24._( 3_ 三3ブッ!
「今日はこの場所を中心に野営する! 見張りは道側に2人、残りは森側。他は薪木拾いと……」
グレイシャードの号令で野営の準備が始まる。
現在アーサー達は、コールロア村の村長の依頼で辺境の砦に物資を運ぶ部隊の護衛をしている。
部隊長のグレイシャードとその部下15人とアーサー達で2台の馬車を20日間守るのだ。
「ンゴンゴ」
「ヒップヒュッ! ズルズル〜」
物資を満載した幌馬車を引くのは馬ではなく豚人間で、長いロープの両端を馬車に括り付け、それを1台につき3人掛かりで引っ張っていた。
このオーク達はビアンカを襲おうとしたグループとは違い、村に住んで運送業等の仕事をしている立派な村人である。
はじめに護衛するメンバーを紹介された時のビアンカの顔はとても複雑だった。
「普通は馬とかなんだがな、速さより確実性を重視した。食糧は基本現地調達だ」
オークは雑食で人間と同じ物を食べるそうだ。
因みにこの国で消費される肉は主に魚で、その土地に住む住人の種族に合わせて食べる食べないが決まっている。
「積荷に豚さんが2匹居るけど……」
「非常食、と言いたい所だが、オーク達の女だ。連中は彼女達の為に命を懸けて働いてくれる。大事にしろよ?」
「てっきりあからさまに頑丈さの違うこっちの荷馬車に荷物があると思ってた」
「因みに名前はブンちゃんとブーブさんだそうですよ。曳頭の奥さんなんですって」
「グレーちゃん誰に聞いたの?」
「曳頭さん」
この輸送隊にはグレイシャードの妹・グレーテルも同行している。オークを始めとした他人種との通訳が役目であるらしい。
そして曳頭とは馬車を曳く3人組の責任者の事で、馬車に繋いだロープの輪の内側から率いて左右の部下にブレーキの指示を出す立場だ。
「そんな事より仕事しろ。見張りか薪拾いか水汲みか」
「周囲を見回ってから見張りするよ」タッタッタッ
「ヒゲモモ」
「大丈夫ですよ。この辺りには現在も採掘が続く鉱床が在りまして、ここからあと二日の距離までは他の村もあって治安は良い筈ですよ」
「ょんロロ」『なぜ会話が成立する?』
焚き火が出来て夕食が完成する頃になってビアンカが戻って来た。
「見てみて〜、きのこ!」ポイっ
「キノコくらいではしゃいでガキかっオオォ!?」
ビアンカがどこからかもいで来たピカピカと黒光りするキノコをカールに投げると、片手で受け取ろうとして予想外の重量に取り損ね、そのまま傘の部分が肩に食い込んだ。
「クソ重てェェェ!!?」
「"重鉄茸"? 鉱脈に根を張る金属性のキノコです、どこから持って来たんですか?」
「あっちの洞窟に生えてた」
「生えてるのをわざわざ抜いたんですか?!」
「ゴメンゴメン、怒らないでグレーちゃん」
「いえ、怒ってる訳ではないです」
金属鉱床に生えるこのキノコは、強靭な根を張るのでその重量と併せて引き抜く事は至難の業という。
押し潰される前にカールが投げ捨てたキノコは地面に深々と沈み込んだ。
「ゼェゼェ……70〜80kgはあるぞバカタレが」
「何遊んでるんだ。任務中だぞ」
「いーじゃん、鍋に入れてみようぜ」
「毒キノコなので食べられませんよ。それより貴重な茸なので管理をしている方が居る筈ですが、黙って持って来たんじゃないですよね?」
「え? 誰も居なかったよ?」
「そんな馬鹿な、盗賊団の件があったとは言え、こちら側で被害に遭ったと言う報告は有りませんし、有ったとしても村を挟んで反対側です。それにこの付近で重鉄茸が採れるような場所は、シャイターン村長の商会の管理下で操業は続けている筈です」
「妙だな。念の為アーサーを呼んでくれ。少し様子を見たい」
呼ばれてやって来たアーサーと一緒に着いて来た若い曳頭は、どちらも直前まで力比べをしていたとかで汗だくだった。
「暇そうだな? 特別手当て出してやるからちょっと近くの坑道を調べて来い」
「オイオイ唐突だな、明るい内かせめて飯食ってからだろ」
「ブーブー」
「なら食ったら行け」
「横暴だよなぁ」
「ヒブヒブ」
「ああ別に貴様は行かなくて良いぞ」
「ブヒ? ンゴゴ(バイバイ)」
硬質なヒヅメのある三本指の手をヒラヒラ振るオークの曳頭が離れるのを見計らい、アーサーがグレイシャードに詰め寄る。
「何で態々俺なんだよ? 物資は俺が全部運んでるんだぞ」
何を隠そう物資の殆どはアーサーがシャイターン村長に売った大量の武器の事だ。その他諸々を含めて引き渡す物資は全てアーサーのカバンの中に入っている。
実は2台の荷馬車の内、一つは二人のオークの嫁さん用で、彼女達の食糧も併せて載っている。そしてもう1台の方には大量の物資……ではなく、魔法で空間を拡張した特別な寝台馬車になっていて、そこにはユウが滞在している。
しかも夜間はグレーテルも寝泊まりするとか。
「つーか夜に思春期の男子と年上のお姉さんを、同じ屋根の下で二十日も一緒にさせるとか何考えてんだ?」
「村長の伝手で特別に造られたアレの部屋数は確か六部屋だそうだ。談話室、台所、冷蔵室、寝室が二つにその部屋に挟まれてトイレがある。安全で快適な空間の筈だ、お前は一体何を考えているんだ?」
「ナニをってお前わざとだろ?」
「テメーらナチュラルにアタシを女に含まねーのな、泣くぞ」
「そんな事より、お前らなら近くの坑道の様子を見るくらい、すぐに済ませられるだろ」
「契約は豚車の護衛だぞ、何で俺達にパシリさせんだコラ」
「契約外だから相談してやってんだろテメーに。盗賊団の残党がまだ居る可能性を考慮すれば、そこの馬鹿力女が村長の縄張りにある坑道に誰も居ないなんて言うなら確認しない訳にはいかないんだよ」
「チッ、じゃあビアンカとカールを行かせるよ」
「えー、アタシが行くのー?」
「当たり前だ。勿論部下を一人付けてやる。ああそうだ、ベルマッシュは元の場所に返して来るんだぞ。村の財産だからな」
「ねーカールが落っことしたの、埋まっちゃって取れないんだけど?」
「知るか」




