第10話 万難配し、魔王は悪意に笑い待つ
次のお話は、5月4日の19時です。
エルライドの誕生日前日、俺は無能王子側に潜入させていたアルベルトからの報告を聞いていた。
俺の使った空間魔法を込めた魔道具を使っての会話で、スピーカーモードで会議室にアルベルトの声が響き渡る。
相変わらず俺にとって聴き触りの良い声音で語りかけてきて、さも『私は貴方のことを理解していますよ』と言っているようで気持ち悪い。
これで優秀だからタチが悪い、無能な上に趣味が悪かったら潰して捨ててやったのに、そんな機会がないのが本当に残念だ。
『―――以上が、本日第二王子に訪れる筈の予定でございます、我が君。
第一王子は先日から王都を離れており、帰還するのは第二王子の誕生会当日、ギリギリの様でございます』
第二王子暗殺計画、その全容を俺はアッキーやクリミナたち側仕え、そして最近合流したアリカのいる会議室で聞いていた。
邪魔者であるエルライドを誕生会前日に…王から次期王太子の指名を受ける直前でエルライドを不慮の事故で殺害するという、古今東西どの世界にもありそうな陳腐で安っぽくカビの生えた手法である。
使い古された手だが、それだけ効果も高い。
そしてアリバイ工作の為か、あの無能王子はこの王都にいないらしい。
関係性を少しでも無くそうとしているんだろう、王都に帰って来た時自分の弟が死んでいると聞いて泣き崩れる演技の練習でもしているのかもな。
「…ご苦労アルベルト、お前はそのまま自滅待ちの王子様の護衛でもしていろ。
事が全て終わったら事後処理をして俺の元に戻れ、それでお前の任務は終了だ」
【水狂】シャークス・ベルバリンとしての身分偽装を脱ぎ去り、アルベルトとして側に置くという事を伝えると、感極まったのか涙ぐんだ声を上げて『ついにこの日が来たのですね』と声を漏らした、本当に気持ち悪い。
『ああっ!!
ようやく…ようやくなのですねっ!?
あの無能で暗愚で不遜で我が君を悪し様に罵るあのゴミクズを屠れる光景をようやくこの目にする事が出来るとは…!!
つきましては我が君、その様子の一部始終を拝見する機会をば―――っ!?』
俺は魔道具の回線を即座に切った。
会議室がなんとも言えない空気になったが、気にしない事にする。
どうしよう、うっかり『俺の元に戻れ』と言ってしまった。
あの変態を孤児院に置くのは…ガキ共の精神衛生上非常に拙い。
アリカと違ってアルベルトは変態…というか、趣味が非常に悪い。
いや、悪魔らしいっちゃぁ悪魔らしい、むしろ悪魔ってこういうものなんだよなとも思う。
…けど優秀なんだよなぁ、ちょっと捨てるのがもったいないくらいには。
…隔離するかな、異空間にアリカの様な豪勢な部屋を作ろう。
そこに放り込んでおいて、非常時に呼び出せばいい。
孤児院で年端もないガキを『堕とす』ような事がないようにするには、これしかない。
褒美も兼ねているし、そうしよう。
「……ユーリ、分かっていると思うが」
アッキーも分かっているのか、俺に念を押してくる。
「分かってるって、ちゃんとあいつは安全な場所に隔離しておくから。
呼ぶまであいつは当分留守番だ」
「いや、お前あの悪魔に貞操狙われていただろう?
忘れたのか?」
「そうですわユーリ様、あの坊やは以前からユーリ様の事を密かに狙っていましたのよ?
お側に置くなんて…隔離するといっても、隙を見せたら食べられちゃいますわよ」
「………あぁっ!?」
そういえば、そんな事アリカが言っていたような気が…そうだ、確か召喚した時に言ってた。
食べられるって…まぁ、どう考えても『アッチ』関係だろうなぁ。
なんか、ドロドロにしたいとか何とか言っていたんだったっけ。
あれ、なんだこれ?
ガキ共の心配なんかより、まず自分の心配しないといけなくなっているのか?
