24
もうすぐ14才になるって頃、月の友との付き合いもすっかり慣れたものになっていた。
裏のモデルも順調で、殺しの仕事も相まって、資金は3千万を超えた。
オレに語学の才がある事を知り、海外での仕事もやれるかと聞く。
海外のほうが規制も緩く、今でも何とかなってるが、行った先での仕事がでかいとか。
売る気か? まあ、仕方が無いよな。
この国の法律じゃ、すぐにトップまで行く事になる。
確かに今までは罪にあたわずな年齢だったが、これからはそうはいかん。
切りたくなるのも理解出来る話だ。
行き先を聞くと、フィリピンだと言うが、タガログ語は知らないぞ。
そう言うと、英語が喋れたら構わんと言う。
どんな組織か聞いてみると、本当に聡いなと言われる。
別に売るのは良いが、買い手を確実に頼むよと。
共産系は洒落にならんから、可能なら欧州系を頼むと。
売るのがバレたせいなのか、マフィアが相手だと言う。
もうすぐ14才の女だが、殺しに忌避が無い優秀な暗殺者向きの奴だと紹介したらしい。
これが巧くいけば、うちの組織も楽になる。
だから受けてくれるよなと、そう言われれば断れない。
だけどさ、きっと相手は勘違いしていると思うぞ。
男と寝て隙を付いて殺す女だと思われるぞ。
ちゃんと言ったのかな、狙撃も近接も可能なオールマイティだと。
まあ、信じないだろうけどな。
タグボートで沖合いの船に乗り込む。
時刻は深夜の11時。
金はドルに変換して、服のあちこちに分散して入れてある。
24万ドルの金は、10ヶ所に1万ドルずつ入れてあり、スラックスの左右のポケットに2500ドルずつ、小額紙幣で入れてある。
残りの金は北米の金貨にして100オンス分を、カメラ用の防水容器の中に100枚入れて首から提げている。
だけどこれが3キロ弱なので少し重い。
ブラの中に入れてあったり、ショーツの中に入れてあったり、靴底に敷いてあったり、靴下の中に入れてあったり。
そんなのを考えられる限りに分散して、500ドル札で20枚ずつにしてある。
高額紙幣は信用の薄い国だから、かさばって困ったが何とかした。
銀髪のウィッグの中は、金色に染めた髪の2段構え。
西洋風に化粧してほりの深さを演出し、服装はどっかのマフィアみたいな格好になる。
後はミラサンで完璧だな。
昼頃に一度試しにしてみたら、お前それなら外に出てもいけるぞと言われたけど、ちょっと惜しいと思った?
最後だと、メシ食いに高級料亭に連れてってくれたけど、女将の口は堅いんだろうね、当然。
あっちでも元気でやれと言われ、ボートから船に乗り移る。
いざ、フィリピンへ、ってか。
◇
武器は更に増え、念の為だと拳銃は受け取ってある。
小型拳銃だけど、弾に余裕があるから何とかなるだろう。
後は以前も使っていたバタフライナイフ。
串の刺殺武器も相変わらずで、内ポケットに増設して7本セットしてある。
目薬容器はさすがに嫌なので、アルミの丸棒を適当に切断し、面取りをしてキリで穴を掘った特注品を持っている。
握りに滑り止めの革を巻いて、親指の当たる部分に硬質のゴム板を付けてもらった品だ。
鞘もアルミパイプで作ってもらい、抜け止めのゴムが付いている。
竹串のスペアも5箱分、カバンに入れてある。
海外では手に入り難いと思うが、500本あれば当分問題あるまい。
スタンガンと催涙スプレーも、もちろん持っている。
実は増設分の2本の串は、タングステンの針になっていて、竹串では無理な場合の非常用だ。
こいつはティグ溶接の部品の流用になるが、予備が5本しか無いんだよな。
考えられる範囲で色々と持っているが、プロは無理でもセミプロぐらいの装備になったと思う。
防具に付いては一応、心臓の位置にセラミックの板を付けてあるのと、上着はケプラー繊維で作ってもらってあり、腹巻のような防刃帯も念の為だ。
