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二重転生!? ~10月10日で私が消える?~  作者: 霧聖羅
それじゃ、新婚旅行に行こうか?
16/32

★サプライズ

 りりんの瞳は、VRゲームの中で彼女が好んでいた色その物の、淡い紫色だった。

眠たげに開かれたソレに射竦められたかのように、身じろぎが出来なくなる。

 不意に、先程の彼女の仕草が脳裏を過り、アレが魔力を求めた『賢者の石』の反応とは違うという可能性に思い至り、やっとの思いで、絞り出した声は驚くほど掠れていた。

彼女の名を呼ぶと、いつものように短く返答が返ってくる。

少し心配げな表情が浮かび、ソレが彼女の心の無事を教えてくれ、その事に深く安堵した。

さっきまではそんな事は無かったのに、名を呼びながら彼女の頬に触れる手が情けない事に震えてる。


「…りりん……?」


 目を瞬くと、ポツリとしずくが零れ落ちる。

彼女と額をあわせるようにして目を閉じるともう、涙が止まらない。


「怖くて、悲しい思いをさせてごめんね。」


 勝手に震えだした私の体をそっと抱きしめて、囁きかけてくる声はいつもの彼女のものだ。

私の口から、小さなうめき声の様なものが漏れる。

りりんの魂を賢者の石に封じてしまった事によって、彼女の心までもソレに閉じ込めてしまったのではなくて、本当に良かった。

目が覚めた時の、あの状態が普通になってしまったりしなくて、いつものりりんでいてくれた事に心底安堵する。


「でもねぇ、『藤崎りりん』は、死んじゃった。」


 まるで、天気の話でもするかのように彼女は自らの死を語りはじめた。


「悪い夢だったら、どんなに良かった事か。」

「そうだねぇ。」


 おどけた様にな返答に鼻を鳴らすと、苦笑が返ってくる。

部屋が暗いから、灯りが欲しいと言う彼女の希望を斥けると、「ケチタール」と言う文句を返す。

希望通りにしないとすぐに変な仇名で返してくるのがまた、いつもの彼女らしい。

安堵の余りまた、少し涙が出た。

やはり、まだ灯りを点ける事はできそうにない。

 りりんに、私が意識を失くしている間の事を訊ねると、『やんわり』か『ばっさり』かと言う選択肢を問われ、『ばっさり』教えて貰う事にしたのだが、『ばっさり』であっても彼女は私を傷つけそうな部分を隠そうとする素振りを見せた。

自分のした過ちを突きつけられたからと言って、私の心を損なう訳ではないのに。

彼女が過保護なのかどうかと訝しみながらも、やんわりと隠そうとした部分も聞きだし、私が眠りに落ちている間にあった『暴動』を、りりんとリエラの2人で、誰に怪我をさせる事無く無事に回避してくれたと言う事に、深く感謝した。