「忘れていたのか…」
「忘れていましたのね…」
「…ユーリ様、これからは隙を見せないよう、常に気を張っていてくださいませ」
アッキーとアリカからは呆れの表情を、クリミナからはいつもの厳しいお小言をもらって、俺は暗澹とした気分でアルベルトからの情報を元に対策を講じた。
全員がこの対策に賛同し、細部を練り上げていく。
そして、
「―――じゃあ、俺はアッキーと一緒に王城に行ってくる。
アリカ、クリミナ、エルロイ、フラム、クリュシナ、ゼハース、警備は任せる。
連中が来たらお出迎えをしておけ。
分かっていると思うが、孤児院内で血生臭い事は禁止だ。
このソラージュ王国の未来がかかった戦いだ、万全を尽くして事に当たれ」
「―――仰せのままに、我が主」
アリカ、クリミナたち側仕えが席から立ち上がると忠誠の礼をとる。
まったく持って頼り甲斐のある連中である、俺よりも仕え甲斐のある主君もいただろうに…勿体ない。
「……あの変態、どうしようかなぁ」
「隔離というよりも閉鎖空間にでも閉じ込めておくしかないんじゃないか?
おまえ、どうせいつものうっかり発動させるんだから気をつけておけよ」
王城へと向かう途中、変態アルベルトをどうしようかと考えている最中にアッキーからなんとも耳の痛い助言をもらった。
うっかりか…確かに、俺ってそういうの多いから、気をつけないとなぁ。
ともあれ、まずはこの件を片付けよう。
今日の風は今日しか吹かないのだ、明日の風は明日吹くのである。
面倒くさいので、俺はこの件を後回しにすることにした。
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その日、王宮では第二王子エルライドとミツミネ卿との会食が行われていた。
急な会食とあり、英雄を迎えるのに満足出来る料理を出す為に非番の料理人を全て呼び戻し、厨房は大慌てとなった。
何しろ彼の英雄はあらゆる分野に精通しており、当然の如く料理に関しても宮廷料理人を驚愕させるほどの料理の腕前を持っている。
王族の舌を満足させる以上に英雄の舌を満足させなければ、宮廷料理人たちの将来に響く事になると彼らは予感していたのである。
そして会食の折、普段はメイドたちが料理を配膳するのにもかかわらず、調理した者達自らがやってきて表情を伺おうとしたのだ。
前菜、メイン料理、2番目のメイン料理、サラダ、そしてデザート。
これらを料理した彼らはまるで裁判で判決を受ける被告のような面持ちで、エルライドとユーリの言葉を待ち受けていた。
「…素晴らしいですね、どれも普段食べない料理ばかりで楽しめました。
王子はこのような食事を毎日されているのですね、羨ましい限りです」
普段では見せないような口調でユーリは出されたコース料理の感想を述べた。
―――前菜の酸味の利いたチーズと野菜のサラダは見ていて芸術品を見せられているかのようだった。
―――続いてメイン料理、煮込んだ野菜と肉を胡椒で利かせたパスタは前世の世界を髣髴とさせる懐かしくも味わい深い料理であった。
―――2番目のメイン料理、最高ランクの高い部位を使ったステーキは食べ終わったのが寂しくなってしまったと感じさせる味であった。
―――サラダは鮮やかでいてさっぱりとした食感でよく計算されたのだと感心させられる味であった。
―――デザートは香りと甘みのあるケーキが紅茶と合て、歓談を盛り上げて良い一時であった。
アキラが一緒に聞いていれば吹き出してしまいそうな―――実際、エルライドの護衛であるフィリップの片目はこれでもかというほどに見開かれていた―――感想を述べたユーリは、全ての料理に手放しで絶賛した。
アキラは護衛とあって料理を食べていないが、堅苦しいコース料理よりも使用人たちと同じく食堂で出される料理の方がいいと断ったのである。
護衛がいなくなった事で四方には近衛騎士たちが申し訳程度に配置されていて、会食の邪魔にならない配慮となっていた。
「勿体ないお言葉、ミツミネ卿の至高の料理には未だ及びません。
明日のエルライド殿下の誕生会で是非とも何品かお出し頂きたいほどでございます」
そう返したのは宮廷料理人たちの最高峰、総料理長キュベレイ。
ソラージュ王国最高の料理人と評される彼は短く刈り上げた金髪に被せた調理帽を取って深々と頭を下げた。
2年前、ユーリが開講させた料理教室で視察と評して訪れた彼はユーリの出した昼食に心を奪われた。
作法も忘れがむしゃらに食べたあの料理を作りたい、自分の物にしたいと思い、無理を言ってエルライドからの推薦状を片手に飛び込んで行ったのは一時期王宮で噂になったほどである。
少しでも追いつこうと、近付きたいとキュベレイは一層努力した。
そして卒業の証として贈られた調理器具一式でキュベレイの料理はさらにその凄味を増していったのだった。
「それはいいね、キュベレイ総料理長。
皆にユーリの料理の腕を知ってもらうのもいいね。
ユーリ、出来るかい?」
これまで殆どの貴族達も知らず、独り占めしてきたユーリの料理であったが、自分の誕生会で大々的に知らせる事で次期王となるエルライドが口にする料理を宮廷料理人以外の人間が作る事で、ユーリに対する信頼が厚い事を知らしめようとしたのである。
「はい、もちろんです王子。
腕によりをかけて作らせて頂きます。
キュベレイ殿、この後時間を作りますので明日王子や賓客の方々にお出しする料理を話し合いませんか?
