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ありすとてれす  作者: 春乃
256/259

256話 ズバッと水卜ちゃん

「……ありすは、今日も一緒に帰れないのよね?」

「うん……ごめんね」

「いえ、謝らないで? 仕方のないことだもの」


 この日の放課後も選挙のことで桜町先輩と話すことがあるから、てれすとは一緒にいられない。

 気にしていない様子で優しく行ってくれるてれすに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「ありすはがんばっているのだから、わたしも我儘は言えないわ」

「そんな、我儘なんて」

「いえ、その最近思ったの。わたしはやっぱりありすに頼りすぎていたと思うから……その……こういうときくらいは心配なく、ありすに頑張ってほしいって」

「てれす……」


 頼りすぎとか、そんなことは全く思っていない。むしろ、てれすに頼っているのは私のほうだ。


 今日だって、わたしに用事があることをてれすは当然知っている。だからすぐに桜町会長のところに行けばいいのに、こうやって少しでもてれすと一緒にいようとしてしまっている。

 昨日の家庭科部でクッキーを作ったのだって、とても楽しかったとてれすは言っていた。

 てれすはわたし以外のクラスメイトどころか、友達の部活にも顔を出して仲良くできているのだ。四月のてれすはどこへやら。

 そのてれすが応援してくれているのだから、わたしはわたしで頑張らないと。


 そうやって、てれすと話していると昨日と同じように犬飼さんと猫川さんがやって来た。

 

「あれっ? 高千穂さん今日も一人?」

「ええ」

「そっか。それじゃあ今日もうち来る?」

「そんなにお邪魔してもいいのかしら」

「もちろん。昨日はみんな楽しかったって言ってたし、また高千穂さんにも来てほしいって。ねぇ、ねこっち」

「う、うん……わたしも楽しかった、よ」

「そう……それなら、今日もお邪魔させていただこうかしら……」

「決定ね!」


 嬉しそうに言って、犬飼さんはてれすと腕を組む。

 うぅ……なんだかとっても疎外感が……。

 三人が教室から廊下へ出ていくのに合わせて、私も教室を出る。


「それじゃあ最上さん。今日も高千穂さん借りるね。最上さん、がんばって!」

「うん、ありがと」

「ありす、また明日」

「うん、またねてれす」


 手を振って別れ、家庭科室へ向かっていく三人の背中を見送る。


 …………。


 やっぱり、モヤモヤする。

 どうしてだろう。わかってる。でも、こんなの。

 そうだ、いつまでも廊下に立っているわけにもいかないし、わたしも桜町先輩のところへ行かなくては。

 てれすたちの進んでいった方向に背を向けようとしたそのとき。


「あーりす先輩っ!」

「わぁ!?」


 背後からいきなり声をかけられたので、思わずビクッと反応してしまった。


「み、水卜ちゃん……」

「どうもです~」

「どうしたの、こんなところで」

「いえいえ、わたしのことはお気になさらず」


 水卜ちゃんも自分の選挙で忙しいはずだ。

 てれすたちが消えていった廊下の先をじっと見て、首をかしげる。


「そんなことより、ありす先輩お悩み事ですか?」

「へ? いや、別に」

「そうですか」

「う、うん……」


 ふむ、と水卜ちゃんはあごに手を添える。

 数秒間だけ考えて、なにか思い当たったのか目を大きくさせた。そして名探偵が推理を披露するみたいに自信ありげに言う。


「……てれす先輩ですね?」

「えっ」

「ふっふ~、当たりですか?」

「あ、いや……」


 図星を指されてしまい、つい動揺してしまった。

 否定するのが遅れてしまったので、水卜ちゃんはどうやら確信したらしい。


「当たりのようですね! この占い師水卜の目は誤魔化せませんよ!」

「うぅ……」

「何かあるんでしたら、お話くらい聞きますよ?」

「いや、でも……」

「話したら楽になったり、解決の糸口が見えたりするかもしれません。それにわたしは占い師ですからね。秘密は守ります」


 たしかに、一人で抱え込んで悩むよりは、誰かに聞いてもらったほうがいいかもしれない。

 まさか、こんなことをてれす本人には言えないし。

 それに水卜ちゃんには文化祭で占ってもらったこともあるし、その占いが人気だったのも知っている。話を聞いてもらうにはうってつけの人かも。


「えっと、じゃあ聞いてもらってもいい?」

「もちろんです!」

「水卜ちゃんの言った通り、てれすのことなんだけどね……?」

「はい」


 ここ一週間ほど、選挙期間が始まってからのことを話す。

 てれすとあまり話せていないこと。私はてれすに申し訳ないけど、てれすは理解してくれていて、わたしを応援してくれていること。

 てれすはその間、他のクラスのこと仲良くしていること。

 それは嬉しいんだけど、私が気にしているほどてれすは気にしていないっていうか、信じて応援してくれているとはわかっているつもりだけど、わたしだけが寂しいみたいというか……。てれすは? みたいな……。

 

 水卜ちゃんは相槌を打ちながら聞いてくれていたんだけど、段々と渋い表情になっていってしまった。


「ありす先輩」

「は、はい」

「ありす先輩って、案外面倒くさいですね」

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