第21話 戦争の準備を始めましょう(2)
不定期ですが、コツコツ更新しております。
あと何話か戦争準備だったりなんだりのお話が続きます。
それでは、どうぞ。
戦争に必要な物は多岐に渡る。
水、食料、日用品、消耗品、武器、兵器、そして女。
それらを全て計画的に運用し、前線を維持させる部署を後方支援、つまりは『兵站』である。
うん、その責任者となったのは俺のご主人様、王太子エルライドの母方の実家筋のベザリウス侯爵家次期当主とされるシャックス・フォン・ベザリウスである。
武の名門とされるベザリウス家は代々軍部の重職に就いており、エルライドにとって従兄弟に当たる人物で現役バリバリの将軍様である。
今回の内乱でシャックスは副司令として軍の後方において兵站の全てを統括する立場である。
そしてその上司となった俺、『反乱軍討伐』の司令となってしまった俺は嫌でも毎日シャックスと顔を突き合わせる事となり、現在も兵站の綿密な計画を話し合っている途中である。
ちなみに兵站のお仕事は物資の補充だけすればいいというものじゃない。
行軍での移動計画や施設の構築、そして兵員をどう展開すれば最もよいのか、そうした後方支援業務の事を指すのだ。
『兵站学』がまだ発展途上の世界からすれば補給の計画的な管理と効率的な実行を追求するのは非常に頭の良い軍人、特に計算高い軍人が必要とされる。
「…ユーリ君、この計画書だと後方支援の我々は寝る間が殆どないのだが、休憩の割り振りはどうなっているのかな。
それと娼館と契約して兵たちの慰安所にするというのは悪くないが、衛生面で不安が残る。
最低限の基準が必要だ、あとでどこまでの基準がいるのか協議するため他の幹部たちを呼んで会議をしよう。
あと最近戦争特需として日用品を普段の倍以上の値段を吹っかけて来る悪辣な商人がいたのだが、こちらで対処してもらったがよかったかい…ふむ、良かったのなら次の案件だ。
次に…」
俺の返事を聞く以前に事後承諾のような対応をしているこの男、豪快そうな面をしながら内面が完全な合理主義な性格をしている男こそシャックス・フォン・ベザリウスである。
嫌いじゃないんだが、どうにも苦手なんだよなこの人。
前世の大学にいた担当教官みたいな、機械的な面の強い人間味の欠ける人というか…普段はフランクな話し方になるんだが、打って変わって仕事、軍務となると極端なまでに感情が抜け落ちるというか、機械と話しているようにしか思えなくなるというか…ぶっちゃけ気味が悪い。
悪い人じゃないのは分かっているんだが…生理的に合わないというか、あんまし面と向かって話したくないというか…とにかく一緒にいると気分が沈んでいくのだ。
「あーベザリウス副司令、俺これから鍛冶師ギルドに行って使用する武器の整備をしてくれる鍛冶師の貸し出しについて協議してこないといけないんだ。
時間のかかりそうな会議は明日以降にしてほしい。
それが終わった今日はもう王宮には上がらないから」
とりあえず、今日は鍛冶師ギルドで用があるからさっさとこの部屋から出て行こう。
「そうか、このあと高級娼館で一杯ご馳走しようかと思っていたのだが、そういうことなら後日としようか、残念だ」
…彼なりの冗談なんだろうが、非常に反応に困る振りに俺は苦笑いして部屋を出た。
あんな機械的な淡々とした口調で誘われても高揚一つしないっての。
ちなみにこの代金は『交際費』として経費扱いらしいが、これ間違いなくエルライドが王様になったらこの手の経費は認められないだろうなぁ。
「…ていうか、俺初めては好きな人としたいからどの道高級娼館に行っても酒飲んでそのまま帰る事しかないけどな」
ちなみに、貴族の男子は童貞だと初夜の時大変だろうという事で男親から信頼の置けて後腐れのない娼館や秘密を守る事の出来る女性に性の手解きをしてもらうとのことだ。
ちなみに貴族の女子は男と致すに当たって『きゃー』とか『あーれー』といった感じでリアクションのお勉強をするらしい、学院でそんな事するとか貴族の女子も女子で大変だね。
