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ありすとてれす  作者: 春乃
251/259

251話 ありすと水卜ちゃん

 今年の生徒会選挙に立候補するのか、それともしないのか。

 いろいろ考えて頭をたっぷり悩ませているうちに、現時点での考えを桜町会長と十里木副会長に話す日が明日に迫っていた。


 桜町会長や十里木副会長に話してもらったこと、そして会長とMINEを通して知ったことを鑑みると、わたしの心は立候補してみようかなと思うようになっていた。

 自分が生徒会長をしている姿は正直、今のところは思い描くことはできないけど、前向きな気持ちではある。


 だけど、まだ先輩二人に話すまでは時間残っているからか、決定打となるまでには至っていないのも、事実ではあった。


「……どうしよ」


 文化祭を終えて、11月も中頃に入ろうとしているこの頃は、残暑は完全に消え去り、登下校の時間は寒さを感じるようになっていた。


 そろそろ、マフラーや手袋も出すべきかな。

 そんなことを思いながら登校していると、少し先を歩く見知った後輩のことを発見した。

 上機嫌そうに軽やかに歩いているのは、きっと水卜ちゃんだろう。


 わたしは少し歩む速度を上げ、叫ばなくても声が届く程度の距離まで近づいて、


「水卜ちゃん」


「あ、ありす先輩! おはよーございます!」


「おはよ。水卜ちゃん、けっこう早いんだね?」


 登校している時間に、水卜ちゃんと会うのはこれが初めてだったと思う。


 わたしがいつも登校している時間は、まだ生徒も少ない。

 それもこの寒い時期になると、少しでも温かなお家の中にいたいという心理が働くからなのか、さらに少なくなる、そんな印象だ。


「いやー、なんか今日は布団を蹴ってたみたいで、早くに寒くて起きちゃって。そのままトイレに行ったらなんか寝れなくて、それならせっかくだし早く学校行っちゃうか~とか思ったんで、今に至るって感じです!」


 つまるところ、今日この荒井民具で出会えたのは、偶然ということらしい。

 布団を蹴飛ばした水卜ちゃんのお腹が冷えていないか心配だけど、この出会いは幸運だった。


 敵情視察……じゃないな、もしかすると一緒に生徒会をする仲間になるわけだし。

 水卜ちゃんは、副会長として選挙に立候補するつもりなのか、聞いてみよう。あくまでも、参考までに、ね?


「その、ところで水卜ちゃんはさ」


「はい?」


「生徒会の話って、どうするか決めてる?」


「あ~、はい。もちろんやるつもりです」


「そうなの?」


 あまりに強く言い切られたので、思わず返してしまった。

 そして、水卜ちゃんには、わたしのその反応が意外だったのか、苦笑を浮かべる。

 

「はい。意外だったですー?」


「あ、ごめん、そういうんじゃ、ないんだけど」


「いいですよー。理由はいろいろなんですけど」


「いろいろ」


「はい。えーっと……」


 首肯して、水卜ちゃんは「うーん」と少しの間思案を巡らせた。

 それから頭の中である程度まとまったらしく、口を開く。


「単純に、興味があるってこともあります。楽しそうじゃないですか、生徒会。そりゃあ大変だとは思いますけど、自分にとってはプラスにしかならないですし」


「それは、うん。わたしもそう思う」


「それに……」


 と水卜ちゃんは続けようとして、途中で口をつぐんだ。


「それに?」


「あー、いや。これ、割と職権乱用っていうか、マジ私用っていうか」


「?」


「わたし、オカルト研究会に所属してるって、ありす先輩は知ってますよね」


「うん。文化祭のときに占ってもらったし」


「それで、実はオカルト研究会って人数がギリギリなんですよ」


「そうなの?」


「はい……だから、わたしが副会長をしていれば、少なくとも三年間は存続できるかなって。……すみません」


「い、いや、ううん……」


 わたしもてれすのためとか、そんなことを考えていたので、人のことは言えない。

 職権乱用って言っても、予算をあり得ないくらい増やすとか、そういうことじゃなかったらオッケーだと思うし。

 

 存続が危ういと言っても、今の時点で人数が足りているのなら、よほどの限りがないと廃部ってことにはならないと思う。

 文化祭ではみんな楽しんでいたし、先生たちも酷いことはしないと思う。


 ……って、あれ?

 そう考えると、てれすのためだけに会長をしようかって(もちろん、自分が興味あるっていうのは嘘じゃない。それに会長に期待に応えないって気持ちもある)考えているわたしのほうが、私用なんじゃ……。


 いやいや。

 わたしだって、サボりや遅刻を黙認するわけじゃない。そんな甘いことはしない……と思う。

 あり得ないとは思うけど、てれすに「ありす、おねがぁい……」って甘く誘惑されたとしたら、断れる自信がちょっとない、かも……。


 なんてことを考え耽っていたからか、水卜ちゃんが心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。


「ありす先輩?」


「あ、ごめん」


「どうかしました?」


「うーん、わたしもあんまり、水卜ちゃんのことは言えないかなって……」


「『も』ってことは、やっぱりありす先輩も立候補するんですね!」


「え? あ、うん……」


 水卜ちゃんがあまりにすごい勢いで話すものだから、気圧されてつい首肯してしまった。

 だけど、訂正する暇もなく、水卜ちゃんは一人盛り上がる。


「嬉しいです! すっごく!」


「そうなの?」


「はい。だって、ありす先輩なら他の先輩よりも知ってますし、優しいことも、勉強がすごくできることもわかってるから、安心です!」


「あ、ありがとう……」


 まさか、水卜ちゃんがわたしのことをそんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。

 嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。


 こうやって言ってくれる後輩、わたしに期待してくれる先輩方。

 てれすも、わたしの好きなように選んでわたしがやりたいようにって言ってくれた。

 だったらもう、わたしに務まるか務まらないかって、今心配してもしょうがないことで頭を悩ませるよりも、やりたいかどうか、で選ぶべき……だ。


 わたしは……うん。

 答えは決まっていた。


「水卜ちゃん。無事にお互い選ばれたら、よろしくね」


「はい、ありす先輩!」


「まぁ、まずは選挙だけど」


 わたしたちみたいに今の生徒会のメンバーから推薦された形で立候補する以外で、選挙に出る人がいるのかは不明だ。

 だけど、その場合だってないわけじゃないだろう。

 

 だとしたら、会長になるにはその選挙で勝つしかないわけで。

 桜町会長は、自分たちが推薦しているから大丈夫だと言っていたけど、やぱり不安だ。桜町会長や十里木副会長に頼りきりにするわけにもいかない。


 ちゃんと、わたしたちなら任せても大丈夫だと、みんなに思ってもらえるようにしないと。


「選んでもらえるように、がんばらないとね」


「はい!」


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