2.19赤のアスター19
ハルに急かされて、アマルフィが体を上下に大きく揺らしながら全力で走る。鞍は無く頭から伸びる紐だけが頼りな俺は、股間が割れそうになるのを必死にこらえてしがみつく。
道中で色々と聞かされた。ババア達がニンフという種族であること。。。達というかババアがそうらしいのだが、そうなれば当然あいつらもそういうことだろう。男だけあんなムキムキになるのは確かに俺の知ってるエルフじゃないな。
そしてこの状況を作り出した中心は、おそらくエルフであるウルダーだと。なんでウルダーがあの村を襲うのか、よくわからない。俺が生まれたばっかしの時から仲良く楽しいベイビー時代を演出してくれていたし、正直実感がわかない。だが、ハルたちがブチぎれていたのを見ると、あながち全部が全部違うとは言い切れなさそうだ。
ニンフとエルフが最近妙な動きを見せていたこと、それに危機感を感じていろいろ探っていると俺のことを見つけたこと、今が窺っていた時機であること。色々聞かされたがあまり要領を得ない。
小一時間走っているが、ハルは息すら切れていない。。。やはり種族の差は大きいようだ。魔法もそういうことなんだろうな。
そんなことを考えながらハルの話を聞き流していると、急に手を水平に上げてアマルフィのことを止め、急停止した。
突然のことに落ちそうになるも、必死に脚に力を込めて留まる。
何だと思って見回すも何もない。ハルもアマルフィも特に警戒している様子はない。いや、見覚えのある景色だ。10数キロってところか。もうそんな近くまで来てたのか。
「あいつらは当然周りも警戒してるはず。。。かも。ここからは私がムツキのことを隠すけど、うかつな行動はしないで欲しいかも。いい?」
今までとは打って変わってまじめなトーンで確認を取ってくる。どのみち俺にできることは無いし、迂闊なことをしようにも出来ないだろう。。
「わかった。」
「それと、多分。。。。いや、確実に奴らの狙いはムツキ。。。かも。だから極力接触の仕方に気をつけなきゃいけないかも。。。だから私がサポートするから私に倣ってほしいかも。わかったかも?」
えぇ俺なのか。。。まさか戦争の原因も俺じゃないよね。。。もしかしてかなり不味い立場なんじゃないのかこれ。。。生まれ変わってきたやつがなんかの実験材料にでもなるのだろうか。人体実験みたいなのはもう間に合っている。
それにハルもさっきまでののんびり娘って感じから、なんか急に姉みたいに振舞いだした。姉はいたことないからこんな感じかわからないけども。
「。。。じゃあ戦争の原因は俺ってこと?」
「そうじゃないっ!。。。悪いのはあなたじゃない。。。あなたも被害者。悪いことはしていないでしょ?」
肩をガッとつかむと、目を合わせ悲しそうな、憐れむような顔でゆっくりと返してきた。
出会ったばかりの女の子なのにこんなに親身になって励ましてくれる。これが温かみってやつなんだろうな。ハルの様子に、あまり気にしているつもりもなかったが頬を意図しない涙が流れて落ちていく。
「ん?えっいや。。。大丈夫大丈夫。。。。かも?」
そう言って、涙を拭う俺の腕ごと抱きしめてくる。子どもとは思えない包容力だ。アマルフィも心配そうに背中に体を押し付けてくる。
「ん。。。いや、大丈夫。。。今は早く様子を見に行こう。」
にしてもスラッとしていて、でも女の子らしくやわらかな感触に封印したセクハラ脳が甦りそうだ。あの鬼畜幼女ならこうはいかないだろうな。容姿が良くとも、俺のことをペットのように。。。いや、おもちゃのように考えてるあのキッズでは話にならないだろうな。多少は心身ともに成長してほしいものだ。。。うん?。。そうだサージャはどこへ行った。
「サージャ!サージャがいなかった。ウルダーと一緒にいると思ってたのに。。。」
「サージャ?」
「村にいた俺より少し小さい女の子だよ。黒い髪で赤い目で。。。」
「黒髪っ!どこから来た子!?」
俺の肩を再びガシッと掴んで迫ってくる。顔が近い。
「い、いや。。。ウルダーが連れて来たって。。。そこまでは知らない」
