23._(┐「ε:)_
昨日、コールロア村にやって来て最初に案内されたのと同じ部屋。その端っこに2つの大きなソファが卓を挟んで向かい合い、イブリースが1つを占領し、対面にビアンカとユウとイェンの3人が座っている。
カールは部屋に入る前に何処かへ行った。
「これらの書類は滞在中の仮身分証発行の手続きで、こちらはユウ、君の……」
「なんでもイーけどさー、こーゆーのアーサーがまとめてやるもんだから、勝手な事はしたくないんだよね」
「……そうなのか。だがこれは坊や君らの将来に関わる書類だから目を通すくらい、するのが良かろうて」
「だってさ。ハイ」
「ありがとうございます」
ビアンカの隣に座るユウに書類が手渡され、いくつかの書類に目を落としている。
その隣からイェンが読めない部分を代読(DM)する。パッと見では一緒に黙読してるようにしか見えない。
「……見れば見る程、訳のわからん奴らだ」
「どーも」
「…………」
「…………」
ユウが紙を置いては次の書類を取り上げる音だけが部屋に満ちる。書類の材質は様々で、見慣れた木製紙もあれば羊皮紙もある。
紙同士の擦れる音や持ち上げて鳴るペラペラという音がやけに大きく聞こえてなんだか気まずい。
『何か話題ちょーだいよ』
『今書類からこの国の文字を勉強しているので遠慮させて下さい』
『今書類からこの国の文字を教導しているので遠慮させて下さい』
『んー、ならしょうがないか。あ、カール! お前何してんだ?』
『緊急事態だ。トイレが詰まったのに、バケツもスッポンもねぇ!』
『なんでウチのツートップはどっちもクソッタレなんだろう?』
思わず深い溜息が漏れてしまう。すぐにあっ、と口を塞ぐが、それを見たイブリースの口がちょっとだけ「へ」の字に結ばれた気がした。
「ごめんちゃい」
「何故謝る? 謝るべきは俺だ。もてなしの下手糞なこのジジイがな」
そう言うとイブリースはソファから徐に立ち上がり、壁際の棚から薄い遊戯盤と箱を取り出して戻った。
「とりあえず待つのも暇だろうて、もっと簡単な物が有ればまだ出し易かったが、コイツで我慢してくれまいか?」
丈夫な布張りの遊戯盤に箱の中身をジャラジャラとぶち撒けると、沢山の四角いものが転がった。
「ちとルールが複雑だが、要は如何に運とやり繰りで稼ぎをより大きな資産に繋げられるかの勝負………その名も"戦争特需"だ」
イブリースはなるべく解りやすくルールを説明してくれた。
駒には様々な絵が描かれており、34種類が4つずつの計136枚の中から14枚を組み合わせて得点を競う。
「つまり"麻雀"じゃーん」
「"まーじゃんじゃーん"? お嬢ちゃんの所ではそう言うのか?」
「イヤ、"麻雀"。牌の絵柄と呼び方…以外のルールとかはたぶんおんなじだと思うよ」
「ほう! そうか、つまりすぐにでも出来るんだな?!」
途端に上機嫌になったイブリースがニコニコして顔を近づけて来るのを思わず押し退ける。
そんな無礼を働いたのに、「悪い悪い」と謝りながらソファに座り直した。
「全く! 貴様らは底が知れんと思ってたが、こんなに嬉しい事は滅多なもんだぞ!」
「へーそーですか」
「起源はハッキリしていないが、とても古い遊戯だそうだからな。似たようなのが他国にあっても不思議では無い。ただ、こっちではあまり知られていないんだよなぁ……っと、愚痴はこのぐらいにしていっちょやってみるか!」
§
気がつくと外は太陽が沈み始めており、手元の時計を確認するには少々暗い時間帯になってきた。
営業の成果にホクホク顔で皆の所へ向かうと、何やら賑やかな声が聞こえる。
「買占! んで…コレだぁ!」
「甘い、貴様の捨てた珍品の帆布を待っていたんだ。買了、 三裏品、珍々(ドラドラ)!」
「チクショー! 傑連作が〜」
「どれどれ、ほほ〜! 惜しかったな〜、折角九貨の三種までもが揃った所だったのにな〜♪」
「クソ〜、まだまだぁ!!」
「いや、もう終いだ」パンパン
手を叩いて解散を促すが、物足りな気な妹分とジジイが揃って頬を膨らます。
「そーは行くか! このままじゃあ、負け越しだ!」
「俺やシャイ以外でコレが出来る奴は希少なんだぞ! 年寄りの楽しみを奪うな!」
「うっせー、俺が来るまでの時間潰しだろうが。だったらもう終わりだ。次の機会が有れば、俺が相手してやるからさ」
「嫌じゃ、ピチピチの女子の方が良い」
「おーいグレン、スズ、このジジイ連れてってくれ」
「ああ。隊長、行きましょう」
「嫌じゃ嫌じゃ! 離せ、コレは命令…」ガッ
「アーサー?! 貴様隊長に何をする!?」
面倒だからつい顎先を抉ってしまった。
「……あ〜そうだ。オイお前ら、村長さんから商隊の護衛依頼を頂いた。明後日の明朝から20日間の日程になるそうだから、そのつもりで準備しとけ。それまでの拠点は昨日の物件を引き続き利用させてもらう」
「コッチ向いて話せよ」
「………………手間が省けたって事で、今のは見なかった事にしよう」
「グレイシャード、そうは行くまい」
「……スズ、先月の負け分チャラにしてやる」
「え? んーじゃあ『隊長は酔い潰れていた』って事にしとこう、なぁに、避けられない隊長が悪い」
「オイオイ」
「ん? 遊戯盤の下に書類があるゾ。しかもまだ何も書いてないじゃないか(ちょっとシワになってるし」
「あーそれな。そーゆーのアーサーがバーッとやるから」
カカッシャシャシャシャシャシャシャシャシッ!
