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ありすとてれす  作者: 春乃
255/259

255話 選挙期間の二人

 桜町会長の話だと、生徒会長に立候補するのはわたしだけかもしれないとのことだったけど、立候補できる締め切りの直前で二人の生徒が用紙を提出したらしい。

 その結果、生徒会長は三人、副会長は二人が莉候補した状態で、いよいよ選挙期間が始まった。

 これから一週間後に行われる生徒会選挙まで、各候補者は各々自分が選んでもらえるように色々と活動をすることになる。


 わたしはと言うと、桜町先輩のときの話を聞いて、それを参考しながら活動をしていた。

 まず朝は正門に立って、登校して来る生徒のみんなに「おはようございまーす!」とあいさつをする。これは顔と名前を覚えてもらうためだ。

 駅伝みたいに肩掛けでタスキをしているのが、ちょっと恥ずかしい。

 

「最上さん、眠たくない?」

「はい、わたしは平気です。むしろ桜町先輩のほうが……」

「わたし?」

「桜町先輩まで早くに来てお手伝いをしてもらっているので」

「わたしのことは気にしなくていいのよ~? 好きでやってるんだから」


 わたし自身は、夜更かしさえしなければ早起きはそんなに苦じゃない。

 けど、わたしの推薦人である桜間先輩まで朝の挨拶運動に付き合わせてしまっているのは申し訳ない。

 桜町先輩は「いいのいいの」と手をひらひらと振りながら微笑む。


「それにこの時間に登校すれば電車も空いているから、逆に助かっちゃってるわぁ~」

「そう、ですか……?」

「うんうん。だから最上さんは自分のことだけ考えていればいいのよ」


 桜町会長が隣に立っていてくれると、それだけで人が見てくれたり声をかけてくれたりもするので、すごく助かっているのは事実だった。

 この恩に報いるには、生徒会長にならないとね。


 そんな風にあいさつをしていると、徐々にやって来る生徒の数も増えてくる。

 犬飼さんや猫川さんたち、クラスの見知った顔も手を振ってくれた。

 そして、てれすもやって来る。昔は遅刻して来ていたけど、今ではこんなに余裕を持って登校しているのか……ちょっと感動。


「あ、てれす!」


「おーい」と手を振るわたしの声に、てれすはすぐに反応してくれる。

 真っすぐにこっちへ来てくれた。


「ありす」

「てれす、おはよ!」

「ええ、おはよう」


 てれすは朝が弱いから、今日も眠たそうだった。今日もきっと授業中は寝るのではないかなって思う。

 いつも通りのてれすを見ていると、生徒会選挙期間中というのを忘れて頬が緩んでしまう。


「てれす、眠たそうだね」

「ええ、まぁ、少し。ありすは偉いわね」

「そんなことないよ」

「……最上さん。他の生徒もいるから」

「あっ、そうですよね……」


 桜町会長に話しかけられて、はっとする。

 そうだ、ここにはわたしとてれすだけじゃなくて他の人たちも大勢いる。それに今はあいさつをしてわたしのことを思えてもらうのが一番の目的なのだ。


「ごめんね、てれす」

「いえ、わたしのほうこそ」

「あとで教室でね」

「ええ」


 教室へ向かうてれすの後ろ姿を見送る。

 なんだかこの期間中は、てれすに謝ってばかりだし、てれすの背中を見てばっかりな気がする。

 教室でてれすと合流しても、すぐに一時間目が始まってしまうから、あまり話せない。




 そしてお昼休み。


「……それじゃ、私はごめんね、てれす」

「いえ、仕方ないわ」

「高井さんと赤川さんもごめんね! 選挙が終わったら、また一緒に」


 いつも一緒に食べている三人に、両手を合わせて謝罪する。

 それから急いでお弁当を手に、学食へ向かう。この期間中は、作戦会議ということもあって桜町会長や十里木副会長、副会長に立候補している水卜ちゃんと食べていた。

 三人には迷惑をかけているかもだけど、今は選挙が優先だ。色々な人の力を借りているから、できることは何でもして期待に応えたい。





 授業が終わって放課後も、この期間はドタバタだ。

 今日は候補者を集めて、新聞部がインタビューをするのだと言われていた。

 今まではてれすと一緒に帰っていたのに、今日もてれすには一人で先に帰ってもらうことになってしまう。

 ここ三日くらい、ずっとこんな調子だった。


「ごめんね、てれす」

「いえ、構わないわ。今日はインタビュー……だったかしら?

「うん」

「それ、どこかで読めるのかしら」

「校内の新聞で読めるって聞いたよ?」

「そう。楽しみにしているわ、がんばってね」

「う、うん。めちゃくちゃ緊張する……」

「ありすなら大丈夫よ。自信をもって?」

「うん。ありがと、てれす」


 帰り支度をしていたてれすに謝罪をする。

 と、それを見ていた犬飼さんと猫川さんがやって来た。


「最上さん、今日も生徒会の?」

「うん。今日は立候補者全員のインタビューがあって……」

「そうなんだ」


 犬飼さんはうなずいて、それから「あっ」と何やら閃いた様子を見せる。


「高千穂さん。今日は暇?」

「え、ええ。特に予定はないけれど」

「だったらさ、一緒に家庭科部来る?」

「え……?」


 予想外のおさそいだったのか、てれすが眉をひそめる。

 そのてれすに、犬飼さんが説明をした。

 

「今日はクッキーを焼くんだけど、よかったらどうかなって」

「わたしがお邪魔してもいいの?」

「もちろん。他にも部じゃない人来ると思うし。ねぇ、ねこっち?」

「う、うん。顧問の先生も先輩方も、そういうの好きな人だから……」


 猫川さんの言葉に、てれすは「ふむ」と悩む様子を見せる。

 少しの間思案して、てれすはうなずいた。


「そうね、せっかくだしご一緒させてもらおうかしら」

「やった!」

「本当にいいのよね?」

「もちのろん!」


 犬飼さんがてれすに親指を立ててグッと笑顔を作り、猫川さんが小さく首肯する。


「じゃあ最上さん。高千穂さん借りていくね。最上さんはがんばってね!」

「うん、ありがと。てれすも」

「ええ、ありす。また明日」


 手を振って三人と別れて、廊下を並んで歩く背中を見送る。

 クッキーづくりか……ちょっと羨ましいかも。

 それにこういうとき、普段だったらてれすの隣には……。


 ……?


 犬飼さんと猫川さんと一緒に廊下を歩くてれすの後ろ姿を見て、少しだけ胸の奥に違和感を覚える。

 いやいや。

 わたしはわたしのすることをちゃんとしないと!

 


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