せっかく決まっているだろう料理に口を出してしまい、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
即答したユーリはキュベレイに声をかけて成功するだろう明日の誕生会に向けての段取りを一緒に向けて頑張ろうと若干だが微笑んだ。
その僅かな微笑みが会食の場にいたメイドや侍従、近衛騎士がため息をつきたくなるほど絵になっていたが、誰も口にはしない。
間近で見ていたフィリップは慣れているのか微動だにしてもいなかったが、エルライドの口元がほんの微かだが緩んでいたのをフィリップ以外は気付いていなかった。
キュベレイは重ね重ね深く頭を下げると、調理場へと戻っていった。
ユーリたちも席を立ち、エルライドの寝室に近い談話室にと向かっていくのだった。
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「…ふぅん、やっぱりそういう事になったんだ。
あの無能な兄もようやく決断したんだね。
それで、それがユーリのところの悪魔から渡された密約書?」
「ああ、うちのアルベルトが作らせた決定的な証拠。
『ソラージュ王国真王臣下録』だ、確認してくれ」
エルライド、フィリップ、ユーリ、アキラは揃って談話室で秘密の会合をしていた。
アキラもこの場では護衛役としての立場では無くなり安楽椅子に座っていて、立っているのはフィリップのみである
ユーリはアルベルトからの報告をエルライドに正確に報告すると、決定的な証拠である『ソラージュ王国真王臣下録』のオリジナルを提出した。
「……にしても、分厚い代物だな。
無駄に装丁も豪華だし…もうそれ本だろ」
アキラの指摘はそのものズバリ評していた。
机の上におかれている金縁金文字、宝石を各ページに散りばめた悪趣味極まる、美術的価値を地の果てに置いてきたとしか言いようのない、一言でいうならば『本』であった。
「無能な上に美的感覚も最悪だなんて、なんというか…まぁ、どうでもいいや。
それにしても、兄上には感謝しないとね」
王気溢れる美貌の少年王子、エルライドはこれでもかと言わんばかりに笑っていた。
普段は周囲の温度を下げるのではと思わせるほど冷淡な表情でいる彼はおそらくは今生において最初で最後の、同じ血を分けた異母兄に感謝した。
「ふふ、随分と集めちゃってまぁ…王国の約4割だって。
王国法では王族の決定に反旗を翻した時点で『反逆罪』は適用されるからね。
アボリスを筆頭に、彼の母方に当たるサウザー公爵家以下145家が3親等含めてその財産と領地、そして命を没収される事になるのか。
…ユーリ、彼らは内戦を起こすと思うかい?