…というか、この講義ってエルライドも受ける筈なんだけど、王族だからという理由で受講免除されていたな。
思えばエルライドもいろいろと大変な思いしてるんだな。
……なんか、うん、不意に顔を赤らめたエルライドを思い浮かべたがなんか…うん。
なんだか俺の顔も赤くなってきたので思考をシャットアウトして別の事を考える。
俺はシャックスがまた娼館通いを誘ってきた時の断り文句を考えながら、王宮から出て行った。
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鍛冶師ギルドは『鍛冶』と銘打っているが、実際はその他にも鳶や大工、船大工、土工など『物作り』という分野を一手に引き受けている冒険者と並ぶくらい有名なギルドだ。
総本部はドワーフの国、ガレリア共和国である。
各国の鍛冶師ギルドはガレリア共和国からドワーフの鍛冶師を派遣されているのだ。
ちなみにこの鍛冶師ギルドはガレリア共和国の国営であり、いわば鍛冶師ギルドはガレリア共和国の『大使館』のようなものだ。
ソラージュ王国は外交努力の甲斐もあってソラージュ王国は比較的落ち着いた関係をとっている。
王宮から鍛冶師ギルドへ直行したユーリは受付の若いドワーフ―――まだ大人と違いヒゲの生えていない背の低いヒューマンに見える―――に声をかけた。
「すまない、今日の午後から面会の予定をもらっているユーリ・フォン・ミツミネというのだが、ギルド長のアシファール殿はいらっしゃるか?」
丁寧な言葉遣いを心がけたのか、ユーリは受付にもそうした態度を徹底している。
たとえ下っ端な受付だとしても、初対面の相手に英雄であるユーリが横柄な態度をとれば、最終的にエルライドの評判に何がしかの悪影響が及ぼすのではないかと考えた末の行動である。
「…あっ、ユーリじゃねえか!!
どうしたんだ、俺の王都到着に合わせてお祝いにでも来てくれたのか?」
見当違いの発言をした青年ドワーフ、ユーリが辺境ラザニアで冒険者をしていた頃よく懇意にしていた鍛冶師、ダンファールの息子であるボルグであった。
別れてから4年程経ち、王都へ修行に出されちょうどこの内乱の時期にやってきた彼は、鍛冶師としての修行ではなく、まずは鍛冶師ギルドで受付業務をしていた。
というか、ステータスを見なければボルグじゃ分からないほど変わっていたボルグは身長は俺とほぼ同等―――これはドワーフから見ればかなり高身長な方だ―――で頑丈そうなつなぎを着てカウンターで先輩受付に指導されていたようだった。
イケ面ではないが好青年…いや、好少年といったところだが、中身が未だガキなのはあまりいただけないな。
いや、こういうのをギャップ萌えとやらの範囲かもしれないが、あいにく俺はボルグにそれほど興味はない、腕利きの鍛冶師になるのなら興味が湧くかもしれない。
ていうか、受付なのにつなぎを何で着ているんだろうと思ったが、聞いてまで知ろうとは思わなかった。
「…なんだ、ボルグか。
久しぶりに会ったっていうのに、変わっていないなお前は。
…あと、別にお前に会いにきた訳じゃない、聞いていなかったのか?
俺はギルド長のアシファール殿と面会の予定を貰っているんだ。
いるなら呼んでくれ」
うっかり顔とかその他諸々を忘れていた事なんておくびにも出さずに流した。
まぁ、ダンファールさんと最近は会っていなかったから何か鍛冶でも頼んだりしてみようと思ったが、最近俺が使う武器は使い捨てだったり刃毀れしそうにないオリハルコンだからな。
ダンファールさんの事だし新作の武器でも作っていそうだから、暇な日を見つけてこっそり買いにいこうかなと思う事にした。
「ちぇっ、分かったよ。
…先輩、この人がギルド長とお会いしたいそうです。
約束をとっているとの事なんで、あとお願いします」
先輩ドワーフ―――こっちはベテランで年上なのか髭もしっかりと生えている―――に任せたボルグは裏のスタッフルームに歩いていった、仕事がまだ残っているんだろう。
「あっ、おいボルグッ!!
