第13話 闇夜の暗闘(3)
GW限定の連続投稿、でございます。
次のお話は、5/10の19時です。
キュベレイとの話し合いを終えた俺は1人、王宮の中を歩いていた。
もちろん行き先は少し前までいたエルライドのいる談話室だ、今頃孤児院や本宅の方で暗殺者共が陽動をして、本丸であるこの王宮にいるエルライドを狙いにやってくるだろう。
『…陛下、今よろしいでしょうか?』
アリカからだ、さっそく網にかかった連中が来たか?
周りに人がいない事を確認して、更に風魔法で音が漏れないようにして俺はアリカの報告を聞いた。
グリューシア孤児院にいる暗殺者たちは全員血盟樹の肥料となったようだ。
…当分花見は出来そうにないな、サクラの木の下には云々が現実になって気分じゃなくなった。
まぁ魔力を与えれば勝手に咲くし、あれ基本狂い咲きだからいつでも見れるからそれほど季節感出してないけど。
「……それで、その監視役ってのは逃げたんだ?」
『はい、あくまでも私どもの任務は重要拠点の防衛ですので。
監視者はかなりの手馴れで追跡するとなると必然一番実力のある私になる為、戦力の低下が懸念されます。
以上の点から今回は見逃しました』
むぅ、個人的にはその手馴れの監視者を捕まえてほしかったんだが…結構な実力者ということは、それだけ情報を持っているはず。
悪魔っていうのはこういう時融通が利かない。
さすが契約主義者だ、もう少し融通利かしてほしい。
仕方ない、その調子だとハロルドさんとノエルと女奴隷たち4人、あとついでにツァーリのいる本宅にも現れる可能性は高いな。
ハロルドさんに連絡してそいつ捕まえてもらおう。
手馴れだとしても、あの2人ならどうにか出来るでしょ。
ハロルドさんもノエルも二つ名持ちだし、冒険者時代の話を聞く限りこれで捕まえられなかったらちょっと王宮の警備が意味なくなっちゃうからね。
「…そっかわかったよ、ありがとうアリカ。
そのままお前はクリミナたちと孤児院の警備をして…そうだ、クリミナたちは大丈夫だった?」
一応オリハルコン製の武具を渡しているから心配していない、魔法との両立も出来るように訓練させて出来るようになっているから問題ないはずだ。
アリカにもこっそりクリミナたちに何かあれば助けるようにいってるし。
クリミナたちの話が出ていないから、心配もしていないけどね。
『はい陛下、クリミナたちは無事です。
全員無傷で暗殺者たちを始末したようですわ』
「おお、さすが俺の側仕えだな、感心感心。
それじゃあ、そっちのことはよろしく頼んだよ」
『御意にございますわ陛下、失礼いたします』
アリカからの報告が終わると俺は早足で談話室へと向かっていく。
連中が動き始めた以上、いつエルライドの身に何かあるかわからない。
だからこそ、俺は連中が現れる前にエルライドの傍にいなくてはと思ったんだ。
アリカが気付いたという手馴れの監視者が、必ずしもハロルドさんたちのいる本宅に向かうとは限らない。
陽動でもあるし、そちらには別の監視者がいてもおかしくないからだ。
というよりも、俺はアリカからの報告に何か得も知れない不安に駆られていた。
なんというか、罠を張ったはずの俺たちが、どこか見落としているといえばいいのか…。
…ううむ、よくわからんが何か嫌な予感がするんですよ。
アッキーも…あと隻眼がいるからそこまで心配していないが、この不安はエルライドを見るまで消えそうにない。
緊急事態だし、影使って転移しようかな…。
『ユーリ、聞こえるか?
ハロルドだ、つい今さっき―――』
っと、ハロルドさんだ。
よかった、音声遮断は切り忘れていたから声が漏れる事はない。
ていうか、報告の状況からして孤児院と本宅はほぼ同時で攻勢を仕掛けたらしいな。
報告を聞いている内にツァーリの役立たずが10分と持たずに殺されそうになったとか聞いて『よし切ろう』と思ったのは間違いじゃないと思う。
この件が終わったら、推薦はできないといって叩き出すとしよう。
『それで…暗殺者を掃討したはいいんだが、1人取り逃してな』
「えっと、それ冗談です?」
ちょっと待て、ハロルドさんとノエルで取り逃がすとかどれだけの手馴れだよ。
やだなぁそれ、絶対にこっちくるじゃんか。
『冗談だったらよかったんだがな…まぁ、相手が相手だから仕方ないともいえるな』
「え、ハロルドさんそいつ知っていたの?