いや、起こせると思うかい?」
アボリスを旗印にこの140を超える貴族の連合軍が王太子となったエルライドに、ひいては王太子を命じた国王ガイネス・ウル・ソラージュに弓を引くことが出来るのか、ということだ。
アボリスの密約に加担しなかった約6割の貴族達の派閥のうち、4割はエルライドの派閥に属し、残り2割は中立派と呼ばれる日和見たちだ。
エルライドの試算では、アボリスの派閥はこの事態が終結した後、密約に名を連ねた者たちはその命を散らすだろうが、その親類達がそれぞれの領地で反旗を翻すのではないかと考えた。
その反エルライド勢力ともいえる戦力を束ねるのが失速中のサウザー公爵家となるだろうと計算したのである。
「…起こすだろうな、間違いなく」
各地で反乱を起こした貴族たちだが、決定的に足りていないものがある。
国に勝てるだけの『戦力』を持っていないことだ。
切り札もなければ秘策もない、かといって『兵数』すらも満足に揃えられない。
かつての魔獣大侵攻で内戦に至っても対処出来るまで周辺の戦力は削ったからだ。
そんな烏合の衆が、天地がひっくり返ったとしても勝機はないとユーリは語った。
事実、秘密裏にアルベルトに調べさせて各領地の保有している戦力を知ったユーリは彼らが到底『国盗り』が出来る数も、技も、力も、知恵もないのだと悟るとむしろどうやって短期的にその『反乱』を終結させるのかに焦点を絞った方がいいとエルライドに伝えたのだった。
「…俺としては各個撃破して集合する前に潰す事をお勧めする。
どうせ兵站を維持するだけの資金力も士気もないんだ。
こっちは勝って士気を上げられるし、何度も勝ち続ければ敵方の士気はどんどん落ち込んでいく。
更にそれを指揮しているのが王子様なら国内外にもいい宣伝になるからな。
…まぁ、軍事の専門家でもない俺よりもフラウ爺さんみたいな専門家にこの手の問題は解決してもらうのが一番だ。
軍部の方は確か……王子様の母方の親類が将軍を任されているんだったっけ?」
エルライドの母ウルリカは第三側妃でベザリウス侯爵家の出身であった。
武の名門とされるベザリウス家は代々軍部の重職に就いており、エルライドにとって従兄弟に当たる人物、シャックス・フォン・ベザリウスがいた。
ユーリは二度彼と出会った事があり、高位貴族にあるにも拘らずフランクな態度でユーリと接して何度も軍人にならないかと勧誘された事があった思い出がある。
個人的には嫌いではないが、深く知り合う気になれない、気の抜けない人物であったと警戒していた。
「シャックス殿か…彼はああ見えて合理主義者だからね。
僕が優秀である限りは心配はいらないさ。
ある程度融通も利くからね、ましてや僕の対抗馬があの無能だ。
血縁ということもあるけど、気がおかしくならない限りベザリウス家は僕らの味方だよ」
「近衛騎士団と軍部を掌握出来てるし、文官の評価も高く、王様の信頼も厚い。
……どう考えてもエルライド王子の一人勝ちだろこれは。
あの第一王子、これまで何していたんだ?」
アキラがエルライドを第三者視点から評価すると、アボリスがどれだけエルライドの事を脅威に感じていたのかがわかるが、それにしてもこの状況になるまで何故アボリスはエルライドへその評価を落とすような工作をしてこなかったのを不思議に感じた。
「いや、アキラさんのいう事ももっともだ。
別に兄上も何もしていなかった訳じゃない。
メイドに扮した暗殺者や料理に毒を盛ったり王都へと帰ろうとしている途中に襲撃したりとやる事はやっていたよ?
全部失敗に終わって、更にはユーリっていう最高の味方が出来たおかげで、何もかもが無駄骨に終わったんだけどね」
エルライドが才覚を表してからのこの15年間、アボリスは幾度となくその功績を妨害し名を貶めようとしたのか数え切れない程あったと語った。
しかし、事前に対処し、時には発覚して即座に潰し、そしてあわやその命を奪おうとした最後の機会にエルライドはユーリと出会ったのだ。
もはや天に見放されたとしか思えなかったのか、アキラは遠方にいるアボリスが不憫に感じて仕方なかった。
「……なんというか、アボリス王子が哀れに思えてくるな。
そこまでやって成功すらしないとは、天というか…運に見放されているというか…」
「ちょっとアッキー、なにあの無能王子に同情しようとしてる訳?
加害者に同情しちゃダメでしょ?