…ったくあのバカ、持ち場ほっぽって何裏に行ってやがるんだ。
…失礼した、ミツミネ卿。
部屋までご案内します」
悪態をついた先輩ドワーフは丁寧な口調に戻すと俺を3階にあるギルド長執務室へと案内してくれた。
さすが大使館とも呼ばれているだけあってか、調度品も重厚でいてかなり高価なものばかりが置かれている。
うちのグリューシア孤児院に置いたら間違いなく1日と経たずガキどもが壊すだろうなと思った。
「…ギルド長、ミツミネ卿をお連れいたしました。
開けてもいいでしょうか?」
『入ってもらえ』
扉の向こう側から疲れた声をした老人の声が聞こえてきた、おそらくこの内戦前の状況で仕事が一気に増えた所為だろう、つまり遠回しに俺たちの所為とも言える。
謝る気なんてないけどね!!
「アシファール殿、今日はお忙しいところ時間をいただき感謝する。
さっそく議題に入りたいのだが…その、大丈夫か?」
開口一番、恨み言を言われる隙をなくそうと口を開いたんだが、次第にその口も重くなっていく。
目の前の惨状に絶句したからだ。
右を見ても羊皮紙の山が、左を見ても羊皮紙の山が、そしてギルド長が座っていると思われる執務机の大半が羊皮紙の山で埋め尽くされている。
アシファール本人がどこにいるのかも分からない、そしてよく見ると足元にも羊皮紙が転がっていて歩く事もままならない状況だった。
…すごいな、これ全部1人でやるのか。
まぁ、仕事が溜まっているから処理能力が足りていないのかそれを上回る速度で仕事量が増えているかのどちらかだろうけど…秘書の1人もいないというのはなんというか可哀想だな。
仕事にだって優先順位というものがある、どうでもいい仕事を手早く片付け重要な案件を最後に回す、あるいはその逆でもいいが、とにかくこうも煩雑とした羊皮紙の山となると次の仕事がどれなのかも分からないだろう。
まぁ、助ける気はないんだが、面倒だし。
「…大丈夫に見えるのなら、貴殿の目はガラス球だな。
即刻貴殿の得意な錬金術で新たな眼球を作り入れ直す事をお勧めしよう」
…返ってきたのは怨嗟のような毒舌だった。
ドスが効いていてまるで『ヤ』のつくあれな人みたいですよ。
「…座るといい…といいたいが、ソファーは羊皮紙が邪魔になっているからそちらでどかしてほしい。
これ以上分からなくなってもどうせ大差ないからな、ははっ」
なんというか、後半もうヤケな感じになっているアシファールに同情しながら俺は遠慮なく羊皮紙を適当に払ってソファーに座った。
アシファールも豪快に羊皮紙を投げて正面のソファーに座った。
受付のドワーフもお茶と…何故かエールの入ったジョッキを置いて部屋から出て行く。
おい、仕事中に酒飲むのかドワーフって。
「…現在、共和国のギルド本部が貴国の要望に応える為にドワーフを増員して派遣する事が内々だが決定している。
ガスターク帝国がソラージュ王国と戦い負ける事があっては我が国は二正面から帝国軍と戦わなければならなくなる。
貴国には負けはしないものの帝国軍を長期的にソラージュ王国方面で食い止めて貰えばそれでいいと本国は考えているようだが…勝てるのだろう、貴殿らなら?」
現在ガスターク帝国は亜人が治めている国を集中的に戦争を仕掛けていて、一部の有利な国と、こう着状態の国が大半だ。
劣勢になっている国は1つとしてないらしい、複数の国に対して年単位で戦争し続けているとかどんだけ化け物な国なんだよ帝国。
ガレリア共和国もソラージュ王国が帝国軍に勝てるとまでは思っていないようで、『鍛冶師をそっちに送るからそれで戦線の維持にでもして頑張って』程度しか思っていないらしい。
あちらの思惑は別にどうでもいい、とりあえずエルライドの計画通り鍛冶師を一時的にでもいいから大量に雇用できる状況にすればいいんだからな。
目の前にいるアシファールは本国の思惑に否定的なようでいるが、俺たちにとっては好意的なようだ。
『どうにか出来る切り札を持っているんだろう?』といった目で見てくるあたり、計画が地味に漏れているような気がしてならない。