きっと、私が出てもそうはいかなかったに違いない。

リエラには本当に、頭が上がらないな。


 ふと、りりんが私の事を『ごちそう』を見るような目で見ているのに気がつく。

本人もソレに気が付いたのか頭をブンブンと振って、その考えを追い出そうとしている。

そこで私が、彼女の今の身体を維持する為に大量の魔力を必要とするらしい事を教えると、腑に落ちた顔をした。

その後ブツブツ呟いているのを聞いていたら、どうやら私もリエラも、やたらと美味しそうに見えるらしい。

ちょっとそれは頂けないなと思いつつ、ちょっとした悪戯を仕掛ける事を思いつく。


「魔力の補充は、ハグとキスとどちらがいいかね?」

「え? あ、ハグで!!」


 まぁ、どちらを選んでも彼女の慌てる顔を拝めるという、私には損が生じない選択肢だ。

キスだったら、私が起こされた時の様に深い口付けをしてその反応を楽しめばいいし、ハグなら……。

指で彼女を呼び寄せると、有無を言わさずにベッドの中に彼女を引きずりこむ。

驚きの声を上げるのに目を細めつつ、寝間着のシャツを脱ぐと彼女は上擦った声で問いかけてくる。


「え、あの? アスタールさん??」

「うん?」

「なんで、上脱いじゃうの?!」


 その問いに、さも普通の事だと言わんばかりに言葉を継ぐ。


「君も脱いだ方がいいな。」

「なぜに?!」

「キスよりも効率が悪いから、接触面を増やす必要がある。」

「聞いてない!!!」

「うむ。言ってない。」

「キス! キスのほうに変更で!!!」


 大慌てで路線変更を主張しつつ、私の手から逃れようともぞもぞする彼女を押さえこむのは、ひどく簡単な仕事だ。


「誰か、ぼすけて?!」


 良く分からない悲鳴を上げる彼女がまた、ひどく可愛い。

ワザと手間取ったフリをしてりりんの反応を楽しみつつ、寝間着を剥いだ瞬間にノックの音と共にリエラが飛び込んできた。



残念だ。

タイムオーバーか。



 怒りの表情を浮かべる彼女に言い訳しながら、りりんの様子を横目で窺うと、リエラとの遣り取りを感心した様に大人しく聞いている。

とうとう、私が部屋を追い出される事になると、リエラの手腕に拍手を始める始末だ。

…左の肘から先がないから、拍手と言うのには微妙な音が部屋に響き、その事に胸が痛む。

 私が彼女の魂をかどわかす時に、左手の肘から先だけを母親になる予定の女性の元に残して来たらしいというのは、先程、本人が語ってくれた事だ。

魂を千切られる等、普通にある事ではないはずで、それによって彼女がまだ何かを失うのではないかと、そんな胸騒ぎがしてならない。


 背後で寝室の戸が閉まる音がすると、急にひどい動悸が襲って来て不安感が増す。

思わず部屋に戻ろうと振り返ると、兄に手を引かれて長椅子に座らされた。


「ちゃんと、隣の部屋にリエラと一緒にいるから大丈夫だ。」


 兄のその言葉も、なんの慰めにもならない。

私は、一体どうしてしまったのだろう??

訳の分からない焦燥感と共に、嫌な汗が流れていった。




 りりんが着替えをして寝室から出てくると、嘘のように先程までの焦燥感が消えていく。

いつの間にか、手に握らされていた潰れたサンドイッチを口に押し込むと、彼女が横に腰掛ける。

サンドイッチに使われているマヨネーズに驚きの声を上げるりりんに、彼女の国の調味料も作ってある事を伝えると、感動したらしい彼女が「神か?!」と小さく叫ぶ。

叫んだ後にハッとした顔をしてこちらを窺い見る様子に、少し前ならその呼称に嫌悪感を示していた事を思い出す。


「君が、同等の存在になったのなら別に自分が何者でも問題は無い……らしい。」

「あ、さいですか。」


 口に出してみて、驚いた。

今のが、紛う事無い本音だったからだ。



そうか。

私は、りりんと違う存在だというのが嫌だったのか……。



 我ながら、驚いてしまう程の執着っぷりだ。

酷い話だが、自分がりりんの立場だったなら逃げ出してると思う。

彼女が死ぬ直前まで行っていた、『異世界の窓』による追跡行為も最初始めた時は知らなかったが、彼女の世界でもこの世界でも犯罪の一種なのだそうだ。

彼女の世界ではストーカーと言うらしい。

その行為を、苦笑混じりにとはいえ容認してくれた上で未だ愛情を返してくれるなんて、りりんはきっと生まれた時には既に女神の資質を備えていたのに違いないと思う。


 ところで、先程から不思議な事がある。

何故、彼女との朝食の席に父母や兄が同席しているのだろう??

食事を運んでくれたリエラが居るのは、まぁ、問題ないのだが……。

内心で首を傾げつつ食事を終えると、父は咳払いを一つして、話しを切りだす。

なんでも、この町の領民達にりりんのお披露目をするのだそうだ。

『輝影の支配者』()の連れ合いとして。

彼女に視線を走らせると、なにやら遠い目をする彼女の姿。

『忘れてた』と、その目が呟く。

何故、そんな大事な事を忘れるのかと思ったが、彼女との式を執り行うと言う話に否と言う訳が無い。

うきうきした気分で、今までにない程熱心に父の話に耳を傾けた。

 父と兄で細かい周知や様々な手配を行ってくれる事になり、2人で何やら話しながら部屋を出ていく。

気のせいか父が随分と活き活きとしている様に感じたのは、兄との会話の機会が普段はあまりにも少ないからだろうか?

(あの人)も祖父のお陰で、随分と苦労をしてきているから、純粋な唯一の子供(人の子)である兄ともっと円満な関係を築けたらいいと、他人事の様だがそう思う。

私も、妹も。

彼の子供ではあっても人の子としての枠からは外れてしまっているから、どうも畏れの様なものを感じるらしい。


 父と兄が部屋を後にすると、リエラが私達のお披露目時の衣装について話しはじめた。

私は早速、リエラに言われて常に身に着けるようになっている、収納用に腕輪の形にしてある賢者の石から二揃いの衣装を取り出す。

片方は銀糸で織られた生地で誂えたもので、猫神への婚姻報告の際に纏う物。

もう一方は、グラムナード(この町)で『輝影の支配者』への婚姻報告の際に纏う物だ。


「うわ、懐かしい。」


 りりんがそう呟いて、銀糸で織られた生地の衣装に触れる。

VRゲーム内で結婚式を挙げた時、彼女が作ったのと同じモノを用意したのだからある意味当然の反応かもしれないが、本人がきちんとソレを覚えてくれていた事に私は気を良くした。

 ドレス本体は問題がなく、サイズの調整を行う事になり、りりんを貸して欲しいとリエラに言われると、不安が胸を過る。

結局、椅子に縛られ目隠しをされた状態でならと同席を許されたが、ちょっとこの待遇はあんまりなのではなかろうか?

リエラは、最近私に対して厳し過ぎると思う。

お腹を殴ったり、説教したりが随分と増えた。

一応、私は師匠の筈なのにナニカおかしいんじゃないだろうか?

『異世界の窓』に関しては、

見ないでって言っても、言う事を聞かないだろうなぁという確信があったので、

諦める事にしただけです。

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