もしかして高位冒険者とか?」
国内にいる高位冒険者をすべて知っているわけじゃないが、ハロルドさんはギルド員だしどこかで聞いた覚えのある相手だったんだろうか。
『名前だけだがな…ユーリは知っているか、【黒腕】パイソンという奴なんだが?』
二つ名持ちか…パイソンねぇ……どこかで聞いたような気がするんだけど。
どこだったっけ、学院の図書館か?
「大陸東部で半ば伝説と化した超凄腕の暗殺者だ。
しかも帝国の連中が絡んでいる可能性が高い」
どうやら国にも冒険者ギルドにもケンカを売った凄腕の暗殺者様らしい、しかも裏で手を引いていたのは帝国とか、知れば知るほど嫌いになるなあの国は。
「…うわぁ最悪。
なにそれ、帝国の連中本気でうちの王子様殺す気じゃん!!
けどありがとうハロルドさん、形振り構ってられないしすぐにでも王子様のところに―――っ!?」
突然王宮が大きく揺れた。
おいおい、これってまさか…、
『ユーリっ、正門に正体不明の黒服たちが現れた!!
すぐにこっちに―――っ!!』
エルライドに渡していた魔道具から俺のご主人様の声が耳に響いた。
途中で会話が途切れて向こうでは何か金属を打ち合わせた戦闘音のような音もしてきた。
マジかよ帝国の連中、こそこそするならまだしも、正面突破だとっ!?
しかもそれすら陽動にして、エルライドのいる談話室に仕掛けるか!!
「ハロルドさん、悪いけどっ!!」
『急げユーリ、王子を守るんだっ!!』
ハロルドさんとの通信を切って、俺は急いでエルライドと繋がっている魔道具を手に取った。
「―――エルライドっ、今すぐそっちに行く!!
アッキーと隻眼から絶対に離れるなっ!!」
『………』
返事がない、返って来るのは戦闘音だけである。
正門の陽動は近衛騎士団に任せるしかない、俺の優先順位の第一位はエルライドだ。
俺は談話室の場所に転移した。
■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■ ◆ ■
エルライドのいるはずの談話室に転移した時、エルライドどころかアッキーや隻眼までいなかった。
む、気が動転して魔道具を目印にすればよかったのに、談話室に座標指定しちまった。
というか、談話室から物々しい戦闘痕が残っていて、特に窓周辺が大きく破壊されてここから襲撃されていたのがすぐにわかった。
俺は慌てて自分の周りに結界を展開すると、更にはエルライドの現在位置を魔道具を目印にして探し始めた。
「…クソッ、上かよっ!!」
どうやらエルライドたちは談話室から更に一階層上の、王様のいる寝室に向かっていた。
そうか、あそこなら王様もいるし護衛対象は増えるけど近衛騎士団の精鋭たちもいる。
加えて寝室の周囲は高純度のミスリルを壁や天井、床に敷き詰めていて防衛しやすい造りになっている、一度閉じ篭れば扉の前で抉じ開けるのにまごついている暗殺者を俺がブチ殺せば正門で暴れている連中潰して終了だ。
それでこの騒動はどうにかなるだろう。
とはいえ、気になる点がある。
確かに談話室はエルライドを守るには少々不向きな要素が多い、なまじ広いとあって多数の暗殺者が入り込んできて多数対少数の図になる可能性はあるだろう。
だが、少数といってもアッキーの剣の腕は剣聖級で本気で勇者特典でもある適正値の高い魔法を使えば暗殺者程度軽く屠れる世界トップクラスの実力者だ。
それに加えて隻眼の奴もいる、近衛騎士団でもトップクラスの剣の使い手にして身体強化のスペシャリスト。
俺みたいな魔力任せの身体強化じゃない、まさに最適ともいえる効率で魔法を使う戦闘技術だけは一目置いている。
そんな2人が、ちょっとばかし護衛に不向きな場所だからといってエルライドを連れて逃亡を図るとか、一体どういう状況だ?
「ハロルドさんの言っていた…【黒腕】パイソンって奴が直接乗り込んできたっていう事か」
となると、アリカの言っていた手馴れの監視者はこのパイソンって奴かもしれないな。
アリカの報告から少し経ってからハロルドさんから通信がかかってきた。
…となると、孤児院から本宅へと移動して、そしてすぐにこの本丸である王宮へ仕掛けてきたっていう事になる。
けど…おかしい、
「孤児院と本宅、それに本宅から王宮ってかなり距離あるんだぞ?
身体強化したって10分は掛かるはずだ、どういうカラクリだこりゃあ?」
帝国仕込の不思議な奇術と見るべきか…やっかいだな、エルライドの安全確保も重要だけど、パイソンって奴は絶対にここで始末しなきゃだな。
再度転移して、俺は先回りする形で寝室の前、近衛騎士団の精鋭たちが集結している場所に転移した。
「―――何者だっ!!
