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閑話 アルベルトという悪魔

次のお話は、5/16の19時です。

 




 ―――魔界での壮絶な生存競争は昼夜関係なく絶え間なく行われており、弱者は強者に蹂躙され、強者は強者と戦い己の力を極めんとしていた。


 悪魔に寿命などない、心臓部ともいえる『核』が消滅しない限り、悪魔や天使といった上位存在と呼ばれる者たちは存在し続ける。


 規格外な爵位級と呼ばれる悪魔たち、その中でも伯爵級と位置していたアルベルトは同じ爵位級の悪魔でもない限り、まともに戦闘と呼べるものが出来ない。


 よって生存競争から外れた規格外な悪魔たちは暇を持て余して、その暇をなくす為に様々な『暇潰し』を求めた。


 ある男爵級悪魔は魔界の一角に自らの眷属を大量に作り出し、人の世界と似た領土を築き上げ栄華を極めんとした。


 ある子爵級悪魔は通り魔的に魔界の各地に現れては適当な悪魔を浚ってはおぞましい拷問に耽った。


 ある侯爵級悪魔は見目の整った悪魔を囲い、惜しみなく愛で、そして飽きれば己の欲をぶつけては壊し(もてあそ)んだ。


 ある公爵級悪魔は自らの力に匹敵する悪魔を生み出そうと狂気的な研究にのめり込んだ。


 そして―――伯爵級悪魔、アルベルトは『人の世』にワザと(・・・)召喚され、その召喚者と契約しその生を眺め、時に協力する事を娯楽としていた。


 アルベルトにとって、人の世界ほど面白いものはなかった。


 陰鬱とした空気の立ち込めた魔界と違い、鮮やかに変化する空は見ていて飽きず、その空の下、個人の思惑が入り乱れ、絡まり、混沌にも似た情景を眺めるのが何よりの愉しみだったのだ。


 召喚者の力のあるなしに拘らず召喚され、『愉しそう』か『愉しそうでないか』という基準を定めた。


 長い悪魔の生の中で、一時の時間を人と過ごすという行為もまたアルベルトにとって貴重なものだった。


 ある召喚者はアルベルトの力を恐れながらも自らの物にせんと策を張り巡らせ返り討ちにされた。


 ある召喚者はアルベルトの力を利用し人々の脅威、魔獣を狩る為だけの装置にし、アルベルトがその『作業』に飽きるまで利用し続けた。


 ある召喚者はアルベルトの美貌に惚れてしまい、アルベルトを己の夫にしようと国を傾け、滅びるまで富を捧げた。


 ある召喚者は話し相手が欲しいといい、その生を終えるまで狭い塔の中で延々と話し続けた。


 そして現在―――ユーリという『この上ない奇跡』とも言える召喚者は『下僕になる栄誉』をアルベルトに与えた。


 数多くの召喚者たちの中でも、ユーリはトビキリ(・・・・)だった。


 悪魔の中でも最強と呼ばれる存在、公爵級悪魔バロムと伍するか、またはそれ以上の力を持つユーリと出会った事で、アルベルトのこれまでの生において一番の絶頂期だった。


 実力主義でもある魔界で暮らしてきたアルベルトにとって、強大な力を持った者に仕えるというのはある意味では幸福でもあり、その圧倒的な力に惚れ込んだのだ。


 誰かの下につくという行為自体は過去何度も行ってきたが、心の底から平伏したのはユーリだけだった。


 離れている時間こそ多いが、念話を使えば何時でもその声を聞き、話し掛ける事が出来た。


 その口調に、声音に、言動に、態度に、そしてその魂のあり方に一喜一憂したアルベルトはもっとユーリを『愉しませよう』と考えた。


 以前アリカという侯爵級悪魔にこれまでの召喚者たちのようにドロドロになるまで快楽漬けにするというのはどうだろうかと相談した事もあった、即座に却下された上に後日ユーリにその事が知れて厳しい罰を受けたが。


 何をするにも、アルベルトはユーリを愉しませようと顔色を窺い、耳を澄ませた。


 前世の記憶を持つというこの世界とどこか違う視点を持っているユーリの一挙一動を知ろうと、アルベルトは任務を除く時間を全てその為だけに費やした。


 その中で、アルベルトはユーリが一番良いと思われる『顔』をしている場面を多く目撃した。


 ユーリが心を許した存在、ハロルドやエルライドをはじめ彼、あるいは彼女らと語らい笑い、泣き、怒り、楽しんでいた光景だった。


 アルベルトは決めた、ユーリを愉しませるには、この者たちが不可欠である事を。


 この者たちとの暮らしを守れば、もっとユーリの持つ『顔』を見る事が可能なのだと悟ったのだ。


 その為にも、アルベルトはまず自らの任務を全力で励んだ。


 3年近くかけた入念な計画を補佐しその任務が終了した事で、ようやくアルベルトはユーリから褒美を―――その笑みを向けてくれるのだと待ち望んでいたのだ。


 しかし、その日の内にその予定は狂ってしまった。


 ユーリの実の両親を害したとされるパイソンと呼ばれた暗殺者と対峙した事で、ユーリの顔はアルベルトがこれまで見た事もないくらいに歪み、苦しみ、嘆きに満ちたものだった。


 故に、アルベルトは即座に行動に移った。


 原因となった者に極大の罰を与え、主の心を傷つけた者に圧倒的絶望を与えるため。


『下僕』である自らが主の憂いを、嘆きを取り除く。


 そうする事で、再びユーリに彼らといた楽しき日々を送ってもらう為にも…。


 周囲の状況を最大限配慮した、それでも隔絶した力の一端を見せ付ける悪魔は、その力を振るう。







ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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