まぁ、あっちの計画じゃドワーフの連中に随分と世話になっていたりするからな。
俺も知らなかったとはいえ、根幹部分を手伝っていないドワーフじゃ真相には気付けないだろう。
気付けたとしても、それが一体何なのかまでは分からないだろうし。
…そういえば、もうすぐあのアドルフが試運転をするとか言っていた日が近いし、湾岸都市リヴァイアスに行かないとなぁ。
「まぁ、勝てない理由が見つからないというか…正直この内戦も帝国との戦いを前にしたら前哨戦にしかならないし。
まぁ、本番の帝国軍との戦いも間違いなく一方的に勝つんだろうなぁとは思っていますよ。
そちらがどこまで知っているかは知りませんが…まぁ、そういう事です」
「…その調子で帝国を押し返して頂きたい。
なんなら、そのまま帝国を潰して貰っても構わないぞ?」
軽く言ってくれるが、何割かは本気なんだろうな、目がマジだし。
出来なくは…うん、出来るだろうな。
俺やアッキー、アルベルトやアリカが直接出張らなくても、『多分』なんて不安が残るような言葉なんて必要ないくらい、圧倒的な武力で帝国軍を殲滅できる。
アレにはそれだけの力があるし、そういう設計になっている。
…思い出しただけでも億劫だ。
なんで俺、あんなもの教えちまったんだろう。
「そうか…貴殿の顔を見るあたり、かなり非常識な代物のようだな。
超古代文明の超兵器でも掘り出したのか?」
「まぁ、似たようなものです」
古代というよりも未来の超兵器なんだが…アシファールに言っても仕方ないし、それを匂わせるような発言をして置いた。
古代というとこの世界で言うところの『超古代文明』とやらを誰もが想像するらしい。
なんでも遥か昔存在していた超が10個あっても足りないような高度な文明を持っていた国が存在していて、最後はその技術によって滅んだと言うなんとも頭が言いのかばかなのか分からない国だ。
時が流れて現在でもその国の技術は高度過ぎるようで、たまにその超古代文明時代の品がオークションに上がると天文学的な金額が動くと耳にした事がある。
残念ながら俺は見たこともないが…超古代文明の人間がそんなにすごいと言うのなら、自分たちの滅亡するだろう技術くらい予知出来なかったのかと突っ込みを入れたい所だ。
「…さて、長居したようですし自分はこの辺で。
アシファール殿も仕事が溜まっているようですし、邪魔になると悪いのでそろそろお暇しましょう」
「む…そうか、せっかく酒でも飲み交わそうと思ったのだが…そういえば貴殿はまだ成人前であったか。
どの道飲み交わせなかったか、残念だ」
ドワーフにとって酒を飲み交わすというのは重要な意味を持っていて、大雑把に言うと『貴方の事を信頼しています』という意味らしい。
別に酒は飲めなくはないが、成人前に飲むのは色々と煩い目もあるからな。
前世じゃいくら飲んでも酔いもしなかったから付き合い以外じゃ飲まなくなっていたが、今世じゃ酒に強いか弱いかも分からない。
人目の付かない場所で今度確認してみる事にしようかな。
アシファールもその辺はよく分かっているようで、残念そうな目をしている。
目の前のエールを飲まない辺り、元々その為にエールを準備していたのかもしれない。
俺も久しぶりに酒の味に浸ってみたかったが…まぁいいか別に。
「あと半年も経たない内に俺も成人するんで、その時お互いの時間があれば酒を飲み交わしましょう。
アシファール殿となら、光栄ですよ」
コネ作りに活用するんで是非また誘ってくださいな、と言った目で俺は笑うとソファーから席を立って部屋から出て行った。
1階へと降りるとボルグが先輩ドワーフに受付仕事をまだ教わっていて、頭から湯気が湧くほど難しい顔をしていた。
話しかけるとまた面倒…邪魔をするのも悪いと思い、あえてスルーして俺は鍛冶師ギルドを去っていくのだった。
読んで頂き、ありがとうございました。
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