加害者は吊るし上げして拷問して地べたに這い蹲らして市中引き回してギロチンにかけないと」
「お前は本当に物騒だな…」
「いつもの事です、気にしない事にしましょう」
「ユーリ、おそらく兄上は一生幽閉されて人生を終えるから、拷問の機会はないと思うよ。
ワザワザ幽閉先に行ってまで兄上を拷問するとか労力と見合わないし」
アキラの言葉にユーリが即座に反応し残酷でいて物騒な末路にしてしまえばいいと提案する。
勇者は相変わらず物騒な魔王に呆れ、隻眼は同意し、次期王は酷く現実的な答えを返し、更には血の繋がった異母兄の末路など興味もないのか『どうでもいい』と切り捨てたのだった。
「……あ、そういえばそろそろキュベレイと約束していた時間だ。
それじゃあアッキー、王子様の事よろしく」
「おかしなものを提案するなよ?」
「しないから、やったら怒られるし」
怒られなかったらやるのかとその場にいた3人が同時に思ってしまったが、ユーリにとっても明日は重要な日になるという事を自覚しているので余計な心配はしない事にしたのだった。
「…隻眼、王子様に髪の毛一本傷つけたら微塵切りにして魔獣に食わせるからな」
「王子は守ってみせる、暗殺者たちを近付けさせずに終わらせるさ。
あの時のような無様は晒さない」
談話室を出る直前、ユーリはフィリップとすれ違った一瞬の内に会話をしたが、フィリップは絶対の自信を持って傲慢に返した。
ユーリと初めて会った辺境ラザレスの森での出来事をフィリップは今でも覚えていた。
暗殺者の不意を突いた一撃によって倒れ、フィリップの目の前であわやエルライドの命の灯火が消えようとした時の事は、鮮烈だった。
暗殺者と同じく黒い頭巾で顔を隠したユーリが暗殺者たちの魔の手からエルライドとフィリップを守ってくれた事は感謝と屈辱が綯い交ぜになり、2年以上経った今でも腹の底に渦巻いている。
ユーリは殊更フィリップを毛嫌いしているため、フィリップもまたユーリに警戒しながら接していた。
エルライドの護衛として以外でユーリがフィリップに話しかける事は嫌がらせ以外にない。
それほど毛嫌いされる理由は二度目の出会いの際、その実力を試そうと冒険者ギルドラザニア支部で不意打ちをした事から始まったとフィリップは思っている。
その圧倒的な実力と頭脳、そして性格はこれまで会ってきた冒険者の中でも一線を画すもので、フィリップはそんなユーリに尊敬と嫉妬の入り混じった複雑な思いで澱んでいた。
エルライドのユーリを見る目がフィリップとは違う、信頼以上の何かなのではと知ったのはここ最近の事だ。
エルライドの生まれは『特殊』である。
その特殊な生まれを秘する為にも、フィリップはこれ以上ユーリがエルライドに近付く事を妨げなければならないのだ。
それが将来の2人にとっての最善だと信じていたからこそ、フィリップはユーリに対して何歩も引いていたのだ。
「…フィリップ、どうしたんだいそんな怖い顔をして?」
「フィリップ殿、何かおかしな気配でも?」
ユーリが談話室から出てエルライドが扉の横にいたフィリップに声をかけた。
アキラもフィリップの様子がおかしいのに気付き、自らも周囲の気配を探って何か以上が無いのかを確かめた。
「…いえ、何でもございません王子、アキラ殿。
勘違いだったようです、ミツミネ卿が出られて少々気が立っていたようです」
「……そうかい?
なら、いいんだけど…」
勘違いだったと口にしたフィリップに首をかしげながらもどこか納得していないエルライドをよそに、フィリップは顔を逸らし談話室から見える外をガラス越しに眺めた。
曇天の空は厚く暗く重なっており、フィリップは息苦しさを感じ大きく息を吸い込み、吐き出した。
それでも心の内が晴れず、フィリップは首を振って気合を入れ直した。
そんなおかしな様子のフィリップにエルライドやアキラが気付かない訳が無く、遊戯盤で遊びながらフィリップの様子に気にかけるのだった。
夜は更に濃くなり、王都は静まり始める。
―――そして、エルライドを狙う魔の手が動き出したのは、ちょうどその頃であった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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