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ありすとてれす  作者: 春乃
258/259

258話 選挙後の約束

「てれす先輩~!」


 てれすの名前を呼びながら、猛ダッシュで廊下を走る水卜ちゃんを私は全力で追いかける。


「待って水卜ちゃん!?」

「わたしに任せてくださいありす先輩!」

「一旦止まって!」

「大丈夫です!」

「わたしが大丈夫じゃないの!」


 私の制止はまったく耳に入っていないのか、水卜ちゃんが止まってくれる様子はない。

 追いかけっこをするわたしたちはどんどん家庭科室に近づいて行って、やがててれすたちの後ろ姿が見えてきてしまった。

 私と水卜ちゃんは猛ダッシュしているし、てれすたちは話しながら歩いているのだから追いつくのも当然だ。そもそもてれすたちと別れてから、すぐに水卜ちゃんは走り出してしまったし……。


「てれす先輩~!」


 水卜ちゃんの声が届いて、てれすたちが足を止めて振りかえる。


「あなたはたしか、副会長に立候補してる……」

「はい、水卜です!」

「水卜さん。わたしに何か用かしら」

「あぁ、えっと。用事があるのは私じゃなくて」

「……?」


 首を捻るてれす。

 ようやく私も水卜ちゃんに追いついた。息は切れてしまって、くったくたである。


「あ、ありす……?」

「はぁはぁ……てれす、ごめんね……」

「い、いえ。構わないけれど」


 と言ってはくれるてれすだけど、その表情は明らかに困惑していた。

 それはそうだ。

 さっき「また明日」と別れたクラスメイトが、後輩と猛ダッシュでやって来たのだから、ただ事ではないと思うに決まっている。

 てれすの後ろにいる犬飼さんと猫川さんもそれを察したのだろう。


「高千穂さん。わたしたちは先に行ってるね?」

「え、ええ。わかったわ」

「先輩たちに高千穂さんが来ること伝えとくね!」


 犬飼さんがそう言って、二人は先に家庭科室へと向かっていった。

 二人を見送って、改めててれすがわたしに尋ねる。


「それで、ありす。そんなに急いでどうかしたの?」

「あ、えっと」

「ありす先輩、わたしに任せてください!」

「え?」


 言い淀む私の肩に、水卜ちゃんがポンと手を置いた。

 そして、てれすへ半歩近づいてわたしの代わりに口を開く。嫌な予感しかしない。


「てれす先輩」

「何かしら」

「待って水卜ちゃん!」


 しかし水卜ちゃんは止まらない。ブレーキの壊れた暴走機関車である。


「ありす先輩がデートしてほしいそうです!」

「……え?」

「デートです!」


 再度、水卜ちゃんが言うも、やはりてれすの表情はポカンとしていた。

 突然デートなんて言われたら、そりゃあそうなるだろう。私だって、そうなると思う。

 ……てれすにデートって言われたら、少なからず嬉しいけど。でも、デート? デートって言うのだろうか。そもそも何を持ってデート……?


 って、今はそうじゃない。水卜ちゃんの暴走を止めないと。


「ちょっと水卜ちゃん! 違うって!」

「え? でも」

「と、とにかく違うの! てれす困ってるし……」

「もうっ、だったら自分でちゃんと言ってください」

「う、うん……」

「それではわたしはお邪魔なのでこれで!」


 ペコリとお辞儀をして、水卜ちゃんは走り去っていってしまった。

 まるで台風でも通り過ぎたみたいだ。さっきまでのにぎやかさはどこへやら、しんとした空気が流れる。


「ありす?」

「あ、はいっ!」

「ど、どうして敬語……?」


 水卜ちゃんがいなくなったのだから、わたしが話さないと。

 だけど、てれすと本当の意味で二人になったのは久しぶりっていうか、加えて変に意識してしまっている自分がいるので、落ち着かない。


「ありす。さっきの、でっ、デートっていうのは……その……」

「う、うんっ忘れて!」

「ありすがそう言うのなら……」

「あ、あぅ……うん。ごめんね……」

「いえ……」


 沈黙が訪れる。

 お互いにちらちらと横目で見て、なんだか気恥ずかしい。水卜ちゃんのバカバカ。デートなんて言うからだ。


 だけどこのままずっと廊下にいるわけにもいかない。

 わたしは桜町会長のところに行かなくてはいけないし、てれすも家庭科室で用事があるのだ。

 よし、と覚悟を決める。

 水卜ちゃんのせいで変な意識をしてしまっているけど、ただ遊ぶ約束をするだけ。それだけなのだ。

 デートじゃない。デートじゃない。


「あ、あのね、てれす」

「ええ」

「でっ、デートってわけじゃないんだけど、その、選挙が終わったらわたしと一緒にどこか行ってくれませんか……?」

「遊びに行く、ということかしら?」

「そ、そう! 最近は一緒に遊んだりできてないから、またしたいなって!」


 若干、早口になってしまった。

 不審に思われていないか心配だったけど、特にてれすは何を言うでもなくうなずいてくれた。

 

「わかったわ」

「いいの?」

「もちろんよ。わたしも、そう思っていたし……」

「え、てれすも?」

「ええ。でも、ありす忙しそうだったから」


 苦笑を浮かべるてれす。

 それって、てれすも同じことを思っていたってこと? それなのに、わたしのために気を遣って、何でもないようにしていたの?

 そっか。てれすもおんなじだったんだ。

 私だけじゃなかったんだ。


「それじゃあ、詳しいことは、また連絡ってことで」

「ええ」

「ごめんね、家庭科室に向かってたのに引き留めて」

「いえ、大丈夫よ。ありすも選挙がんばって?」

「うん」

「できれば、慰めるのではなくて、おめでとうって言いたいから」

「が、がんばります……」


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