第44話 醜悪祭(2)
少々遅れてしまいました。
醜悪祭は続きます。
今日はこれまで、そしてご報告。
明日も1話投稿です、リアルが最近不規則なもので、スイマセン。
エルライドは静かに戦況を見守っていた。
両隣にはサウザー公爵とアマリア教国からエルミナ神樹国へと向かう途中に勇者シャインを失ったとされる聖女が不安そうに戦場を見つめていた。
連合の盟主であるサウザー公爵は中央が次第に押されているのを見て顔色を悪くし、聖女は勇者シャインを失ったショックから未だ立ち直れないのか、戦場から聞こえてくる冒険者の悲鳴や魔獣の雄叫びを聞く度に目を瞑ってしまっていた。
「報告します!!
左翼冒険者義勇軍、【疾風】ダニエルの猛攻で優勢です!!」
新たな戦況報告を伝達しに伝令役の冒険者が口頭で声を上げた。
「ご苦労、中央と右翼の戦況は?」
「はいっ、右翼近衛騎士と冒険者の混成部隊も戦況を有利に進めています!!
しかし、中央の連合軍は……」
言い淀む冒険者はちらりとサウザー公爵を見て口を閉ざしてしまう。
とはいえ、この場にいる誰もがわかっていた、中央が不利な状況下にあると。
両翼が押しているのに対して、中央は押す所かむしろ後退しているようにも見られ、数の有利を魔獣の波に押し返されていたのだ。
「正直に言って、中央は今どのくらいの損耗なんだい?」
「エ、エルライド王子、我が連合軍は未だ…!!」
「現実を見なよ公爵、あれはどう見ても優勢なんて言葉じゃ表現出来ないよ。
伝令、もう一度言うよ、中央はどのくらいの損耗なんだい?」
全てを計画して知りながらそれでもエルライドはこの計画を推し進めた。
何故か、それは近い将来訪れるだろう内戦を未然に防ぐ為である。
エルライドが成人を迎えるまであと2年を切った、そうすれば間違いなく国王ガイネスはエルライドを次期国王に指名するだろう、第一王子であるアボリスを王族から臣籍降下させて反対すら押し通して最後の王権を振るうだろう。
しかし、アボリスを次期国王にと画策していた側妃アデーレ、そしてアデーレの実家であるサウザー公爵家はアボリスを王にすることを諦めないだろう。
周辺貴族を纏め上げ、王国に反旗を翻してまでアボリスを利用し摂政となって王権を欲しいままにしようとする望みを彼が諦めることはない。
かつて自らも王族で兄であるガイネスとの権力闘争に敗れたザクネスはサウザー公爵へと婿入れする形で臣籍降下した。
闘争に敗れたザクネスは未だ自らが王族であるというプライドを捨て切れていなかったのである。
その野望を挫き、なおかつ反旗を翻したとしても即座に鎮圧させるため、ユーリにこの計画を伝えたのだ。
勇者シャイン―――アキラの問題がきっかけではあったが、いずれは解決しなければならないという事もあり、組み込んだまでなのだった。
「も、申し上げます。
中央は…中央は全体の2割を切り、徐々に押されつつあります。
戦況は非常に不利といえるでしょう」
両翼の人員と比べれば、中央に配置された連合軍総勢1万3000という人員数から考えれば未だ軽微と見られるだろう。
しかし、軍における損耗率は8%の損耗を出せば正面の攻撃衝力が減衰し、12%もの損耗を出せば突撃は頓挫してしまうだろうとされている。
前衛の騎兵隊はもちろんの事、2割も出せばもはや騎兵隊は死兵と考えるしかない。
伝令がいうには、騎兵隊の強さを信頼していた中央後退にいた兵士達は無惨な屍を晒した姿に恐慌し、一部逃亡を図ろうとしている兵も出始めていると伝えた。
組織的な戦闘が困難になる損耗率に至り、士気も下がり続けている。
「……両翼の状況を詳しく教えて。
余裕のある部隊はどれくらいある?」