……っと、ミツミネ卿か!!」
隻眼と同じ近衛騎士団第一部隊隊長、双剣使いのアシュヒト・フォン・フランベルクが声を上げて俺を迎えてくれた。
フラウ爺さん繋がりで俺の顔は近衛騎士団でもよく知られている。
なんというか、近衛騎士団は人格者の集団といってもいい。
俺みたいな怪しいハーフエルフでも何度か手合わせすればもう仲間みたいな空気になって擦れ違えば軽く挨拶するような間柄になっていた。
第一部隊の精鋭20人が間隔を空けて俺に対して剣を向けたが、俺だと気付くとすぐに剣をおろした。
…うん、マジでちょっと心配だわこの人ら。
もし俺に変装してたら、この瞬間アシュヒトたちを不意打ちで半分は確実に殺せるぞ。
俺だからといって、剣をすぐに下ろさないでほしい、少しは疑って!!
「フランベルク卿、突然転移してきて申し訳ない!!
もうすぐエルライド王子がここに到着する。
陛下にお伝えして、寝室内に匿ってほしい!!」
俺は手短にエルライドたちが暗殺者から逃亡を図ってこの寝室に向かってきていることを説明した。
報告は大事、先回りした事だし、すぐに空けてもらえるようにしておかないと。
「やはり正門のあれは陽動かっ!!
わかった、すぐに陛下にお伝えする。
全員第一級警戒態勢、エルライド王子がお出でになるまで周囲を警戒!!
ミツミネ卿は先行しエルライド王子のお迎えを!!
その後、暗殺者を迎撃する、以上だ!!」
「はっ!!」
すぐに状況を理解したのか、アシュヒトは手早く部下たちに指示を出すと、それまでの空気が一気に変わった。
うん、人格者の集団といえど流石エリート中のエリート、これならいつでも迎撃可能だろう。
「それじゃあ自分はこれで、フランベルク卿、王子を寝室に入れるまで王子の事をよろしく頼みます」
「ああ、任された。
すぐまた会おう」
俺とアシュヒトは別れるとすぐにエルライドがいる通路へと走っていった。
すぐに接触するだろうけど、やはり凄腕暗殺者であるパイソンの不気味さが不安を駆り立てる。
―――そして、目の前にエルライドたち一行が現れると俺はすぐに背後にいる黒い影と空間を遮断した。
帝国の暗殺者たちの着ている黒服覆面だが、発している気配が他の木っ端暗殺者とまるで違う。
…かなりの手馴れだ、目を離したら絶対に拙い相手だ。
ハロルドさんからの話どおり目の前のこいつは隻腕だった。
おそらくあれがパイソンなんだろう、黒い影を纏った人間とか俺以外ではじめて見た。
念には念を押して、空間魔法による空間遮断で異空間に放り込んだ上でこの世界から遮断させておく。
影を纏っているように見えたパイソンが俺と同じく闇魔法を持っている可能性が高いからだ。
ステータスも確認したいが、それは後回しだ。
「アッキーと隻眼、アシュヒトに言ってすぐに寝室に入れてもらえるように手配してる。
王子様入れたらすぐ戻ってきてこいつ殺すぞ!!」
「ユーリっ、この暗殺者に魔法は効かないよ、注意して!!」
再会の挨拶も出来ず、エルライドからとんでもない事が伝えられた。
なに、魔法が効かないだと?
それってまさか…っ!!
―――バキン。
「―――っ!!
まさかこいつ、神樹国と同じ―――っ!!」
俺の異空間が呆気なく破壊される音がして、俺はすぐにエルライドを抱えてその場から後退した。
アッキーや隻眼もほぼ同時に飛びずさった。
そしてその行動がすぐに正解だとわかったと同時に戦慄した。
「…床が刳り抜かれただと!?」
まるでスプーンでプリンを掬ったように、簡単に大理石の床に大きな穴が出来た。
しかも詠唱が聞こえなかった、無詠唱でこの威力って竜種にも確実に傷つけられるレベルだぞ。
「…くく、中々味なマネをするじゃねえか。
お前さんがユーリか…どうやら影だけを操るだけの突然変異じゃなかったみたいだな」
陰気でドロリとした感覚の声が聞こえてくる、こいつは……危険だ。
よく見て見るとパイソンの片手には短剣を持っていた。
この光の反射具合、見覚えがある。
「…やっぱり、オリハルコンか!!」
初代魔王、【災厄の魔王】バアルが生み出した研究成果の内の一つ。
『神鋼』か…オリハルコン製の武器には全て魔法を絶つ力、そして魔力を阻害する特性を備えている、これで俺の異空間の檻を破ったんだな。
強度はミスリルを遥かに凌ぐ、寝室の扉じゃ時間を掛ければ抉じ開けられるのは確実だ。
しかも今さっきの魔法、闇魔法だろうけど原理が分からん、空間魔法で対抗できるのか?
