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ありすとてれす  作者: 春乃
252/259

252話 決断

 生徒会選挙に、生徒会長になるために出よう。


 そう決めたわたしは、水卜ちゃんと玄関で別れて自分の教室にやって来た。

 授業……というより朝のショートホームルームが始まるまではまだ時間に余裕のある時間帯なので、教室内に人の数は少ない。


「よいしょっと……」


 カバンを自分の席に置いて、イスに座る。

 

 今日まで数日間。

 何かあるたびに生徒会選挙に出るかどうか、自分が生徒会長なんてできるのか、しおんなことばかり考えていたから、結論が出た今はなんだか清々しい。


 自分にできることをしようって思う。

 桜町会長への報告は明日が締切りで、水卜ちゃんも明日生徒会室に結論を伝えに行くって言っていたから、わたしもそうすべきだろう。

 まとめて二人で行ったほうが、バラバラで来られるよりも良い気がする。生徒会だって、暇ではないだろうし。

 

 と、会長と副会長の他に、この決断を決めるべき人がいることを思い出す。

 おそらく、今は電車に乗って、学校に向かっているだろう。


「てれすにも伝えないと」


 悩んでいるって相談もしたし、そのときわたしの好きなようにしたらいいって背中を押してくれた。

 やっぱり伝えるべきだと思う。


 さすがにてれすのためっていうのは言えないけど。っていうか、それだとてれすのせいでやるって決めたみたいだから、それは絶対に違う。

 てれすの噂がなくなったり、放課後てれすと生徒会室でゆっくりしたりできるかも。たしかにそんな考えがなくはない。


 でも、やるって決めたのはわたしだ。

 頼ってもらって嬉しかったし、期待に応えられるようにがんばりたい。


 カバンからスマホを取り出して、MINEを起動させる。

 最近は、てれすも遅刻することがほとんどなくなったから、朝の時間でも伝えることはできるだろう。


 てれすの名前をポチッと押して、てれすとのトーク画面を開く。

 ひとまず、「おはよう!」と猫が可愛らしい笑顔で告げているスタンプを送って、本文を打ち込んでいく。


 と、その途中で既読がついた。

 電車の中だから、スマホで何かしていてすぐに通知に気づけたのかもしれない。

 てれすから、わたしが送った猫のスタンプと同じ人が作成した犬スタンプで「おはよう」と送られて来る。


『お話したいんだけど、今、学校に向かってる?』


『ええ、電車の中よ』


『そっか。てれすさえよかったら、玄関で待っておきたいんだけど……』


『お昼とかではダメなの?』


『そんなことはないけど、忘れちゃわないうちにって思って』


『そう。わかったわ』


『ありがとう。学校が近くなったら連絡くれる? 玄関で待ってる』


『ええ』


 てれすが了承してくれたことにほっとしつつ、「ありがとう!」というスタンプを送る。

 今回は既読がつかなかったので、おそらく電車を降りたのかもしれない。


 だとしたら、今、駅に着いたのかな。とどのくらいでてれすが学校に来るのか予想を立てつつ、カバンの中を整理することにした。


 それから時間が経過していって、教室の中に段々とクラスメイト達がやって来る。

 

 いつてれすから連絡が来るだろうとスマホを見つめていると、隣の席の高井さんが赤川さんと一緒に登校してきた。

 今日はいつもよりも早い感じだから、朝練がなかったのかもしれない。

 

「おはよー、最上さん」


「うん。おはよ、高井さん」


 スマホから一時目を離して、あいさつを返す。

 隣の席に腰を下ろして、高井さんが「あれ?」とわたしに声をかける。


「最上さんがそうやってスマホを眺めてるの、なんか新鮮かも」


「え、そうかな?」


「うん。いつも予習したり他のこと話したりってイメージ」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 こんな朝の時間に誰かと連絡を取ったりすることはあまりないし、ゲームもそんなにしないから、スマホを触っていることはなかったかもしれない。


 と、高井さんが何やら閃いたのか、ニヤッと笑った。


「もしかして、彼ピ?」


「ち、違うよ……!」


「あは、冗談だって」


「もう……」


「ごめんごめん。高千穂さんでしょ?」


「う、うん。そうだけど……」


「やっぱり」


「な、なんで?」

 

 尋ねると、高井さんは「うーん」とちょっと悩むそぶりを見せて答える。


「なんでって、最上さんがまだかなーって顔で返事を待ってそうな人って、高千穂さんくらいしか思いつかなくて」


「そんなにわたし、返事来るの待ってる顔してたかな……」


「してたしてた。だから彼ピってからかったんだから」


 あはは、と高井さんが再び微笑む。

 彼ピからの連絡を待ってるみたいな顔って、それってわたしとてれすがそんな風に見えてるってこと、だろうか。

 いやいや。ただの形容っていうか、比喩だとは思うけど。


「て、てれすとはそんなんじゃ……」


「ん? もちろん、わかってるよ」


「そ、そっか」


「うんうん。それで、返事は来たの?」


「えっと……」


 高井さんと話をしていたから、結局スマホから目を離してしまっていた。

 たしかにそろそろ時間的に、玄関へ向かってもいい頃かもしれない。


「あ、来てる」


 高井さんの言う通り、トーク画面にはてれすからの新着メッセージが届いていた。


『もうすぐ学校に着くわ』


 ってことは、ちょっと急いで向かったほうがいいかもしれない。

 てれすのメッセージに「りょうかい!」と猫のスタンプを返して、席を立つ。


 高井さんに見送られながら、わたしは少し急ぎ足でてれすを迎えに玄関へと足を進めるのだった。


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