2.20赤のアスター20
さらに数十分走っていると、何やら高い塔のようなものが見えてきた。目の前の一つだけではない。。。全く同じ土の塔が一定間隔で建てられている。奥にも当然あるのだろう。まるで村自体を囲んでいるようだ。頂上には何等分かにされたような、一部だけ模様が描かれている旗っぽいものが、風になびくでもなく看板のようにきっちり広げられて掲げられている。
おかしいのは塔だけじゃない。何やら歌。。。ではないけども一定のリズムでメロディのようなものを奏でている。高い音と低い音を交互に、時には同時に出しており、かなり不気味だ。
これはどちら側のものだ。ニンフ側のものでは無ければかなり不味い状況じゃないのか。
歌声がはっきりと聞こえる位置まで来ると、再びハルが手を上げて制止した。俺も急いで地面に降りる。
「羊ちゃんはここまでかも。。。羊ちゃんもサージャちゃんが心配でしょ?」
そういってフフと笑って何やらドヤ顔をして見せる。アマルフィは何やら不服そうにムッとしている。そんなに俺と行きたいか。全く愛い奴め。。。でも確かに出来れば俺もサージャを探しに行きたいが、どうせ足手まといにしかならないのだろうな。アマルフィは強い子可愛い子だ。何かあってもそのフィジカルで何とかしてくれるだろう。
「アマルフィ。。。すまないが頼めるか?」
頭に手を伸ばして軽くなでてやると、フンッと鼻息を立てて返事をしてきた。なんじゃそりゃ。全く愛い奴め。
「でもサージャがどこにいるかわからないんだけど。。。」
「。。。それは流石に私にも難しいかも。」
ハルは耳を垂らして眉を上げて苦笑いを浮かべる。おまけとばかりに首までかしげている。可愛い。可愛い。すごく可愛い。どうしてこうもツボを押さえていらっしゃる。
思考を全部放棄してデレデレしていると、背中をドンッとどつかれた。不味い不味い、嫉妬させてしまったか。全く俺も罪な男だよ。ごめんごめんと頭を撫でてやるも、ど突くのをやめてくれない。やけにお怒りだことで。。。出血大サービスで背中もうしうしと撫でてやるも、これも違うらしい。思わずハルの方を見るも、何やらツボに入ったようで、小さく笑っている。可愛い。
あまり強くはないし別に構わないのだが、何やらモヤモヤする。どうせなら言葉を喋ってくれたりしないかな。アマルフィ愛い子可愛い子!きっとできる!
うーんと悩んでいると、はぁ、と種族が違えども分かるあきれ顔を見せてから、のそのそと少し離れて行った。何、どういうこと。ちょっとショックなんですけど。。。俺たちはもはやソウルメイトでしょうに。。。諦めないでもう少し頑張ってよ。。。
そんな俺の願いも気にせず、すっかり丸まってふて寝モードに入ってしまった。まるで彼女のちょっと面倒くさいモード的なやつだ。
数秒するとチラチラとこちらの様子を覗いてくる。。。。え、マジでなんですかね。
俺が固まっていると、再びため息をついてから俺の裾を咥えて俺をアマルフィのいた場所の少し近くに連れてきて、そのまま俺に腰を下ろさせた。すると足でいびつな円?やら線やらを地面に描いてまた同じ場所に戻って丸まった。
何かを伝えようとしていることはわかった。俺もなんとなく浮かびかかっている。だが何かしらの決定的な要素が欠けている。とてつもなくモヤモヤする。俺が悩んでいると、ハルは笑い飽きたのか、よくわからないといった感じで聞いてくる。
「サージャちゃんには専用の部屋とかないの?」
「それだっ!」
そうだ。これは地図だ。前の俺の小屋と今の俺達の小屋。そうだった。あいつがかくれんぼをした時は、いつもアマルフィの毛をつけていた。
「俺たちの小屋だ!アマルフィの方があいつの生態は詳しいだろうし可能性は充分にあるな。」
中心に近いし一番大きな入口からは結構な距離がある。そこにいる可能性は高い。
あいつよくアマルフィの毛をつけていたけど、ペットが真っ先に隠れ場所に挙げるぐらい俺たちの小屋にいたのかよ。。。何かちょっと怖いんだけど。
「。。。それじゃあ羊ちゃんはそっち行くかも~。」
そういってひらひらと手を振ると、人差指でピシッと音を立てたと思ったら、そのまま自然に俺を抱え上げた。。。所謂お姫様抱っこだ。少し声を上げる俺ににっこりと笑顔を傾け、ゆっくりと歩みを始めた。
「ムツキは軽いかも。もう少し食べたほうがいいかも。マルジウムはご飯の才能があるかも。色々紹介してあげるかも。」
いや女の子に重いものをって心配もあるんだけどさ。そこじゃないじゃん。
俺はアマルフィにバイバイと手を振ってから、できるだけ怖そうにすぐ横の顔を睨みつける。
ハルは俺の抗議の目線に気付いていないのか、満足げに細めた目を前に向けて話を勝手に続けている。
「ほら、あの旗、趣味が悪いかも。でも奴らはすぐ死ぬし、あれぐらい軽いシンボルの方がお似合いかも。」
すごい物言いだな。。。
「なんか意味とかいろいろあるんじゃないの?一族の象徴するものとか色とかさ、そういったものをこう継承するというか、アイデンティティとしてさ。。。」
こんな風に言われていると、なぜか侵略者なのに同情してしまう。
「軟弱だからかも。そういうものは覚えていれば問題ないかも。記憶力弱すぎかも。」
おっとり系かと思っていたら、とんでもない毒舌キャラでしたか。でもなんだかゾクゾクする感じが悪くない。
「これからムツキはムツキじゃなくてミドリって名乗るかも。みどりちゃん。あんま可愛くないけど仕方がないかも。」
「いやいやいや、ミドリちゃんめっちゃ可愛い名前だよ?正直かなりグッとくるよ?」
そういうことを言っていると、マジで良くない。本当に世界のミドリさんごめんなさい。神様懺悔いたします。。。
俺が腕の中で祈っているのを見ると、ハルはハッと笑ってそっぽを向いてしまった。。。なんかさっきから妙に攻撃的で少し怖いです。
「それでなんで俺はミドリって名乗らなきゃいけないの?。。。別に俺ムツキって名前でヤバいこととかしてないと思うんだけど。」
「。。。説明が難しい。。。かも。色々あるかも。あの旗と同じで、マルジウムは変なところで信心深いしこっちの方がいいかも。」
まあでもスパイするんだもんな。スパイってそんなもんなのかね。みどり、なんか昔の知り合いにいた気がするんだがあまり覚えていないな。。。まあ兎にも角にも俺はこれからはミドリ君だ。俺はミドリ。。。。俺はミドリ。。。
俺が自分に暗示をかけていると、ハルは急に上を向いて何かを思い出したように付け足した。
「それから俺じゃなくて私かも!ミドリちゃん!女の子!」
えぇ。。。冗談きついですって。。。
「私。。。いや、俺はハルタって名乗るかも。よろしくなっ!ミドリちゃん」
そう言うと歯を見せて今日一の笑顔で俺に笑いかけてきた。