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ありすとてれす  作者: 春乃
259/259

259話 校内新聞

 生徒会長選挙が無事に終わったら、てれすと二人でお出かけをする約束をした。


 ……半ば水卜ちゃんが暴走をした結果だけど、今になって考えるとすごく良かったと思う。私一人で考え込んでいたら、絶対にてれすと約束をするなんてことはなかったと思うし、水卜ちゃんに感謝だ。


 次の日。

 学校にやって来ると、インタビューや候補者の写真が掲載された校内新聞が掲示板に貼りだされていた。

 私はもちろん、自分がされたのだし、今日から掲示されることも新聞部の人たちから聞いていた。とはいっても、こうして誰でも見れる場所にあるとやっぱり恥ずかしい。


 だって、写真の私はすごく顔が固いのだ。

 緊張しているのが丸わかりである。

 しかも私の隣にいる桜町会長はいつも通りの自然な笑みだから、なおのこと私の緊張しっぷりが浮いて見える。


 まだ朝の早い時間だから、玄関から入ってくる生徒の数も少ない。

 けど、これからどんどん増えていくだろう。


「おっはー! 最上さん!」

「犬飼さん、おはよ」


 朝から元気いっぱいの犬飼さんがてとてとやって来る。


「こんなとこで何してたの?」

「え、あぁ、えっと……」


 自分が映っている校内新聞について、自分から言うべきなのだろうか。

 でも、それは見てほしいって言ってるみたいで恥ずかしい。

 決して見てほしくないというわけでもないんだけど、自分が誘導するのは違うっていうか……。


「あれ? もしかしてこれって!」

「へ?」


 犬飼さんが私の背後にある掲示板を指で示す。

 どうやら校内新聞を発見したらしい。


「最上さん映ってるじゃん!」

「う、うん。選挙の候補者について書いてて」

「へぇ~!」


 感心した様子で言って、犬飼さんはまじまじと新聞を――というよりも写真の私を見つめる。


「なんか顔が硬いね」

「言わないでよ……すっごく緊張してたの……」

「最上さんでも緊張するんだ」

「そりゃするよ。こういうの初めてだったし」


 だけど、ここが緊張のピークではない。

 週末には体育館のステージ上に立って演説をしなくてはいけないのだ。

 ……胃が痛い。


「そろそろ教室行こ?」

「え~?」

「授業始まっちゃうから、ね?」

「え? まだまだ全然始まんないよ」

「いいからほらぁ~」


 ぐいぐいと犬飼さんの背中を押しているんだけど、謎に力が強い。

 その小柄な身体のどこにそんな力があるのか、一歩も掲示板の前から動こうとしてくれない。

 

「あ、じゃあさ最上さん」

「え?」

「写真撮ってもいい?」

「写真?」

「うん。新聞の」


 そう言って、犬飼さんはスマホをカバンから取り出す。


「い、いる?」

「だって友達が新聞に載るなんてあんありないから」

「SNSとかにアップしないでね?」

「うん。それは約束する。あ、でも高千穂さんに送ってあげよ~」

「え」


 ていうか、てれすと犬飼さんって連絡先交換してたんだ……。そりゃそうだよね、最近一緒に部活しているみたいだし……。

 なんてことを思っていると、凛と玲瓏とした声が背中越しに届いた。


「ありす」

「は、はい!」


 思わず礼儀正しく返事をしてしまった。

 振り返ると、ふあと口元に手をやってあくびをしながら、てれすがやって来た。


「おはよう」

「お、おはよう、てれす」


 あれ~? てれす学校に来るの早くない?

 遅刻こそ最近はしていないとはいえ、いつもならもっと遅い時間に登校してくるはずである。

 それに犬飼さんも不思議に思ったらしい。


「高千穂さん、今日早いね」

「え、ええ。偶然早く目が覚めてしまって」

「そうなんだ」


 と、てれすが私たちの背後にある掲示板に目を向ける。

 さすがはてれすというべきか、速攻で気づかれた。


「それ、ありすの新聞?」

「私のじゃないけど、うん。私も載ってる」

「…………」


 じーっと新聞の私を見つめるてれす。


「ありす」

「うん?」

「もう少し笑ったほうがいいわ。……その、笑顔のほうがありすは素敵、だから」


 わずかに頬を紅潮させて、最後のほうは声がかなり小さくなっていた。

 てれすの反応に私までむず痒くなってくる。


「う、うん。ありがと……」

「いえ……」


 あはは、と私が笑みを浮かべていると、てれすが咳払いをした。


「さ、教室に行きましょう」

「高千穂さん、もういいの?」

「ええ。新聞は見たし」


 三人で教室へと歩き出す。

 ようやく掲示板の前から離れることができて、ちょっと安堵だ。

 

「そうだそうだ、高千穂さん」

「なにかしら」

「さっきの新聞の写真いる?」

「撮っているの?」

「うん。記念に」

「……そう」


 あごに手を添えて、何やら思案をするてれす。


「高千穂さん、送ってあげるね」

「いいの?」

「もちもち、モチのロン!」


 てれすはサムズアップする犬飼さんを見て、それから私に視線を向ける。

 その瞳は、いいの? と私にも許可を求めているみたいだった。

 ていうか、てれすも欲しいのか……。


「うん、全然いいよ。たぶんだけど、もう送ってると思うし……」

「あ、バレた?」


 てへっと犬飼さんが舌を出す。

 

「そうだ。私にも送ってくれない?」

「もちろん」

「ありがと」


 すぐにスマホに着信があって、犬飼さんから新聞の写真が届く。

 さっきまでは恥ずかしい気持ちが大きかったけど、冷静に考えると犬飼さんの言う通り、新聞に載る機会なんてめったにないだろう。

 せっかくだし、記念と思い出に貰っておくことにした。


「ありす。選挙って今週末よね?」

「うん」

「がんばってね。応援しているわ」

「うん。がんばる」


 そうして教室に着き、私たちそれぞれの席へと別れた。


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