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Chat.1『サメの出ないサメ映画』

「サメ映画ってあるじゃない?」


 カフェでだべっていると、突然そんなことを言い出した。

 つい今し方まで週末に出かける話をしていたところなのに、毎回唐突なことだ。


「うん、あるよね。好きだっけ、サメ?」

「ううん。別にサメはどうでもいいんだけど。でね?最近サメ映画が流行ってるって聞いたんだ」

「ああ、なんかB級ムービーで人気があるんだっけ?アサイ……なんとか」

「アサイーボウルの話はしてないよ?」


 いや、私もスイーツの話はしてない。

 そういう配給会社だか撮影スタジオがあるっていう話をしようとしたんだけど。


「でね?最近のサメは空を飛ぶのが普通なんだって」

「映画だと割と飛んでるよね、サメ。もうサメが飛ぶぐらいじゃ驚かないよ」

「でねでね?面白そうだから色々とサメ映画調べたんだけど、トイレからサメが出てくる話とか、サメの出ないサメ映画があるんだって」

「トイレ……って下水管にサメがいるの?」

「わかんないけど、便座に座ってるとサメに食べられるんだって。チョー怖いよね」


 むしろ下水管にサメが詰まって逆流する方が怖そうに思えるけど。

 いや、それ以前にサメの出ないサメ映画ってなんだ?


「ね、そのサメの出ないサメ映画って……」

「面白そうだったから見てみたけど、良くわからなかったよ」

「ネタバレしていいから教えて?サメ、本当に出ないの?」

「出なかったよ」

「サメ映画なのに?」

「不思議だよねぇ」


 不思議っていうより、看板に偽りあり、詐欺の類いじゃないのかな。

 私がそう口にすると、小首をかしげた可愛らしい仕草と共に返事が返ってきた。


「いいんじゃないかな、別に」

「じゃあゾンビが出ないゾンビ映画があってもいいの?」

「いいよ!わたし、怖いの苦手だけどホラー見てみたいし」

「怖くない時点でホラーじゃない気もするけど」

「そう?ダイバー……なんとかの時代だから、いいと思うけど」

「サメだからダイバー?」

「ちがうよ!ほら、なんとかってテレビとかでやってる……」

「ダイバーシティ?」

「それ!あ、そうだ!週末にお台場行く?」


 多様性の話をしていた筈なのに、話題が週末のお出かけ先にすり替わっている。

 いつものことだけど、思わず苦笑してしまう。


 けどダイバーシティか。

 確かに言い得て妙だ。


 サメか海に出没する映画じゃないとダメだと他人に強要しない。

 サメが空を飛ぶ映画が好きな人を批判しない。

 サメが出ない映画はサメ映画じゃないと決めつけない。


 そして一番大事なのは、サメは海に出ないとダメだと思ってる人に、無理に空とぶサメの映画を見せようとしない。


 要するにそれぞれが思うサメ映画を互いに尊重しあうことが大事ってことだ。


 私がそう言うと、判ったような判らないような顔をしながら、この子は言う。


「じゃあ恋愛要素のない恋愛映画でもOKってこと?」

「まぁありなんじゃない?お話しとして成立するかどうかは判らないけど。女の子同士だと、綺麗な友情のまま終わるとかね」

「それは嫌」

「知ってるよ。でも、そういうのを見たい人もいるんじゃない?ってこと。サメ映画みたいにね」


 私の言葉に、少し膨れっ面になっていたこの子は、一瞬考えたあとに斜め上の事を言い出した。


「えっと……要するに今日はサメ映画を見たいってことかな?」

「んー、全然違うけど、確かにそんな気分になってきたかな」

「あるよね。お寿司のことを考えたら、お寿司の口になったり」

「そうだねぇ」

「そう言えばサメのお寿司ってあるのかな」


 また訳のわからないことを言い出した。

 けど、興味を持った私はそんな頓狂な者は存在しないだろうと思いながらも、念のためにスマホでサメの寿司を検索してみる。


「……あるね、サメのお寿司」

「え、ほんと!?」

「プリプリとした白身でカレー風味の炙りも美味しいんだって」

「わっ、それ食べにいこ!」


 今日はショッピングの後にフレンチの予定だった気がするけど、いつの間にかサメ映画を見て、サメ寿司を食べることになったらしい。


 けど、そういうのもいいだろう。

 サメ映画を見てサメを食べたくなるのもその人の好みだ。


「じゃ、そろそろ行こうか?ちなみに今、どんなサメ映画やってるの?」

「首が三つある機械のサメが宇宙を飛ぶSFサメ映画、かな」

「SFのSってサメのSだっけ……」

「サメファンタジー?」


 そんな事を言いながら、私達は指を絡め合ってカフェを出た。


 これもまた、ダイバーシティだと思いながら――


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