257話 わたしに任せてください!
「ありす先輩って案外面倒くさいですね」
「め、面倒……!?」
「はい」
はっきりと水卜ちゃんはうなずいて断言された。
普通にちょっとショックである。
「えっと、冗談とかでは」
「ないですね」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないですって。だって、ありす先輩はてれす先輩と一緒にいられなくて寂しいのに、てれす先輩はそんな様子を見せてくれないから、それが寂しいってことですよね?」
「そ、そうなるのかも……」
「面倒くさいじゃないですか」
再び水卜ちゃんにズバッと断言される。
たしかに、水卜ちゃんの言葉通りなら面倒くさいやつなのかも……。
「でも、わたしだってさすがに寂しいって言ってもらえると思ってたとか期待してた訳じゃないんだよ?」
「はぁ……」
「それにてれすはわたしを応援してくれてて、わたしが選挙に集中できるようにしてくれてるっていうのもわかってるの」
「なら、それでいいじゃないですか」
「それはそうなんだけど……」
「なんですか、めちゃくちゃ面倒くさいじゃないですか」
「そ、そんなこと言わないでよ……」
こんなに面倒くさいなんて言われたのは生まれて初めてだ。今まで友達にもお母さんにもそんなに言われたことはない。
でも、水卜ちゃんがこんなに感じているってことは、今まで言われなかっただけで、色々な人が面倒くさいと思っていたのだろうか?
「あの、水卜ちゃん。ほんとにわたし面倒くさい?」
「はい。スーパーウルトラハイパーミラクル面倒くさいです」
「そ、そんなに!?」
「いつもってわけじゃないですよ? 今はてれす先輩が絡んでるからっていうのもありますし」
え……。
いつも面倒というわけではない、と言ってもらえたのは安心したけど、それじゃあてれすには面倒な子だと思われているってこと……?
この一年、てれすとは色々なことをしたけど、わたし自身が思っていないだけで余計なお世話をしまくっていたのかもしれない。
「ありす先輩? てれす先輩が面倒くさいと思っているかは、本人に聞かないとわかんないですよ?」
「そ、そっか。そうだよね」
「とりあえず、この話はてれす先輩に寂しいって言ってほしいってことでいいですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「え、ならどうしてほしいんですか」
「寂しいって言ってほしいわけじゃなくて、でも、そのなんていうか、ちょっとくらいはそう思ってはくれてるのかな、なんて……」
「もう面倒くさいなぁ……じゃあこの際、普通に言えばいいじゃないですか、寂しいって」
「い、言えるわけないでしょ!」
本人に直接言うだなんて、それこそ面倒くさいと思われてしまう。一生面倒くさい奴だと認定されてしまうだろう。
それにてれすは全く寂しいと思っていなくて、むしろ清々しいくらいの気持ちだったら、泣いてしまう自信がある。
わたしの反応に、水卜ちゃんは心底面倒くさそうに大きなため息を吐いた。
というか、途中からかなり遠慮なく言われていた気がする。わたし、先輩なはずなんだけど……。
「わっかりました」
「わかったって、何が……?」
「わたしに任せてください。ありす先輩のために一肌脱ぎます」
ドンっと水卜ちゃんは自分の胸を叩く。
……申し訳ないけど、すごく不安だ。不安しかない。
任せてって、いったい何をするつもりなのか。
「それじゃ、ありす先輩は少し待っていてください」
「え?」
「行ってきます!」
「どこに――」
聞き出す前に、水卜ちゃんは駆けだした。
方向的には、てれすが犬飼さんと猫川さんと歩いて行ったほうである。
まさか……。
私も慌てて追いかける。
「てれす先輩~!」
「待って水卜ちゃん!」
「ありす先輩がデートしてほしいって!」
「ちょっと!?」