「はいっ、左翼は二部隊が救援に向かえます。
右翼は…優勢ではありますが、出せる部隊はまだ…」
「左翼の部隊に連絡、左翼を完全に有利な状況にした後、中央への救援に向かうように連絡して。
右翼はこのまま戦線を推し進めて、後は左翼同様に有利な状況にした後、中央への救援に向かうように連絡をして。
そして中央は戦線を維持、両翼が救援に向かうまで持ち場を離れないように厳命して。
逃げる者は誰であれ極刑に処すとね」
「りょ、了解しました!!」
「エ、エルライド王子、我が連合へすぐに救援に向かうのでは!?」
即決したエルライドにザクネスは想像もしていなかったのか自分の軍が後回しにされた事に驚いた。
「何か不服でも?」
「何故我が連合軍へと救援に向かって頂けないのですか、そんなにも大事なのですかな、あの混血の小僧めが!?」
ユーリの事を指しているだろうことはエルライドにもすぐに分かった、何しろ王宮ではエルライドが特異魔法を操るハーフエルフの冒険者を子飼いとしている事は公然の事実であったからだ。
ユーリの事を『混血』呼ばわりしたザクネスをエルライドは冷ややかに睨む。
「勘違いしないでいもらいたいですねサウザー公爵。
左翼を優勢にしておかなければ救援に向かった部隊と左翼が完全に分断されてしまうのを考えての事だ。
自分の子飼いだからといって優先している訳ではない。
見当違いも程々にしてもらいたい」
2割の損耗ではまだ救援を向かわせる訳にはいかないのだ。
せめて連合軍が壊走する程の損耗率を出すまで時間を稼がなければならない尤もな理由を考えたエルライドは、戦況を眺めた。
魔獣の波は未だ衰える事をはない。
王国の将来とはいえ、何も知らない民たちを犠牲にする事をエルライドの思惑など知らないとばかりに、【醜悪祭】は続いていた。
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伝令役の冒険者が何やら急いでこちらに向かってきた、何かあったのか?
「報告ですっ、エルライド王子から伝言を受けています!!」
何でも予想以上に中央が崩れ始めているからさっさと左翼を片付けて中央への救援へと向かえ、との事だ。
裏を返せば、『順調だからもっとゆっくりしてね』とエルライドから言われているんだな。
左翼は完全に冒険者義勇軍が圧倒している、あと2時間ほどしたら救援に向かえるだろう。
右翼がどうなっているかと聞くと、どうやら右翼は押せてはいるけど若干だが一進一退のようだ。
さすがにフラン爺さんといえど魔獣大侵攻相手に手を焼かせているようだな。
「ユーリくんっ、エルライド王子はなんと!?」
風魔法と槍を駆使して戦うランク8の冒険者、【疾風】ダニエルが回りの魔獣を圧倒しながらやってきた。
強いなこのエルフ、エルミナ神樹国にいた神殿騎士以上だぞ。
もし戦うとしても、オリハルコン製の武具で固められたらかなり苦戦しそうだ。
…なんだろう、俺強くなったって思っていたけど、案外そうでもないのか?
なんか武具とか特性とかで俺の魔法が絶対的なアドバンテージを握っていたと思っていたんだが、こう色々考えてみると魔法以外の戦闘法を考え直さないといけないと思えてきた。
「左翼片付けたら中央がボロボロなんで助けに行って、だそうですよ。
右翼は押したり押し返されたりと大変みたいです。
中央は両翼の救援待ちですね、逃げたら極刑にするとか言われているみたいんで、どうにかなるでしょう」
「ならっ、今すぐいける部隊を中央に送って…!!」
「いやいや、それは無しですよダニエルさん。
動ける部隊といったら俺のところとあと1つっていうところでしょう?
