第0手:落ちこぼれの退魔師
女の子が触手で戦う何かです。エロはたぶんありません。
初っぱなは主要人物と世界観の紹介から。
思い付きで書いております。整合性のなさからくる不快感にご注意を。
「ほら、何してんのよ姉さん。もっと指先に集中!」
ここは日本。田舎ではないが都会でもない、中途半端な住宅街が広がる閑静な町、深霞町。
「や、やっています……」
そして時は21世紀だ。あらゆる情報や事象が電子的に管理されている。いくらここが都心ではないと言えどすぐに全国のニュースが入ってくるし交通の便もいい。
「じゃあ何で出来ないの!?」
なのに何故。
「え、と……何故でしょう」
私はこんなことをしているのだろう。と、綾瀬院鈴音は思わずにいられなかった。
「はぁ、ほんと……姉さんは才能が欠片もないわね」
馬鹿にする、というのを通り越して心底呆れたように額に手を当てながらため息をつくのはそんな鈴音の隣に立つ少女。何やら白い牙のような髪留めでもってツインテールに纏め上げた髪は長さこそ腰に届かんばかりだが不思議とボリューミィには感じない。勝ち気な性格を示すようなつり目とくっきりした眉毛を哀れみに曲げながら空を仰ぐ表情は、どこから見てもまるで精巧に造られた人形のようにパーツの配置が完璧であった。紺のセーラー服と胸元に見えるワインレッドのリボンとのコントラストが眩しい制服、更に風に靡く黒のミニスカートが年相応のあどけなさも残しつつ、悩ましげな顔もまた絵になるほどだ。
「こ……小鳥? き、今日はここまでにしませんか……? ほら、いい時間ですし……」
そんな彼女の視線が外れているのをいいことに、美鈴は自分の左手首についている腕時計をちらりと見た。時間は午後6時、落ちかける太陽が帰宅を急かすように周囲をオレンジ色に染め上げている。
しかし、小鳥と呼ばれた少女は姉の方に戻した瞳を不思議そうに丸めるだけ。
それもそのはず。
「何言ってるの。夕飯前までみっちりやるわよ」
只今、二人がいるところ。
「家の中庭なんだから」
それは広大、という以外の形容詞が見つからないほど立派な屋敷の、これまただだっ広い庭のど真ん中であったからだ。
確かに自分達の家の敷地内であれば夜中までそこで過ごしても大丈夫であろう。
「……ですよね……」
妹とは違う、上下紺のブレザー制服に身を包んだ肩をがっくりと落とす鈴音。妹とは対照的にスカートは長く、膝まで隠れている。
「さ、もう一回よ姉さん。綾瀬院の人間が霊力の炎も灯せないなんて、妖魔に見られたら笑われちゃうでしょ」
「……本当に、どうして……」
「何か言った?」
「いえ、何もっ!」
本当にどうして、こんな家に生まれてしまったのだろう。
綾瀬院家。有り余る敷地と資金を持つ由緒正しい名家。
ここまでならばただの金持ち、で世間の印象は終わってしまうのだが、綾瀬院の綾瀬院たる由縁は他にあった。
人知れず人を襲う、人ならざるもの……妖魔から深霞町の人々を守るという、所謂『退魔』の役割を担ってきたのだ。先祖より連面と受け継がれてきたこの裏の仕事は、鈴音と小鳥という姉妹の代で54代目に当たる。
故に綾瀬院家の血が流れる者には、例外なく『霊力』が備わっているはずなのだが。
「ふ、っん……んんんっ!」
「……全っ然出てないわよ、霊力」
しかし鈴音には、全くと言っていいほど霊力の才能がなかった。
いや、才能がないというのではない。
霊力自体を持っていなかったのだ。高名な霊媒師に見てもらっても、その欠片も感じられないという。なので今は、退魔の仕事は妹である小鳥が一身に請け負っている形だ。
鈴音はそれでも良かった。というよりそれが良かった。もともとがっつく性格ではない彼女にとって、姉なのにと考えるプライドは備わっていないし楽が出来るのに越したことはない。
しかしこうやって小鳥は、そんな役割の合間を縫っては鈴音を特訓に駆り出す。
――本当に妖魔なんているのだろうか。
足手まとい必至な鈴音が妹の戦闘に同行させられたことはない。中学を卒業するまで、そんなことを考えたことも一度や二度ではない。
