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『S・A・F』は最高の職場デス  作者: 春夏秋冬
出会いと別れ
9/16

8 追いかけっこ

 

「はははっ、色々説明不足ですまんの! しかしこれはアッキーにお願いする仕事をやりやすくする意味でもあったんじゃ!」

「やりやすく?」


 事務所に戻ってアリスさんにシロのことで話しかけるとこんな返事を返されてしまった。


「そうじゃ。アッキーには獣人族の国を任せたいと思っていてな! 体の大きさが強さを表すと思っている獣人族は多いからアッキーにはピッタリじゃろうし、あの子がいれば信頼も得やすかろう!」

「獣人の国? てか、ほんとにそれだけか?」


 はははと笑うアリスさんだが……怪しいったらない。


「あと、あの子をこっちに連れてくるのは今はダメじゃ」

「ダメか。一人残すのも可哀想だし、風呂とか入れてやりたいんだがな。あと服もボロボロだし」

「新人研修が終わってからなら好きに連れてきてよいが……まぁ、外に出さないならよいか。腕輪(リング)にアッキーの家を登録しておいたから、好きな時に直行直帰してよいぞ。それとほいっ次のパートナー用の腕輪じゃ」

「ありがとう、助かる。……こんなホイホイ腕輪(リング)をもらっていいのか?」

腕輪(リング)はアッキーの力があれじゃからな。あった方がよいかなと思ったんじゃが。別に相手を一人に絞る必要もないしの」


 うーん、今はまだ連れてきちゃダメなのか。

 というか、新人研修だなんて初めて聞いたんだが……。


 その他移動手段や金銭のこと、あっちの世界の簡単な常識のようなものについて教えてもらって話は終わった。

 それと、パートナー用の腕輪(リング)だけでは行き来出来ないらしい。

 渡して勝手に行き来されたら困るからだそうだ。

 もっと知りたいこともあったのだが、


「全部を教えてしまっては情報量が多すぎるからの! 新人研修期間が終わったらまた話してやろう! ひとまずあのシロという少女とあの島で力の使い方を覚えて、それから『ロンウェルの北の町』に連れて行くのがアッキーの新人研修じゃ!」


 そう言われてしまった。

 割と魔力は使えるようになってると思うんだがなぁ。

 『ロンウェルの北の町』とやらは腕輪(リング)の地図から確認するとそこまで遠くはなさそうだ。




 コンビニで飯を買い込んで事務所に戻ると、ちょうどカナがいた。

 学校は大丈夫なんだろうか。


「昼休憩。でアリスさんのお昼ご飯作り。お金もらってるから別にいいんですけどね。移動は一瞬だから」

「そうか。じゃあ俺はまた行ってくるよ」

「……真面目にやり過ぎても疲れるだけだからほどほどにね」


 そう言うとカナは台所へと向かってしまった。

 最後の言葉が気にはなったがまた今度聞けばいいかと思って島へ戻ってみると、可愛らしい笑顔で尻尾をブンブン振りまくるシロがいた。



 ◆



「さて、力の使い方の練習をするぞ」

「わかりました師匠!」


 戻ってきてまず聞かれたのは一緒にあっちの世界にいけないかどうかだった。

 魔力の使い方を練習してからと伝えたらやる気マンマンになってしまった。

 しかし、魔力の練習なぁ……どうしたものか。


「うむぅ……」

「どうしたんですか師匠?」

「いや、どんなやり方が良いかと思ってな」

「わ、私との夜のことですかっ!?」


 ……とりあえず頭を撫でておこうな。

 この子はだいたいこれで収まってくれる。

 今も頭を撫でられて「えへへ~」と幸せそうな顔をしてるので、効かなくなったらまた別のことを考えよう。

 しかし、すっかり懐かれてしまったな。


「じゃあ、魔力を使って追いかけっこをしようか」

「追いかけっこですか?」

「俺がシロを追いかけるから、魔力を使って逃げてくれ。俺にタッチされたらシロの負け、時間まで逃げきれたらシロの勝ちだ」

「わかりました!」


 魔力の使い方自体は俺もシロもなんとなくわかってきてるから遊び感覚で慣らすか、と思って提案した魔力おいかけっこだったが、結論から言うとシロはとんでもなかった。



 ◆



「よーし行くぞー!」

「はーい!!」


 足に力を込める。

 魔力が爆散し、それが爆発的なスピードを生む。

 体全体も魔力で強化しているので反動等は問題ないが、このスピードで移動する感覚は慣らしておいた方が良さそうだな。


 シロもうまく出来ているだろうか。

 そう思って先ほどシロがいる場所を見るが……動いてない?


