぁ~」




セイルが身体を動かして柔軟している間、マユはマジックポーチに入れていた手配書の束を高速で捲っていた。やはりというべきか、手配書に載っているターゲットは全員魔族だ。


「今度誰いく?」

「毒挟麺麭職人のシタラにしよう」

「挟麺麭…?あぁハンバーガーね。でもこいつでいいの?凄く弱そうよ」

「ジョブはシェフ。つまるところサポーターでしょ?当然その周りには戦えるやつらがいる。サポーターが強ければそれに比例して周りも強くなる。主役であるハンバーガーが旨い店はポテトもナゲットも旨い。それとおんなじ」

「そうね…いや、やっぱり意味分かんないわその理論」



シエルと接触する前、彼はこの島に隠れ住んでいたアウトローテイマー集団のユーリザッシを壊滅させた。別に犯罪者を憎んでいるとかではなく、ただ戦いたかっただけだ。ユーリザッシのメンバーの遺体は彼らがいた場所に放置したままだ。


一体どうやってこの島にいる犯罪者達を見つけられたのか。その答えはマユの持つ潜在呪文にあった。


「それじゃあワープよろしく」

「ちゃんと触れてなさいよ。ロコスガオ・ビット!」


セイルが背中に触れたのを確認すると、毒挟麺麭職人シタラの手配書一枚を掲げたマユが呪文を唱える。すると2人の身体は飛翔し、どこか遠くにいるシタラに向かって飛んでいった。


ロコスガオという第一潜在呪文は犯罪者のイービルネットワークに干渉する呪文である。

その後にマケルと唱えると違法な物品の売買がその場で行える。売った物は相手の元に転移し、買った物は目の前に現れる。マユの手配書はそのネットワークで購入した犯罪者の情報の一片に過ぎない。

そして手配書を掲げてロコスガオ・ビットと唱えると、そのターゲットの元へ飛ぶことが出来るのだ。

この能力について、自分には犯罪者の素質があるのではとマユは考えている。しかし逆にこれを利用した。手配犯の元へ飛んで首を獲って賞金稼ぎをすることで邪道に墜ちることなく生きてきたのだ。




場所は移り皇想国家リアオイ。高層ビルのような形をした大陸が特徴的なその国の第44層、地上第1層から44000メートル高い位置にあるフロア・リュ・アヤウイジン。

不吉な層数なだけあってかアヤウイジンには多くのならず者達が集まっており、層を移動する際に使う運搬鳥が来る事は滅多になかった。


「んぁ?なんだお──」

「なぁにナチュラルに刃物向けてきてるのさ」


辿り着いたばかりのセイルが早速一人殺し、その血の臭いに釣られて大勢のならず者が押し寄せて来た。


「あんまり強くなさそうだな…マユ、イケネミにいる犯罪者のデータ買っといて。俺の財布使っていいから」

「人使い荒くない?飛ぶのも楽じゃないんだけど」

「イクサダ、用意してあるからさ」

「…もう」


その単語を聴くとマユは言う通りに動かざるおえない。イクサダとは快楽接種用ドラッグの一種で、マユが好んで飲んでいる物だ。しかしイクサダは安くない。なのでセイルは商会などを襲いイクサダを集め、こうしてマユを動かす材料にしているのだ。


「それじゃあその間に…行くよ」


アーチャーであるがそれはプロフィール上での話である。このジョブはフェンサーやランサーに比べて肉弾戦を補助するスキルが少なく、セイルの戦い方はナンセンスと言える。


しかしそんなことはどうでもいい。セイルは戦えればそれでいいのだ。アーチャーを選んだのはジョブの項目で上の方にあり、一番最初に目に入ったからというだけだ。


「おいお前!早く支援しろ!」

「はっはい!こ──」


セイルは大群の後方でハンバーガーを作っていたシタラの首を、横薙ぎの手刀で跳ね落とした。


「へっ!所詮はただのシェフか!」

「死ねえええええええええええ!」

「千本針箒のソルシェと違法薬師アルケミスターダイア。そして透明化して誰か俺の後ろにいるね」

「わ、私に気付いてる!?」


手刀の形を崩さずにセイルは横回転を行う。ソルシェとダイア、そして透明人間の女の心臓を切り裂き、笑みを浮かべた。


「確かその顔はメイ・サイトー。ブルグランシェト・マト帝国の工作魔法大学を首席で卒業したけど、透明人間に襲撃を受けた帝王から暗殺の疑いを掛けられて国外逃亡。その後どうしてたのか知らないけど…ここに来て身体を売りながら生活してたって感じかな。どう…って死んでるから答えられないか」


「なんだこいつ…頭おかしいんじゃないのか?」


第44層の住民達はその強さではなく狂気性に恐怖した。そして逃げ出そうにも、彼らを囲うマジックウォールが展開されていた。

イクサダを欲しがるマユはイライラとした様子で命令した。


「魔族達を逃がすわけないでしょ。ほら早く、殺しちゃって」

「はいはい…」



それからは語るまでもなく、セイルによる虐殺が行われた。第44層の住民が全滅したことのリアオイ国民が知るのはこれから一週間後となる。それほど、この層は近寄りがたいフロアなのだ。


「ね、ねえセイル。イクサダちょうだい」

「はいはい、これね」


セイルの手からイクサダの入った容器を奪い取ると、流し込むように錠剤を飲み込むマユ。そして笑顔になった。


「ぎもぢいいいいい!せしるもどおおおお?!」

「遠慮しておくよ。立派な中毒者だねぇ」



セイルは自分が殺した者達の死体を貪り喰らうマユを黙って見ていた。

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