しかし、実際に妖魔はいるし、霊力という概念も存在する。
「ねー、もう止めましょうヨ。時間の無駄だシぃ、ワタクシお腹が空いちゃったワー。今日だっテ、妖魔の目撃情報はないんでシょ?」
――立てた人差し指を必死の形相で睨んでいた鈴音の前に、折しもその証拠が姿を現した。正確には、腰に手を当てて姉を監視する小鳥の背後から『生えてきた』。
褐色の肌。赤いボンテージは露出の方が多い、特に優にHカップはあるであろう巨乳の谷間をこれでもかと強調するデザイン。見た目的には二十歳ほどの女性は、それに負けないほど真っ赤なロングヘアの前髪で隠す右目の泣き黒子が時折見えるのも相まって非常に扇情的だった。尾てい骨辺りから伸びている黒い尻尾はふにふにと揺れ、触り心地が良さそうだ。そして何より人外である証――それは背中に背負う巨大な翼をはためかせ、優雅に宙に浮かびながら、むちむちとした足と腕を組んで鈴音にこれまた深紅の冷ややかな視線を落としているこの状況に他ならない。そしてその下には影が二人分……つまり、空中にいる女性の影だけがなかった。
「あんたは黙ってなさい、ミラ」
しかし小鳥は驚く様子も見せない。むしろ声のする方を見もしないまま、険しい表情を姉に向けているだけだった。
鈴音のみ、ミラと呼ばれた女性を見上げてペコリと頭を下げる。
「あ、ミラさん。こんにちは」
「どーモぉ、スズちゃン。今日も意味のない修行、ごくろーサマ。相変わらず出てるのはおっぱいだけネ。それもワタクシほどじゃないけド」
ミラの反応は冷たかった。にっこりと微笑んではいるが、制服も破らんばかりにその存在を主張する胸を真っ赤な瞳に映しながら言い放つ言葉は刺々しいどころか棘そのもの。
ここで小鳥が、苛立たしげに軽く舌打ちをする。
「……ねぇ、明日の妖魔はまた美味しいから。それまで大人しくしててくれない?」
横目で睨め上げた顔は相変わらず整いながらも怒気が溢れてくるようだ。
「あラぁ、嫉妬怖いこわイ。主人に言われちゃったら仕方ないわネぇ。退散退散っト」
しかし全く堪えた様子も悪びれた気配もなく、大袈裟に肩を竦めて見せたミラは、掃除機に吸われる異物のようにスルッと小鳥の背中に引っ込んでいった。
「ちょっと、誰が貧乳よ!?」
これが『使い魔』と呼ばれる、即ち対魔師のパートナーである。
一部の妖魔は人間側につくことがある。当然、そのほとんどが私利私欲の為だしある程度の実力は認められなければならない。そうでもなければ何故同族を裏切り、あまつさえ戦おうか。
吸血鬼であるミラの場合は、『他の妖魔の体液を吸わせる』 という内容で小鳥と使い魔の契約を結んでいる。平たく言えば、小鳥が妖魔を倒したなら、そのおこぼれに預かるのが目的だ。わざわざ他の妖魔を襲う必要もなく、そちらの方がミラ的にはずっと楽なのである。多少なりとも手伝ってもらえれば、小鳥にとっても損はない。
「今日も美人だなー、ミラさん。私にもあれくらいの使い魔がいたら……」
その美貌を前に、同性ながら見とれずにはいられない。彼女がいなくなってもしばらくはその香りが残っていそうな存在感に鈴音は思わず口に出していた。物欲やプライドは母親のお腹の中に置いてきたが、人並みの憧憬は持っているのである。ちらりと見られただけの胸が、それだけで高鳴ってしまうほどだ。
「いいからさっさとやる。どっちにしろ今の姉さんじゃ、そこらへんの犬だって着いてきやしないでしょうが」
「そ、そこまで言わなくても……。えいやぁっ!」
「だから出てないんだって掛け声ばっかりで!」
――綾瀬院鈴音、16歳。
身長――161センチ。
スリーサイズ――96、59、91。
髪型――腰まで伸びる黒髪ロング。
瞳――黒のたれ目。
趣味――のんびり空を見ること。
特技――体が柔らかいこと。
霊力――なし。
使い魔――なし。
職業――高校一年生。
ある妖魔との出会いによって、運命を大きく変えられてしまうことを……彼女はまだ知らない。
女の子ばかりであります。
男キャラどうしよう。なにも考えてない。
では、また次回お会いしませう。




