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秘されし赤林檎  作者: 敬重感泣
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2.17赤のアスター17

 喉の奥からこみ上げてくる臭いに目が覚めると元の森にいた。すぐ横にはアマルフィが丸まっている。良かった、こいつも無事だったらしい。俺が起きたことにすぐに気が付いて、頭を擦りつけてくる。腹を押されて胃液が込みあがりそうだ。

「こらこら」

 少し力を込めて押しのけて、軽くその頭を撫でてやる。少し不服そうにフンーっと鼻息をたてて、でも気持ちよさそうに撫でる手に頭を押し付けてくる。全く愛い奴め。

 しばらく頭を撫でていると少し頭がすっきりしてきた。あれはいったい何だったんだ?

「よしよし。お前はいったいどこにいたんだ?俺は大変だったんだぞ。変な奴らに絡まれてマジで死ぬかと思った。。。」

 アマルフィは俺の質問に答えるわけもなく気持ちよさそうに身を寄せている。ぼんやりと考えながら頭をなでていたが、大事なことをようやく思い出した。ハルが最後にエルフの村が襲われているといっていた。あれだけ強い奴らがいるのだから、巨大な化け物でも来ない限りおそらく問題ないとは思うが、えらく胸騒ぎがする。できるだけ早く村に戻りたい。

 だが戻るとしても、どの向きに行けばいいのか。下手に自力で戻ろうとするよりウルダーが迎えに来るのを待っていた方が早いかもしれない。うーん、と悩んでいると、後ろの森の奥から駆ける足音が聞こえてきた。

「よかった。。。。。かも。。。。まだ。。。いた。。。」

 途切れ途切れ言葉を発するのはハルだ。やっぱり夢ではなかった。もしかしたら夢だったかもと思ったんだが。

「なんだ?また攫いに来たのか?」

 とっさに飛雄上がって地に足をつけて腰をかがめる。次は不覚は取らない。何が何でも逃げ切ってみせる。

「はぁ。道案内に来たかも。そもそも私は何もしてないかも。警戒じゃなくて歓迎してほしいくらいかも。。。」

 大きくため息をついてから、耳を垂らしてしょんぼりしている。ギリギリ聞こえたり聴こえなかったりする声量でお父さんがどうたらこうたらとグチグチ言っている。えぇ。これ俺が悪いの?とんでもない落ち込み具合に、なんだか罪悪感すら湧いてくる。

「いや、えぇ。。。えぇ?これ俺悪くないよね?ね?」

 アマルフィの方を振り返るも、我関せずだ。なんだか少し拗ねてるようですらある。マジでなんなんだこいつら。。。

 兎にも角にもハルさんを信じるしかないか。

「それでエルフの村が襲われてるって。。。」

「そうそうそうかも!。。。。そう。。。うん?エルフじゃなくてニンフかも」

 あれ?ニンフって誰だ?まあエルフじゃないなら俺には関係ないのか。。。?

「ニンフって誰ですか?」

「うん。。。?ムツキはニンフの村から来たんじゃないのかも?でもニンフの臭いがプンプンするかも」

 近づいてきてスンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでくる。少し恥ずかしい。

「「うーん」」

 互いによくわからず首をかしげる。ウルダーかサージャがニンフっていうのか?でもここに来るまで匂いが付くほどくっついていないしなぁ。アマルフィはすぐそこにいるからこいつでもないだろうし。

 やっぱり俺は知らないな。

「とりあえずそのニンフ。。。さん?って誰かわからないし、俺はエルフの村に帰りたいんだけど。。。」

「エルフ!?エルフが村を持ってるなんて知らなかったかも。。。道案内も無理かも。。。」

 一瞬目を見開いてまたしょんぼりしてしまう。結構目立つでかい村なんだけどな。どうしたものか。

「あっ!」

 ハルは何かを思いついたように拳で手を叩いた。語尾と言い仕草と言い、ほんとあざといな。。。そんでもって可愛い。完全に俺のツボを押さえていらっしゃる。。。。変なフェチを持ってるけど。

「羊ちゃんかも!こちらに来て最初に羊ちゃんたちと会ったはずかも!ムツキもそこからなら分かったりしないかも?」

 最初に羊?うーん。。。羊羊羊。。。もしかして

「羊ってギーギーギーギー鳴くなんか体がごちゃごちゃしたあいつら?」

 すると急にアマルフィが立ち上がってグリグリと顔を押し付けてきた。こいつも羊っぽいし、対抗心を燃やしてるのか?ふふふ。全く愛い奴め。俺もお返しに頭を撫でてやる。

「そうそう!そうかも!」

「そこからなら俺も分かる!そこまで案内を頼めますか?」

 よし。アマルフィと通ってた道だ。よくわからん攫われ方をしたけど返してくれるっていうんだからまあいいか。いいのか?

「アマルフィ、二人乗せられるか?」

「私は走るの得意かも。」

 俺がアマルフィに聞いたら、返答も待たず断られた。流石に女の子に走らせて俺だけ楽するのは気が引けるのだが。

 そんな俺の心配に気が付いたのか、ハルは自分の耳を持ち上げて謎のアピールをしてくる。まあ種族が違うって言いたいのだろうけど、その仕草がまた可愛らしい。耳の根元を持ってパタパタしている。俺がボーッと見つめていると、手はそのままで小首をかしげて見つめ返してくる。あざと可愛い。けしからんな。全く。

 そうと決まれば善は急げだ。さっきから酷く胸騒ぎがする。

「さあ行こ。。。」

「それは困るのよね。」

 聞き覚えのある声が俺の言葉を遮った。声のした横の木を見ると、陰からウルダーが出てきた。ナイスタイミング!こいつの力ならすぐ帰れそうだ。

「それより早くあの村へ行った方がいいと思うのよ。」

 ウルダーはゆっくりこちらへ歩きながら言葉を続ける。

「迎えに来。。。。」

「クソエルフがぁあああああああ!」

 今度は俺の声をハルが遮って、そのまま全力でウルダーの方へ突っ込んでいってしまった。

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