気迫に押されながらもなんとか伝えるが、俺の話は聞こえていないようだ。
「そうか。。。。生きていたのか。。。。でもどこまで。。。エルフは何を考えている?。。。」
目を伏せ手で口を押えて考え込んでしまっている。
「そうなると状況が悪い。もうこのまま潜るしかないか。。。カンラプクスのこともあるし。。。」
どういうことだ。何が何へ変わったのか全く分からない。サージャの奴何をやったんだ。
「えっと。。。それで?」
「様子だけ見て帰るつもりだったけど、あいつらに紛れる。」
「紛れるって。。。戦争中のところに!?」
「うん」
「俺マジで何も出来ないんですけど!?あの家に戻ろう?ね?戻ろう?戦争なら当人同士でどうにか決着つくでしょ!今から行く理由がないって!」
拉致ってボコして戦争にポイってマジで頭おかしいんじゃねぇのか。
「サージャちゃん」
「。。。サージャは強えし、むしろ相手の方が心配なくらいだわ。」
「サージャちゃんの力は君には効くけどマルジウム。。。。普通の人にはあまり効かない。」
「いやいやいや!バリバリにやばいから!あいつの力半端ないから!」
「それは愛の力。可哀そうなサージャちゃん。。。きっと今頃ムキムキマッチョなおっさんたちに弄ばれてる。。。」
「そんなわけわからない理屈があってたまるか!」
とはいうものの、俺にも当然サージャが心配な気持ちはある。でも俺が行っても仕方がないだろうに。でもこのまま離れて死んじゃっていましたってなったら胸糞悪すぎる。クソ。
アマルフィのさらに押し付けてくる頭に押されるように、俺も諦めがついた。
「わかったよ。。。。行くよ。それで紛れるってどうするんだ?」
「まずオーリを見つける。」
「オーリって」
「ニンフの工作員。マルジウムに潜入している。今回のことにもまず噛んでいるはず。」
「。。。あの村の裏切者ってこと?」
「その辺は本人にしかわからない。けどあいつは馬鹿じゃない。。。私たちが接触すれば都合をつけてくれるはず。」
「サージャは?」
「ニンフは。。。ドライアはサージャちゃんの出自については何か知っていそうだった?」
「いや、よくわからないって言ってた。。。」
「なら大丈夫。狙いはほぼ確実に君ってこと。オーリに私たちが接触さえできればあとは丸く収めてくれる。そのままマルジトに私たちは入り込んで情報を集める。そのあとは君とサージャちゃんについて、どこまでたどり着いているのか集めて離脱する。離脱は簡単。あいつらはザルだから。」
潜るって襲ってるやつの組織自体に潜るってことかよ。。。えぇ。。。俺は何もできないって何度も言ってるだろうに。お一人で行ってくださって構わないのですが。。。
「サージャは?」
「捕まっていれば私が逃がす。捕まっていなければ、私たちが着いた時点で心配はなくなる。その後はお父さんたちが保護してくれる。」
「。。。それでサージャも首を絞めてボコボコにするのか?」
サージャは俺より強いがこいつらより強いかはわからない。あいつがボコボコにされるのは流石に許容できない。
「それは無いかも。そもそもサージャちゃんは私たちと同類。仲間に手は出さない。」
それは一安心。。。なのか?つまり俺は仲間じゃないからボコボコにされたってことか?じゃあ俺のことを助けるってことでも無いのか?ますます混乱してくる。だが、本当に戦争中なら急がないといけない。戦争自体が嘘で俺のことを何かしようとしているのであっても、もフィリス達がどうにかしてくれるだろう。あの筋肉なら何とかなるに決まってる。
でも戦争に突っ込むってのはやっぱり嫌なものだ。怖いし。というか俺が行く理由がマジでわからない。ウルダー達が俺のこと殺しにでも来るのかね。何もわからない状態で悩んでいると、アマルフィが俺の服を噛んで引っ張る。こいつもサージャ達が心配なんだろう。尊い友情だことで。
「。。。わかった。。。急ごう。」
俺の言葉にうなずくと、すぐにハルは今までよりはかなり速度を落として、音を立てずに走り出した。




