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ありすとてれす  作者: 春乃
248/259

248話 会長の誤解

 放課後に生徒会室を訪れて、桜町先輩にいろいろと詳しい話を聞いてみよう。

 そう決めて午前中の授業に臨み、時刻はお昼過ぎ、お昼休みになった。


 いつものように購買へパンを買いに行ったてれすを見送って、わたしは高井さんと赤川さんと、四人で集まれるように席をくっつける。

 机の上にお弁当を置いて、今日の中身はなにかなぁと考えていると、


「最上さーん」

 

 と名前を呼ばれたので、声のした方に顔を向ける。

 見ると、自販機で買ったジュースを手に持った山中さんが、こちらへと歩いてきた。


「どうしたの?」


「生徒会長が呼んでるよ」


「え、会長が?」


「うん」


 ほら、そこ。と扉の向こう、廊下を見やる山中さんの視線を辿ると、ひょこっと桜町会長が現れた。

 わたしの姿を認めると、にこっと笑みを浮かべて手招きをする。


 なんだろう?

 わからないけど、早く行かないと。わざわざ教室まで来てくれた先輩を待たせるわけには行かない。


 桜町先輩がわたしに何の用事かはわからないけど、わたしは先輩に聞きたいこともあるし、この際に聞いてしまおう。

 放課後に聞く予定だったけど、いい機会だ。


「ありがと、山中さん」


「ううん」


 山中さんにお礼を、そして一緒に食べる予定だった高井さんと赤川さんには、少し遅れるかもしれないから、先に食べてて、と告げて、廊下へと向かう。


「先輩、お待たせしてすみません」


「ううん。わたしのほうこそ、ごめんなさいね。ご飯、大丈夫?」


「はい、それは平気です。わたしも先輩に聞きたいことがありましたし」


「あら、そうだったの?」


「はい。それで、先輩はどうしたんですか?」


「昨日少し、話せなかったことがあったから、それを伝えにね」


「話せなかったこと、ですか」


 そういえば、昨日はわたしと水卜ちゃんに話をしてくれた後も、先輩たちは残ってお仕事だって言っていた。

 だから伝え忘れていたのだろう。

 生徒会交代に向けていろいろと準備のようなもので忙しいのかもしれない。


「そうなの。少し、場所を変えたいのだけれど、構わない?」


 お昼休みの活気あふれた雰囲気の教室を眺めて、桜町会長が苦笑しつつ言う。

 たしかに、少々真面目な会話をするには向いていない場所ではあると思う。


「はい」


「それじゃ、こっちで話しましょうか」


 歩き出した先輩について、わたしも足を進める。

 連れられてきたのは、購買や自販機に行くには遠いから、お昼休みにはあまり使われない階段の踊り場だった。


「じゃあ時間ももったいないから、さっそく」


「生徒会について、ですよね?」


「そう、ねぇ……限りなくそうとも言えるのかしら」


 なんだか歯切れの悪い桜町先輩に、わたしは首をかしげる。


「え、どういうことです?」


「あぁ、気にしないで? 関係なくはないわ。ええっと、単刀直入に聞くのだけど」


「はい」


「最上さんって、高千穂さんとお付き合いをしているのかしらぁ~?」


「……え?」


 会長の口から思いもしなかった単語が飛び出した気がする。

 わたしの聞き間違いだろうか。

 うん、きっとそうに違いない。


 なので、わたしはニッコニコの笑顔を浮かべている生徒会長に聞き直してみる。

 

「すみません、もう一度お願いしても」


「ええ。最上さんと高千穂さんはお付き合いをしているのかしら?」


 会長の表情はいつもと同じ人好きのする笑みを浮かべているけど、冗談を言っている様子は微塵もない。

 返ってきた質問は先ほどと全く同じ。

 どうやら会長は真剣にこの件について、わたしに尋ねているらしい。

 

 お付き合い。お付き合いって、お付き合い? あの……?

 わたしとてれすが……?

 

 な、え? え……?

 生徒会長に尋ねられた、ということも相まってか混乱してしまって、思考がまとまらない。


「お、おおおお付き合いって、ええっ!?」


「落ち着いて、最上さん?」


「す、すみません……」


 まさかそんなことを質問されると思っていなかったから、すごく取り乱してしまった。

 いや待って、最上ありす。

 お付き合いと言っても、そういう意味ではないかもしれない。


 友達付き合いとか、お出かけとか。

 そういう意味で聞いているのかも。


「な、えっと確認なんですけど」


「うんうん」


「この場合のお付き合いって言うのは」


「交際ということね。どこかへ出かけたり、お互いにどつきあう、という意味ではないわ」


「ですよね……」


 生徒会長は随分と楽しそうに口元を緩めながら、再度訪ねてくる。


「それでそれで、どうなのかしらぁ?」


「どうって、してないですよ。こっ、交際なんて……。どうしてそんなことになってるんです?」

 

 修学旅行のときに一度、てれすへのナンパを断るために嘘は吐いたけど、あれはその場しのぎのための嘘だ。

 それに、あれのことは先輩は知らないはず。

 

「文化祭のときに、最上さんと高千穂さんは一緒に居たじゃない?」


「はい、いましたけど」


「そのとき、なんか他の人たちよりも仲が良いっていうか、距離が近いっていうか……そんな気がして。ま、わたしの勘違いだったみたいだけどぉ~」


 ごめんなさい、と桜町会長は両手を合わせて、小さく頭を下げる。

 

 桜町会長の判断だったら、この学校には何組のカップルがいることになってしまうのやら……。

 特別に仲が良さそうっていうか、特に仲のいい二人組を見たら全員をカップル認定してしまいそうだ。


 でも、わたしとてれすが他の人よりも仲が良いって思ってもらえたのは素直に嬉しいことだった。

 最近ではてれすもクラスに馴染んできて、先日の文化祭ではその成果が見て取ることができた。それは間違いなくいいことだけど、だからこそやっぱり今までのポジションは誰にも譲りたくない。


 ……とはいえ。


「仲が良いって思ってもらえるのは嬉しいですけど、第一てれすには好きな人がいるんです」


「あら、そうだったの? それは重ね重ね申し訳なかったわねぇ……」


「はい。だからわたしと、こっ交際だなんて、そんな……」


 そんな誤解をされてしまうと、事実として違うのだからてれすの迷惑になってしまう。

 てれすが誰の事を好きなのかは知らないけど、応援したい。するべき。


 っていうか、てれすのことを話してしまってもよかったのだろうか?

 いや、もちろん生徒会長は誰かに勝手に話したりってことはしないと思うけど。こうやって、わたしとてれすのことも、わざわざ人気のないところで聞いてきたわけだし。


 そもそも、どうしてそんなことを聞いてきたのだろう?

 昨日伝え忘れていたことって、この確認だったのかな?

 胸の中に疑念がいっぱいになる。


 と、その張本人である桜町会長は、ふむとあごに手を添えて何やら思案に耽っていた。


「あの様子だと高千穂さんが最上さんにべったりなのかと思っていたけれど、案外逆なのかしら……?」


 何かを言ったのはわかったけど、あまりに声が小さすぎて、というか完全に独り言が零れてしまったのだろう。

 先輩の言葉を聞き取ることはできなかった。


「先輩?」


「あぁ、ごめんなさい? こっちの話」


「言い忘れていたことって、このことですか?」


「いえ、違わないけど、ここからが本題よ。これを踏まえて」


「……?」


 わたしとてれすが交際をしているかもしれない、という勘違い、誤解が何か関係あったのだろうか?

 桜町会長の考えている真意がわからず、わたしは首を捻った。


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