「なんで逃げないんだ?」

「シロには出来ません。訓練でも師匠から逃げるだなんて……」

「さっきの話聞いてた?」


 シロが良い子過ぎて泣けてくるわ。

 とりあえず攻守交替しないと出来そうにないので俺が逃げる側になった。

 これでシロも動くだろう。


「すぐに師匠のところに行きますねー!!」

「おー、いつでもいいぞー!」



 一応俺とシロの位置情報を補足しておこう。

 ヤツマタが湖まわりの木をぶっ飛ばしてくれたのもあって、更地のように広くなった湖畔で、100メートル以上は離れてに俺とシロは立っていたんだよ。


 結論を言うと、話が終わったと同時にシロが消えた。



 ……消えたというのは少し違うか。

 俺はずっとシロを見ていた。

 シロの体が一瞬上下にブレ、そして消えた。

 とてつもない速さによる視覚外への移動……そう、シロは空高くジャンプしたのだ。

 元々備え持った白狼族としての体の強さと俺の魔力がかみ合った結果だろうか。


 俺は立っていた場所から真横に飛んで飛来するそれを躱す。


「なんで避けるんですか師匠!?」


 そう言うシロの周りにはクレーターが出来ている。

 いやいやどんな威力だよ!


 ……ハッ、シロは既に次のモーションに移っている。

 あれは、溜め?


 背筋がゾッとする感覚を今まで何度か味わったことがある。

 中学の時、バスケ部の試合に駆り出されて地区の決勝までいった時だった。

 俺と同じぐらいでかいヤツがいて、試合後の握手の時に耳元でボソッと「君に個人的なダンクシュートを決めたい」と言われた時。

 高校の時、柔道部の部長がどうしても一度練習を見に来てほしいと言うので見に行くと柔道場には誰もおらず、ガチャリという音とともに閉まる扉。

 静かに近づいてくるヤツの笑みを見た時。


 他にもいろいろあったが、何故だろう、それに近いものをシロから感じるような気がする。



 殺られる。

 そう思って、なんとか体を半身にするのが間に合った。


 俺の目の前を通り過ぎたのは白いレーザーだった。


 直後、昨日この島に移動した時に立ち降りた山が中腹から砕け散り、とてつもない音が鳴り響く。

 しばらく呆然として見ていたが、未だに地響きも鳴り止まない。


 おそらくシロは俺に触るという一心であそこまでの力を出したんだろう。

 シロ、恐ろしい子。


 ……わかったよ。

 そこまで俺に飛びつきたいなら、いいぜ。

 受け止めてやる。


 追いかけっこの趣向が変わってるが、あれを止められないようならこの世界で何も出来ない気がするしな!



「シロー、次は動かないからなー!!」


 そう言って両手を広げる。

 大丈夫、見える。

 先ほどシロが突っ込んだところ、そこでもう一度シロが力を溜めているのが見える。

 受け止め方を少しでも間違えると命を狩り取っていきそうなシロの渾身のタックル。


 見える! シロがこっちに向かって飛んでくるのが見える! 両手を広げて突っ込んでくるあれは……抱っこのポーズか!?

 う、受け止める! 全力で!! 目の前に目一杯の魔力障壁を展開! あれを止める! そして俺の腹部にはクッションを何重にもイメージ!!

 そして……ッ。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「しいいいいいいいいいしょおおおおおおおおおおおおおお!!」



 ◆



「抱っこしてもらえたのでシロの勝ちですか!?」


 絶賛俺の腰に抱き着き中のシロ。

 とても満足そうに耳はピコピコ、尻尾は飛び跳ねるように揺れている。

 俺はというと立ったまま抱っこという名のレーザータックルの衝撃を殺しきれず、後ろに倒れてしまった。


「あぁ、そうだな。シロが可愛いから思わず抱っこを受け止めてしまったよ。でもあの本気の抱っこは俺以外にしちゃダメだぞ。相手を殺しちゃうかもしれないから」

「し、師匠以外にそんな恥ずかしいことしませんしッ!」


 恥ずかしそうに顔を赤くしてお腹に顔を埋め、首を横にフリフリするシロ。

 抱っこで人を殺せる系狼少女シロか。

 言葉にするとたしかに恥ずかしいかもしれない。


 しかし、遊びながらでもいい魔力の運動になった気もするし、明日もやってみよう。

 今日はそろそろいい時間だし終わりだな。


「じゃあ、一緒にうちに戻るか」

「はい!」



面白かったや頑張れなど、評価いただけると励みになります!


よろしくお願いします!

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