戦力減らしてまで左翼の部隊が中央に行っても大火に如雨露ってもんですよ、むしろここは左翼を完全に殲滅した後に左翼全体で中央の救援に行くべきだ」
どっちに転んでもいいが、時間的には殲滅した後の方が中央の損耗率はうまくいけば壊滅手前までいってるだろう。
尤もらしい事を言ってダニエルを足止めした俺は悩んでいるダニエルを置き去りに魔獣退治に勤しむ事にしよう。
かれこれ2時間も経っているんだが、ようやく半分過ぎたってところか。
あと2時間で狩り尽くした後、満を持して中央に救援に向かえばいい。
「アッキー、調子どうよ?」
「すこぶる不快だなっ!!
ワラワラと出てくるのを見ていると吐き気がしてくる!!」
不機嫌なアッキーは剣と魔法を駆使して魔獣たちを圧倒している。
俺の部隊は今のところ死者こそ出ていないが重傷者がゆっくりとだが出始めている。
これでも気を付けてフォローしたつもりなんだが、見えないところで隙を衝いた魔獣がチラホラと出ているようだった。
「同感だよまったく、まるで湧き水だね。
魔獣が湧いて出てきているようだ!!」
影の鎧を変形させてオーガの首を刎ね飛ばす、キリがないなもう。
影狼でザコは蹴散らしてはいるけど、大型魔獣がやっぱりネックになってる。
機動力を削ったりしても怪力で冒険者を近付けさせないし、運が悪ければ一発で挽き肉にされるからな。
高位冒険者でどうにか大型魔獣を中心に狩っているんだが、指示を聞かずに功名心に逸ったバカが自滅しに行くから参るってもんだよ、俺の部隊にも何人か出て重傷者が出てるからな。
今じゃ理解出来たのか突出するバカはいないけど、おかげで俺の部隊からは結構な数が後方の治療院出向所送りとなった。
「みなさーん、ヒガイほーこくしてくださーい!!」
恒例の提示報告デス、各員の素晴らしい生存報告に期待します。
「第一小隊は負傷7、重傷0です!!」
「第二小隊は負傷2、重傷0です!!」
「第三小隊は負傷5、重傷0です!!」
素晴らしい、久々の重傷者0の報告だ。
残りの部隊も俺の部隊も負傷者が出まくってはいるが重傷者0だ、日頃の行いが善いからだな。
アッキーも鎧が魔獣の返り血で凄い事になっていけど怪我はしていないようだ、していても自力で治癒していそうだが。
ダニエルはようやく再起動し始めた、俺の言った通り左翼を完全に狩り尽くした後に中央へ救援に向かう事を決めたようだ、ナイス判断だ。
「みな奮起しろっ、中央が大変な今、この左翼を速やかに片付けて中央へ救援に向かう!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!」」」」」
戦闘開始から随分と経っているのに、冒険者の士気が再びウナギ登りに、カリスマあり過ぎでしょダニエル、革命出来そうなくらい冒険者がテンションマックスですよこれ?
うーん、予定が少し早くなると見ればいいのか…30分ほど巻きってところか、もしくは自爆して不利になるか。
にしてもこのテンションには付いていけないわー、ナニあれこわーい。
「―――報告ですっ、左翼外側に新たな魔獣が出現しました!!」
伝令から思わぬ朗報…いや、凶報が飛び込んできた、左翼は更に魔獣の波を相手にしないといけないみたいだな。
後続の魔獣の波が冒険者に群がろうとしている訳か、随分と腹を空かせているんだな、中央にいけばいいのに。
戦局が見通すのが面倒だがこれも部隊長の務めというものだ。
アッキーを引っ張って左翼外側から来る魔獣の対処を請け負うとするか。
「アッキー、聞こえたよねっ!?
今から左翼外側に来る魔獣どもを片付けるよ!!
ザコ共、お前達は戦線の維持をして周囲の部隊の援護だ、それが済んでからこい、いいな!!」
「「「はっ、了解です!!」」」
よろしい、大変元気で結構だ。
何で敬礼したり涙目になっているのかこの際どうでもいい、とにかく死ぬのは許さない。
「何でお前はそう危険なところにばかり飛び込もうとするんだ、しかも少数で!?」
「自由に動けるのが俺とアッキーしかいないからだよ、俺の部隊にいる連中はちゃんと言うこと聞くから心配してないし!!」
「聞かないと後が怖いからだろう、死者に鞭打つと思われていそうだな、残念戦闘狂ショタめ!!」
「なんか増えてるし!?
