1.3赤のアジサイ1
神話中心の勉強に移ってから2年ほどたった頃からは学ぶ内容が完全に宗教染みたものになってきた。神話自体も宗教染みていたがそれは歴史の伝わり方の問題な感じでまあ伝説とかそういう感じだった。だけど本格的に自分たちの存在意義なんかを語られると体が拒否反応を示すもんだ。元いた世界でも宗教には苦い思いでばかりだった。しかも時々ギー族(仮)のようにギーギー言い出す。はたから見ると危ない宗教にしか見えない。特にギーギーギーギーいうのは特殊な発音のせいなのか、耳の奥が痛くなって困る。ママたちにそう伝えても自覚がないのか、よくわからないって風に眉をひそめてさらにギーギーギーギー重ねやがる。まあ文化の違いとかもあるしな。仕方がないのかもしれない。
聞き取れないところは飛ばしても歴史の概要は理解できそうだ。
どうやらファンタジー異世界転生あるあるの魔法は存在しているようだ。魔法というか彼らはイーアと呼んでいるが、まあつまるところ魔法だ。あまり直接的なものはまだ見せてもらっていないので判断がつかないが、魔法というよりはおまじないに近いものかもしれない。彼らはずっと昔からこのイーアを使えるらしく、原理とかそういうものについてはあまり知らないようだ。
学ぶ場所もギー族の村からエルフの里に移った。あの気色の悪い山羊を一体貰い受け、背中に乗ってエルフの村落に通うようになった。
サージャという同級生も一人出来た。同級生というより妹のようなものだ。
「追いかけっこなのにどーこに隠れちゃったのかなぁ?おにいちゃーん!あーそーぼー!」
こんな風に右の手のひらの上に小さな竜巻を起こして、満面の笑みを顔に張り付け俺のことを探している女の子、もとい加減のわからないバイオレンスキッズはこの村落に住んでいるらしい。
毎日毎日ぼろ雑巾のようになるまでバイオレンスな愛情表現を受け止めているがこいつはこれでも遊んでいるつもりらしい。しかも1つ下なのに生意気に魔法を使っている。
「一方的に追いつめることは追いかけっことは呼ばねえよ!毎日毎日追いかけまわしやがって!そもそもお前は妹じゃねえ」
俺もやられるだけの男ではない。ここはびしっと年下に対して諭してやるのが大人ってものよ。相手が幼子でも上下関係ははっきりさせてやらないとならない。
「そこかッ!」
こいつは話が通じないらしい。正攻法ではだめだ。仕方がない。おままごとに付き合ってやるか。
「待て待てかわいい妹よ。お兄ちゃんはとっても大事な話があるんだ。」
「え!妊娠?妊娠したの?お兄ちゃん大変だ!大変大変!」
こいつぶっ飛ばしてやろうか。いや、ぶっ飛ばされるのは俺なんだけど。仕方がない。狂ってるやつを言いくるめるには俺も狂うしかない。
「実は。。。そうなんだ。お兄ちゃんはこの子に影響がないかとても心配なんだ。」
精一杯慈愛に満ちた目でさらにおまけで目尻に大粒の涙も貯めてやる。猫をなでるように、やさしく包み込むように腹を撫でてやれば完璧だ。アメリカで賞を取れるレベルの名演技だ。さすがのクレイジーガールもこれには圧巻で生命の神秘にひれ伏すだろう。
「やだ!」
このアマ一言で片づけやがった。
まあここまではお決まりの流れのようなものだ。そしてこちらにも最終兵器が存在する。大きく息を吸って、腹の下に思いっきり力を籠め
「おいババア!サージャがウィテカートを使ってるぞ!!」
全身に力を込めて咆哮を発した。
ウィテカートは蛮族が使う魔法らしく、エルフたちに固く禁じられている。俺はそもそも使えないが、このクソガキはなぜか使えるらしくいつもこれを使って叱られている。
「サァァァアアアアアアアアジャァアアアァアアア!」
俺が叫んですぐに、大声をあげながらすごい形相の一人のエルフがこちらにかけてきた。