「ホラ、コレでいいだろ? 残りはスズさんの持ってるソレだけだ」スゥー
「何つー早業?! おっと悪い、ッてうおぉぁ!? 俺が手に持ったまま書くな!? 横着しやがって、破れたらどうするつもりだ」
「それ羊皮紙だろ? 大丈夫大丈夫。それにもう書き終わったさ。ハンコ押せば終いだ」
「こちらも書類の確認が終わった。あとはその紙に判をして持っとけ、それはあの家の借用書だからな」
「なんだかお二人とも似てますね。大雑把な所が」
「よして下さい、群れを率いる狼と光物に目がない獣では優劣が付けられませんよ」
「伸び伸び元気に育った猛獣とリードが無きゃ威嚇も出来ない飼い犬とじゃ、価値観や環境が違い過ぎて比べられねえよ」
「……やるか?」
「ホラ、口だけ達者な飼い犬は律儀で賢いねー」
ドォン! ゴッドゴン!!! ガッシ、ボカっ
「あのッ! さして広くない部屋で暴れるのは辞めて下さい!」
「おお……、あのグレイシャードがケンカしてる………」
「どっち賭けるー?」
「アーサーに決まってんだろ」
『じゃあ頭巾繋がりでグレイさんに1億|閻≪wen≫』
「少ねえな! 1円当たり小数点以下0幾つくっ付くんだ」
「賭けにならねーじゃんかよー。もっと出せるだろー? ちょっとジャンプしてみな?」
『賭けどころか遊んでる内は勝負ですらない。賭ける意味ないね』
「ちぇー、じゃあアタシは間を取って引き分けに10ロール」
「何事ですか一体?!」コココン!
そこへ現れたのは大きな眼鏡とポニーテールが特徴の女の子。
「うわあ!? お兄ちゃん何してるの!?」
「お兄ちゃん?」
どうやらグレイシャードと兄妹らしい。言われて見れば黒い髪の癖と黒い目の辺りが似ている気がする。
「あわわわわ! あーんもう! 喧嘩両成敗!!」
パンパンッ!
「どぅおおお!!? 危ねゲッ!?」
何をトチ狂ったのか、グレイ妹が喧嘩する二人へ向かって発砲した。
しかも撃った弾は両方ともアーサーの方へ向かい、咄嗟に両手で受け止めた所へ強烈なアッパーを食らって昏倒してしまった。
「「『「ええ〜〜〜!!!??」』」」
「ふぅ、ふぅ………どうしたんだグレーテル?」
「どうしたもこうしたも無いよ! 殴り合いなんて、死人が出たらどうするの?!」
(イヤ、発砲したのはアンタだよ!?)
ペシッ「あ痛ッ」
「人に向かって銃を撃つにはまだまだ未熟過ぎる。この馬鹿に飛んで行ったからよかったものの、対応できない者に向かっていたらどうするんだ」
「だって………ごめんなさい!!!」
ごめんなさいで済ませるにはあんまりな対応だが、CBBプレイヤーにとって突然の銃撃は日常茶飯事である。避けられなかったアーサー'も'悪かったという意味で素直に謝罪は受け取った。
「まあまあ、こちらも過失はありますし、ところで用件は何でしょうか?」
「あ、夕食をどうするのか聞きに来たんですけれど……因みに今日の献立は"三千牛のステーキ"です」
「なら御相伴に預かりましょう」
「え…と、この方は?」
「場所さえ分かれば後で来るでしょう」
ムクッ「みんな酷くね?」