………んでもって、俺は別に戦闘狂じゃないからねアッキー!?
そりゃ戦ってると面倒くさい事考えなくていいし魔獣でも人相手でも駆け引き面白いけど戦いののめり込んでまで戦うの好きじゃないから!!」
思わず蹴っ飛ばしたくなったが心当たりが多過ぎてやったらやったで認めたとアッキーに言われそうなのでやめておいた、策士アッキーめ、考えたな。
「―――あれが『小さな狂戦士』、なんて強さだ」
「―――近付くなよ、因縁付けられて影に襲われるぞ」
「―――戦闘狂が通るぞ、道を開けろ!!」
………ま、またなんか言われてるよ俺。
思い出したくない二つ名、『小さな狂戦士』が。
しかも絶対に今の会話アッキーにも聞こえてる、だってもうニヤついてるし笑ってるし。
「中二要素が増え続けているなユーリ、中二好みの良い二つ名じゃないか!!」
「ウルサイ、黙れバカ!!」
気にしている事を口に出すな、せめていない所で話してろよ。
いや、陰口も許さない、見つけ次第そいつの舌引っこ抜いてやる!!
「―――仲が良いな二人とも、混ぜてもらってもいいかい?」
「ダニエルっ!?
何やってんだよアンタ、自分の部隊を指揮してろよ!!」
マジかよ、今全然気配を感じなかったぞ。
空間魔法と影の鎧による最強防御で背後から襲われても平気だけど、今のは少し驚いた。
魔法と槍だけじゃなくて気配断ちも可能とか多彩だな、武芸に関してはこいつは俺より上なんだろう。
俺は魔法でカバーしているけどダニエルは完全に修練のみでここまで実力を付けているのか。
努力系チートとかマジ厄介、こういう強い奴とは敵対しないに限る。
「いや、そうも言ってられなくてね、あれを見たまえ」
走りながらダニエルが指差した方向には左翼外側から来る魔獣の波だ。
何かあの中に俺の想定外になる危険要素なんていないぞ?
「バジリスク、それにヒドラがいる。
いくらユーリ君とアキラ君が強かろうと、ランク6に指定されている魔獣を同時に相手にするのは大変だろう。
仲間たちにはこちらに協力すると伝えてきている、心配は無用だ」
…ああ、そういえばそんなのもいるな、圧倒出来るからいらないんだけど…この混戦ならアッキーにちょっと本気になってもらえば楽勝なんだけどな。
俺は影魔法と身体強化の二点特化型だし、遠目からでも何をしている上に見えちまうからな。
そんな俺が違う影魔法を今更使ったら間違いなく怪しまれる。
だからアッキーにやってもらおうと思ったのに……親切でやってるからなお性質が悪い。
まぁ、普通にランク6の魔獣を同時に相手するとか高位冒険者でもそんな無茶滅多にしないだろうしな、心配になるのも当然というべきなのか。
仕方ない、ダニエル込みでバレない作戦を考えるしかないか。
「アッキー、そういう訳だから」
「どういう訳だ!?」
「察しろよ、どうにかしてダニエルと分かれて戦うっていう事だよ。
希望的にはバジリスクだな、厄介なヒドラはダニエルに任せて後回しだ」
とりあえず小声で作戦をアッキーに伝える。
理解したのか、肯いたアッキーはダニエルの方に向かって声を上げた。
俺の言った通り、バジリスク―――ニワトリとヘビとコウモリの合成魔獣を俺とアッキーとで対処するから、ダニエルにはヒドラを相手にしてほしいと頼んだ。
「分かった、君たちが来るまで持ち堪えよう!!」
あっさりと承諾したダニエルは俺達と分かれて多頭のヘビ、ヒドラにと向かっていく。
さてさて、騙しながら戦うのは慣れているが、時間を掛けてはいられない。
パパッと石化の魔獣を片付けていこうか。
読んで頂き、ありがとうございました。
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