暴動鎮圧 上
リエラちゃんは、外の騒ぎを見てなにやら考え込んでる。
なんというか、彼女はもしかして要らん苦労を背負い込むタイプか?
旦那さん、苦労しそうだな。
ところで外に集まってきているあの人たちは、ここに乗り込んでくる可能性があるのかと考えたところで、どやどやと中になだれ込んで来る映像が脳裏に浮かんできた。
思わず声を上げそうになるほどのリアリティ!
なるほど、これが『未来視』ってやつか。
直近で起こりそうなことが見えるってヤツだ。
ってことは、あの外にいる人たちを何とか宥めてお帰り願わないと危険だってことだね。
そう納得したところで、どうすればいいものか。
こういうのを考えるのは得意じゃないんだよねぇ……。
いやいや。
物事は正確に言わねば。
わたしは、難しいことを考えるのが不得意なのだ。
背筋でモノを考えるタイプってヤツだし。
そこでわたしは、背筋様の言うとおりにここにやってきて入手したチートスキル『未来視』さんにお願いすることにした。
『未来視』さんにお願いするのは、「○○をやったら~~なる」って言うののシミュレーション。
まぁ、○○の部分は自分で考えないといけないんだけど!
あ、でも考えてる時間が長すぎて間に合わないと困るから、わたしの思考速度を加速しておこう。
『時間操作』って神力は、そういう使い方もできるっぽい。
便利便利。
まずは、アルの暮らすこの町のことを思い出してみる事にしよう。
その1
アルの暮らすこの町では、錬金術師って言う職業の人が神様のごとく崇められてる。
この町は、本来人が住めるような場所じゃないらしいんだけど、そこを人が住めるように整え、維持し続けたのがアルのお祖父ちゃんである錬金術師だったって言うのが理由のひとつみたいだ。
今は、アルとリエラちゃんの二人が錬金術師として町の人の信頼を得ているらしい。
その2
他の町と信仰している神様が違う。
本来、この世界では『猫神』様って言うのが信仰されているそうだ。
わたしをこの世界に連れて来た創造主様って言うのは、猫神様の配偶者なんだって。
その創造主様が猫神様のために作ったのがこの世界。
猫神様にあげたものだから、自分を信仰されるのは辞退しますとかなんとかかんとか。
まぁ色々とあった結果、猫神様を奉っているフリをしつつ創造主様を信仰しているって言うのが実情っぽい。
この町はそんな中で、違う神様を信仰している訳だ。
宗教に対するおおらかさはどの程度のものなのかは分からないけど、中々、バレたらヤバソウだよね。
その理由としては、『その1』とも被るんだけど、先代錬金術師のお祖父ちゃんが元々は『輝影の支配者』と言う下位神だったそうだから、まぁ、信仰の対象としては間違っていないような気はする。
その後を無理矢理継がされた彼もそういう意味では、まぁ、そうなんだよね。
同じものだと見做されてると見て、ほぼ間違いはないだろう。
その3
割と排他的で、中町と外町に分かれていて同族以外はほぼ中町に入れることがないらしい。
聞いたときには、鎖国中の日本を思い浮かべた。
でも、宗教の話を聞いたら、そっちを隠す為って面もあるのかなーと思ったり思わなかったり。
アル曰く、『迫害経験があった為、人類不審だったらしい。』だそうだけど、それが本当の理由だったらどんだけだ? と、思わなくもない。
町の人だって、人類の端くれだと思うんだよ?
ちなみにその辺は、リエラちゃんが弟子入りしてきた後に、一大、里子ブームが訪れたらしくて今はそこまで排他的でもないらしいけど、やっぱりその名残はあるらしい。
で、さっき何が起こったか、だ。
あー……。
うん。
まぁ、来るわな。
信仰対象の元に。
『今、真っ暗になったのはどういうことだ?
胃の腑も凍るような、あの恐怖心は一体どこから来たものだ?
輝影の支配者様助けて!』
ってところか。
となると、暗くなった理由をさらっと説明しつつ、明るくなる話題に持って行き、さらに『それならもう大丈夫か!』と思わせる方向に誘導するしかない訳だ?
うわ、これは無茶い!
そんなん、納得させるのは無理だろう……と、思うよね?
