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ありすとてれす  作者: 春乃
249/259

249話 桜町会長の心配事

「ここからが本題なのだけど」


 と桜町会長は前置きをして、短く息を吐いた。

 わたしとてれすが交際をしているかもしれない。その勘違い、誤解が生徒会選挙のことと、どのような関係があるのだろうか。


 首を捻るわたしに、桜町会長は頭の中でどのように離すのかがまとまったようで、小さくうなずいて話し始める。


「昨日は、最上さんがなりたいと思ってくれれば選挙は当選すると説明したじゃない?」


「はい。この学校は基本的に毎年そうだと」


「その通り。でもねぇ、少しだけ心配があって……」


 と、ここで先輩は一旦言葉を淀ませた。

 けど、今までの話の流れからすると、その心配事と言うのはきっと。


「……それに、てれすが関係してるってことですか?」


 桜町会長は一瞬だけ驚いたように目を大きくさせた。そして、すぐにいつもの柔らかな表情に戻り、くすりと笑みを浮かべる。


「話が早くて助かるわぁ。さすが最上さん」


「い、いえ。そんな感じがしただけですから」


 そんなことよりも、てれすがどう関係しているのかが気になってしょうがない。


 てれすと桜町会長には、繋がりはなかったと思う。

 もちろん、わたしがてれすの交友関係を全部知っているかと言われたらそうではないので、知らないだけかもしれないけど。

 でも、会長とも、生徒会とも交流はなかったような……。

 

「それで、てれすがどうかしたんですか?」


「うーん。高千穂さんと仲のいい最上さんにこう言うのも心苦しいのだけど……」


「はい?」


「高千穂さん、あまりいい噂がないのよねぇ」


「……え」


「だからと言う訳ではないけど、その影響がないとは言い切れないから、一応ね」

 

「そんなこと」


「仕方ないわ。高千穂さんが学校をサボったり、授業の態度は悪かったり、行事に一切参加しなかったりしたのは、事実のようだもの」


 たしかに、会長の言っていることは事実だと思う。

 去年のてれすのことは詳しくは知らないけど、行事には参加していなかったみたいだった。

 授業の態度も、わたしとてれすが仲良くなる前の段階、春を思い出したら否定はできない。


 だけど、それはもう半年以上も前の話だ。

 もうそんなてれすはいないと言ってもいい。


「でも会長は、文化祭のときにてれすがわたしやクラスのみんなと一緒にやってるのを、見たはずじゃ……」


「ええ、少し驚いたわ。けれどね、最上さん。やっぱり、一度定着してしまったイメージというのは、そう簡単には変わらないのよ」


 そう言って桜町会長は「特に、高千穂さんと交流がなければない人ほどね」と付け加えた。


「そんな……」


「それに噂と言うのは遠くに行けば行くほど、尾ひれがつくもの。こないだなんて、高千穂さんが他校の生徒を脅してカツアゲをしていた、なんて噂も耳にしたわ」



「えぇ……ひどすぎます、そんなの……」


「さすがに、ここまでの噂を信じている人は少ないとは思うけど、高千穂さんのイメージは、どうしても良いものではないの。」


「それは……そうかもしれないですけど……」


「生徒だけじゃなくて、先生の中にも心配している人もいる。そんな生徒と仲良くしている生徒会長候補は大丈夫なのかって」


「なん、ですか、それ……」


「あなたと学校のことが心配なのよ、きっと」


「心配されるようなことは、何もありません。あの……もしかして、わたしにてれすと関わるなって言いたいんでしょうか。それならわたしは――」


 生徒会長なんかなりたくないです。

 そう断ろうとした。

 だけど、その前に会長が落ち着いて、と言葉を挟んだ。


「待って、最上さん。誰もそうは言っていないわ。でも、高千穂さんのそう言った噂に最上さんも巻き込まれて誤解されるかもしれない。そうなれば、大変なのはあなたよ」


「……すみません。たしかに、てれすのイメージのこととか、なんとなくわかります。噂になっちゃうのも。でも、てれすだって、がんばってるんです。ほんとにすごく……」


 そりゃあ、クラスも違えば学年も違う相手とは会う機会も話す機会もないから、簡単にはイメージは覆せないだろう。

 生徒会長である桜町先輩も誤解をしているのであれば、解いておきたかった。

 

「てれすは体育祭のとき、怪我をしたわたしを保健室まで連れていってくれました。修学旅行では班の副班長を自分からやるって言ってくれました。文化祭では今までに考えられないくらいクラスのみんなと協力して、当日は遅刻をしてしまったのでそれを取り返そうとクラスの宣伝をしました。それにてれすはお家で一人で、ずっと……風邪のときとかもそうで、慣れてるって言ってますけど、わたしなら絶対寂しいと思います。それなのにそんな弱音は吐かないし、みんな、てれすのこと何も知らないのに勝手に噂しないでほしい……です」


 と思わず熱くなってしまっている自分に気づいて、はっとする。

 会長に視線を送ると、会長は何やらあごに手を当てて思案していた。


「会長?」


「あ、ごめんなさいね……そのぉ、何て言えばいいのかしら」


「はい」


「最上さんが高千穂さんのことを本当に好きなんだなって、思ったのぉ」


「そっ、それはもちろん、ですよ。一番の友達なんですから」


「ふふっ、そうね。ちょっと羨ましい」


「え?」


「何でもないわ。でも、最上さん。それなら、それこそ生徒会長が向いているかもしれないわ」


「どういうことです?」


 会長が何を思って言ったのか、意図が分からずに首をかしげる。


「会長の最上さんと高千穂さんが一緒に居れば、高千穂さんのイメージは生徒会長と仲が良い生徒、って形に上書きされる……かも? それに先生方も、生徒会長と一緒にいるなら安心ってなるかもしれないわぁ~?」


「っ!」


 たしかに……。

 それは思ってもいなかったことだ。

 わたしが生徒会長になることで、てれすの誤解を解くことができるかもしれない。


 そんなことを考えていると、「それにね」と桜町会長が続ける。


「こんなことを言うのは余計なお世話かもしれないけど」


「……はい」


「いつもまでも高千穂さんと一緒にいられるわけじゃないのだし、あなたはどうしたいのか、どうなりたいのか。まだ時間はあるのだし、ゆっくり考えてみて?」


「……はい」


「ところで、最上さんのお話って?」


「あ、いえ。もう時間がけっこう経ってますし、またで大丈夫です」


「そう?」


「はい」


 わたしの用事は今ではないといけないってことはない。

 最初は放課後に聞きに行こうとしていたので、そのときでも、明日でも構わないだろう。


「あ、それなら、MINEを交換しない? わたしたち、まだしていなかったと思うの~」


「いいんですか?」


「もっちろんよ。いつでも何かあったら聞いてねぇ?」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、そろそろわたしは行くわね。十里木ちゃんに怒られちゃう」


 そう言って、ひらひらと手のひらを振って生徒会室へと向かっていった先輩を見送る。

 その姿が見えなくなって、わたしも教室に戻ることにした。

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