3年弱の仕事の報酬のうち、半分はこの装備で消えた事になるが、かつての死因から考えて無難な防備だと思う。
さて、割り当てのシャワーの日か。
3日に1回、深夜に10分だけのシャワーなのだが、首から下を軽く洗い流すだけだ。
化粧と髪はいじる訳にはいかんが、つい先日、全部洗ってやり直したばかりだ。
後は着くまで簡易でも構うまい。
月の友は海に捨てているが、消臭剤必須なのが辛い。
血の匂いはその手の奴らには敏感だろうから、下のケアは完璧にしないといかん。
乗船当時、舐めた船員を数人、半殺しにした後、止めを刺そうとして船長に止められたが、船室に復讐に来たから結局、殺して海に捨てたっけ。
あの時にちょっとトラブったが、止めて止まらなかった奴が悪いって事になったんだ。
まあ、船長に1万ドル渡しておいたがな。
そんなトラブルもあったが、それからは特に困った事にもならずに到着寸前だ。
ボートで岸壁まで静かに進む。
途中で金を全部寄こせとか、まだそんな事をやるのかよ。
出すと見せかけてタングステンの針の餌食にして、海に捨てて自分で操縦して到着だ。
ボートの無線機で船に連絡し、追いはぎが出たから処分したと告げておく。
指定場所に行く前に、気配を探知して臨戦態勢で赴く。
気配の怪しいのが実に25人も居る。
弾は足りるが、目的は何だろう。
合言葉で合流する3人に対し、周囲の22人は何の為かと聞くと、慌ててこっちだと……やれやれ、情報漏洩ですか。
これはいかんな。
どうにも雑魚な組織のようだぞ。
こんな相手と取引してたら、すぐに発覚しちまうぞ、おやっさん。
どうにも逃げ方が下手糞なので、途中で路地に飛び込んで別行動だ。
あんな奴らと動けるかよ。
あいつらには悪いが、ここは別行動といこうか。
銀髪のウィッグを外し、金髪で行動開始だ。
上着は裏返して着用。
◇
結局、朝までに16人殺す羽目になっちまった。
どうにもチンピラが多いと言うか、治安が悪いと言うか。
突っ掛かって来るからどうしても殺す必要が出て来る訳で、お陰でたっぷりと楽しませてもらったよ。
来月には14になるが、後6年で成人だ。
何とかそれまで逃げ続けないとな。
あの組織は対抗組織に壊滅させられたようで、おやっさんに後で連絡しないと拙いかな。
その対抗組織も戦闘員を16人減らしてきつくなったようで、他の組織と揉めているらしい。
戻れないならどこかの組織に混ざりたいが、外道はお断りだ。
契約ぐらいは守ってくれないと、おちおち寝ても居られん。
案ずるより産むが易しと言うか、背丈も少し伸びた関係で、5才ぐらいは上に見える。
お陰でホテルにも泊まれる年齢に見られるようで、金さえ出せばいけるようだ。
1泊80ドルの宿を1ヶ月の連泊にして、2400ドルの支払い。
オレは今日からドイツ人だ。
慣れないキングスを何とか駆使したが、頼むから違和感に気付くなよ、ドイツ人なんだから、クククッ。
ホテルで久しぶりに風呂に入る。
まともに石鹸も使えなかったから、痒いのなんのって。
全てを洗ってメイクのやり直し。
物音がするが、泥棒か?
タングステンの出番は困るんだがな。
シャワーを出しながら、そっと様子を伺う。
ダミーのカバンの中を探っているようだが、本物はビニールのゴミ袋に入れて一緒に入浴中だ。
服を着てそっと後ろに回り、首筋にスタンガンで気絶させ、正体を探る。
ホテルマンのようだけど、手癖の悪い奴か。
こんなのクビにしろよ。
フロントに連絡して引き取ってもらう。
平身低頭でそいつは拘束され、キャッシュバックで口止めされる。
それなりの評判のあるホテルのようで、こういう騒ぎは致命的らしい。
ライバルホテルじゃないの? って言ってやった。
なんにしても、タダになってありがたい。




