22._(-ω- 」∟)ちょっと休憩
その後、シャイターン村長はいくつもの刀剣を買い漁り、ホクホク顔で満足すると使用人を遣ってイブリース隊長を呼び出した。
「ななっ何じゃコリャー!!?」
案の定である。グレイシャードともう一人の部下を伴って現れたが、全員似た様な表情だ。
当の呼び出した本人は何故か誇らしげだ。
「貴様らこんなに持ち込んで戦争でもおっ始める気か!?」
「滅相もございません」
「まあまあ、その気持ちは痛いくらいによく解るよ本当に」
「え、ちょっヤダー!『貴様'ら'』って何よ!? こんなのと一緒にしないでよー?!」
「こんなの……(・ω・`)」
「やけに油クセーと思ったら、テメェの仕業かアーサー」
「よぉグレイ、弾切れのお供に何か買いますか? 5本まとめ買いで2アールにしますぜ」
「うるせぇ寄るな、気色悪い喋り方しやがって」
一緒に連いて来た人は小刻みに戦慄いて絶句している。先端恐怖症だろうか?
グリーンのパーカーを着てグレイシャードと肩を並べている所を見ると、同格の階級だろう。
「フンッ、いくら数が揃っていようと使えなければ意味が無かろう。何だこのバカデカい剣は? 資源の無駄使いだろうに」
イブリースが目を付けた大剣は柄を含めるとカールの首から爪先程の長さを持ち、肉厚の刀身は地面から臍のすぐ下の高さまである。
「もし良ければ使用説明致しますが?」
「これのか? デカ黒い兄ちゃんでも持て余すと思うが?」
「いいえ、私の蒐集品のテーマは"使いこなした武器"です。ここに自分の手に余る武器は一つとしてありません、よっと」
革製の鞘に納めたままの大剣をむんずと掴み、切先を上にして肩より上に持ち上げる。
柄頭には手を添えるだけで、柄を握る手首の捻りで剣の裏表をクルックルッと披露して余裕のアピールを忘れない。
最後に重力に任せて上下逆転させ、そのままの勢いでは床に傷を付ける所を筋力で抑え付け、静かに元の位置へ戻した。
「今この剣を買えば、この中からお好きな一振りを差し上げます!」
「買った!」
声を張り上げたのは緑のパーカー男。
「スズ!」
「毎度ありー」
「貴様財布は持って来てないだろ、どうすんだ?」
「申し訳有りませんが給料から天引きで立て替えては頂けませんでしょうか?」
「バカタレ! 公私混同するな!」
「まあそう怒るなイブリース。ここは私が立て替えておく、スズラン、男に二言は無いな?」
「有難う御座います!」
この"スズラン"と呼ばれる男は、その後1年間の減俸処分という形でローンを支払う羽目になる。理由は公務に於ける私情の優先である。
「あの、値段は……?」
「気にするな。そんな事より、君は実用重視の蒐集家だろう? 手に取って確かめなくて良いのか?」
「はぁ、あ、いえ、確かめさせて頂きます」
「どうぞ」
スズランと呼ばれる男は大剣を受け取ると、無造作に柄頭を握り切先を上に向けた。
「アーサー、君には紹介して置こう、彼の名は"スズラン・アイズマン"。私と同じ蒐集愛好会のメンバーだ」
「"アーサー・リッパースター"です、どうぞよろしく。気に入りましたか?」
「ああ、実に素晴らしい。ふぅ、紹介に与った"スズラン"だ。君の事は話に聞いちゃいるが、目利きの方も一流みたいだな」
「ほう、判りますか?」
「ああ、これ程の質量と滑らかで広い表面積が有れば普通、業者が色んな魔法を載せてしまうがこの剣にはそんな余計なモノが無い。かと言って劣っているのかというと真逆で、重心が………」
と、武器談義が始まってしまった。3人とも会話に花が咲いて暫くは止まりそうにない。
「付き合ってらんないわ、行こっ」
「待て、俺も出る。グレイ、この馬鹿共を見張ってろ」
「……了解」
「必要な書類は全部用意している。ほとんどは準備が完了しているが、残りの書類は本人の署名捺印が必要なのだ」
「捺印? ユウ君のハンコはまだ作ってないんだけど……」
「ん? 持って無いのか? はぁ、どうせ家を出る時に金目の物を優先して来たんだろう。最近の若いもんは分かり易いモノにばかり囚われているのだから全く……」
「隊長。もう出て行きましたよ」
「………」