帝国もオリハルコンを持っているとか…母さんの実家技術流出しまくりじゃねえか、今更関われないけどこれ終わったら国境付近で絶対嫌がらせしてやる。
「アッキーたちが逃げた理由がようやく分かった。
オリハルコンに原理不明な闇魔法、そりゃ逃げたくなる!!」
「わかって貰えたようで何よりだ、それよりもユーリどうするっ。
あの暗殺者、かなりの手馴れだぞ…逃げ切れるか?」
アッキーの言いたい事もわかる、エルライドをここまで連れてこれただけでも奇跡に近いっていう事がヒシヒシと感じられた。
「…隻眼、王子を連れて駆けろ。
ここは俺とアッキーでやる」
短距離ならおそらくこの場で一番早いのは隻眼だ、不愉快だがエルライドを渡して、俺はパイソンからエルライドを視界に入れさせまいと壁になった。
念の為にこの周囲一体を俺の作った空間で覆う。
これであの原理不明な闇魔法は俺が今いる地点から後方は使えなくなったはずだ。
この場所は少しばかり俺にとっても、パイソンにとっても暗闇という媒介物が豊富だからな、少し離れても視界に入っていれば間違いなく射程範囲内になるのは確実だ。
オリハルコンの短剣で壁とか傷つけられたら壊されるが、突破されなければいい話である。
「…承った」
「ユーリ……気をつけてね」
戦力外通告を受けた隻眼は悔しそうな顔をしていたが、護衛である以上敵を倒すのは基本後回しだ。
だが、ある程度戦力が整っているなら何人か残しておいて襲撃者であるパイソンを殺したら御の字だろう。
正直こいつを捕縛して頭の中調べたいが、正直生かしたまま捕まえるのは難しそうだ。
エルライドは不安そうな顔をしているが……うーん、不謹慎だが可愛い。
「…ああ、あんな奴さっさとブッ殺して戻ってくるから、陛下と一緒に紅茶でも飲んでろ」
何やってんだか俺、戦闘中に余計なこと考えて。
「……相談は終わったか?」
空気読んでいると思いたいが、こいつさっきまで魔法使おうとして不意打ちを何度もしようとしているからな、軽口を叩く余裕がある辺りまだこいつには隠し玉があるといって言い。
「ユーリ、そいつは…」
「アッキー止めるなよ、王宮が少しばかり削れてもこいつはここで殺さなきゃならん。
こんな奴にうろちょろされてみろ、暗殺月間で国が荒れちまうぜ。
バカは死んでも気にしないが、今後の予定的にそれは拙いからな」
アッキーは渋い顔をして俺が使おうとする武器をやめるように制止してきた。
が、そいつは無理な相談だ。
この際こいつがどこの国から派遣されてきたとか関係ない。
問題はそいつがこの国にいた場合、どんなデメリットがあるかというのが問題なんだ。
こいつを確実に殺せず取り逃がした場合、置き土産、あるいは意趣返しとばかりに王国内に暗殺の嵐が吹き荒れる可能性がかなり高い。
王宮の一部を破壊するというのは確かに拙いが、それを差し引いても今後を思えばこそ、パイソンはここで殺さなきゃいけないんだ。
ついでに伝説とまでなった暗殺者をソラージュ王国に一応だが所属していて、名誉貴族である俺が討伐する事で周辺国の評価にも繋がるだろうし、帝国のクズ共に煮え湯を飲ませる事も出来るはず。
「……オリハルコン製のハルバートだと?」
エルライドたちの気配が遠ざかって行くのを確認して、俺はオリハルコン対策用の武器を異空間から取り出した。
そう、俺が異空間から取り出してきたのはハルバート。
切る、突く、叩くという利点を兼ね備え、俺の主兵装であるナイフに取って代わった匹敵する万能武器である。
そこそこの重量がある為か前世の世界じゃ廃れていった武器だけど、今の俺ならその重量をものともせず振り回す事も可能だ。
ちょっと改良して、石突の部分はスコップにもしていて魔力を節約したい時の穴掘りにも有用なのは蛇足である。
まぁ、ただのオリハルコン製の武器じゃないのは、戦ってみて実感してもらえばいい。
「それじゃあ殺ろうか伝説の暗殺者。
うちのご主人様に手を出そうとして、楽に死ねると思うなよっ!?」
ハルバートを構え、俺はパイソンに突撃した。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
感想、評価などお待ちしています。