これが地球であったなら、無茶振りもいいところだ。
でも、ここは魔法もある世界で、わたしは下級とはいえ神様の一柱でもある訳だ。
さっき、わたしの使える神力について話した時に教えてくれた、リエラちゃんが創造主様に委任されることになったという神力を使えば、何とかならなくもないだろう。
幸い、彼女はこの町でも特別な扱いを受けている『錬金術師』だ。
それに加えて、使えるようになっている神力を前提に言葉回しとその能力を使うタイミングを間違わなければ、今の一触即発状態を回避するのは何とかなるに違いない。
わたしは、一通りシミュレーションを行って、成果の確認をしてからリエラちゃんに提案を行うことにした。
「いやいやいやいやいやいやいやいや! 無理ですよ!!!」
わたしの提案を聞いたリエラちゃんは、両手をワタワタと振り回しながらそう叫んだ。
ちょっと可愛い。
って、和んでる場合じゃないや。
「取り敢えず、リエラちゃんが実行できる範囲で考えてみたんだけど、やれん?」
「まず、前提条件がおかしいです。まったく、全然、私の出来る範囲からはみ出しまくってます。」
「さっき、創造主様に押し付けられた神力を使うのは前提だけど。」
「まずそれです。使い慣れていない物を、いきなり有効利用するなんてそんな器用な真似は出来ません。」
リエラちゃんは、わたしがここにやって来た時に、創造主様からアルが持っている『輝影の支配者』の神力の一つを一時的に渡されている。
その神力と言うのが、『精神放射』。
精神に影響を与える『感情』を任意の範囲に放射すると言う能力で、超能力モノの漫画とかだと投射型の共感能力とかの類に分類されていると思う。
テロを起こしたり、テロを鎮めたりどっちにも使えると言う優れものなこの能力、大変に使い手を選びます!
今現在、大絶賛精神的に不安定なアルに持たせていられないって言うのは、まぁ、納得できる話だ。
ただ、今回わたしが外の暴徒になりそうな皆様を相手に、穏便にお帰り頂く為には是非とも必要な能力でもある。
「うん。だからぱっと使えるように必要な感情を放出する練習を少ししよう。」
「今、やらなきゃいけないのにそんな時間がどこにあると……」
「周りの時間が遅く流れるようには出来るからさ。ね?」
そのわたしの言葉に彼女は黙り込む。
「リエラ。俺が出るから、お前が無茶する必要はない。」
それまで黙って聞いていた彼女のアスラーダさんがそう言って立ち上がる。
おおう。
男前!
流石、アルのかっこいいお兄ちゃんだ。
……でもなぁ。
「それ、先に外に出てるお父さんと一緒に共倒れになるから。」
「リリンさんの言う通りにします。」
わたしの言葉に被せる様に、リエラちゃんが彼の腕に縋り付いて宣言した。
彼にフーガさんの応援に行かせた場合に起こるのは、アルが出てきたと思って勘違いだったと分かった途端に外の人達が、即座に暴徒化するんだから当然だろう。
ソレを防ぎたいと言うのに、誘発しに行くと言うこの矛盾。
まぁ、彼のこの発言のお陰で、リエラちゃんが発奮してくれたので助かった。
「んじゃ、すぐに練習しよか。」
「リエラ……。無理する必要は……」
「アスラーダさんを失う可能性に比べたら、多少の無理くらいします。」
リエラちゃん、すごい殺し文句だ!
アスラーダさんてば、耳が真っ赤。
照れ方がアルと一緒だなぁ、と変なところで関心してしまう。
こんなところも兄弟か。
「でも、私にはいまいち、リリンさんが言っている感情が把握できないんですけど……。」
彼女が自信なさ気に呟くのを聞いて、思わず首を傾げる。
「これはまた、おかしなことを……。」
「いえ、本当に。」
「『絶対的な安心感』に『幸福感』と『安堵』だよ??」
「いや、言葉では分かりますけど……。」
言葉を濁しながら眉を下げる姿に、それが嘘じゃないのだと納得しながら天を仰ぐ。
「参った。無自覚かぁ……。」
さっきから、だんな様を見上げる度、体が微かに触れ合う度に醸し出してるのがソレなんだけど。
他人から指摘されると、ギャーってなるヤツなんだけど、仕方がないのでコソッと耳元に囁き掛けた。
案の定、彼女は顔から火を噴くんじゃないかと言うほど赤くなって口をパクパクさせる。
「奥さん、可愛くていいねぇ……。」
「……だろう?」
返事を期待せずに呟いた言葉に、まさかの返事が返ってきて思わず彼の方をまじまじと見つめてしまう。
口元を少し緩めてリエラちゃんを見つめる彼を見て、無性にアルを起こしたくなった。
……別に、羨ましくなんかないんだから。
「ウチのアルも、負けてないんだから……。」
「自慢の弟だからな。」
「ソウデシタネ。」
思わず、悔し紛れに呟いた言葉にもシレッと、当然だろうと言わんばかりの返答が返ってくる。
なんだろう、この敗北感は。
納得いかないなと思いながら、上目遣いに睨んでみると口元を手で覆って視線を逸らされた。
くそ、笑ってやがる!
憮然としていたら、平常心を取り戻したリエラちゃんにジト目でつつかれた。
だから、盗らないってばさ。
私にはちゃんと、アルって言うカワイコちゃんがいるんだから!
2017/5/19 修正と加筆を行いました。