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ありすとてれす  作者: 春乃
247/259

247話 ありすのしたいように

「わたしが生徒会長……かぁ……」


 会長と副会長に、次期生徒会長の候補として選挙に出てほしい(厳密には、出馬すれば当選はほぼ確実らしいけど)と言われた日の夜。


 お母さんの美味しいご飯を食べても、お風呂で身体がポッカポカになっても、毎週楽しみにしているバラエティを見ても、やはりそのことばかり考えてしまう。

 宿題も予習も、あまり集中できないっていうか、気が付いたら今日のことに頭を悩ませていた。


 どうしたら……。


 生徒会の活動に興味がないわけじゃない。

 高校生活は多くの人が経験することでも、生徒会となると誰しも経験出来ることじゃない。

 

 でも来年は受験もある。

 

 もちろん、生徒会の活動と言っても、アニメやドラマみたいな権力を持っているわけじゃないから毎日仕事で忙しいってことにはならないと思う。

 だから勉強の時間がなくなるとか、生活リズムが崩れる心配はない。

 さすがに体育祭や文化祭は、猫の手も借りたいほど大忙しになるだろうけど……。


 そういう意味ではむしろ、今のところこれと言って将来したいことが見つかっていないわたしにとっては、いい機会になるのかもしれない。何をやるにしても、生徒会の活動はプラスになる気はする。

 活動を通して何か見えてくるかもしれない。


「うーん……」


 結局、今日一日では答えは出そうもない。

 けれど睡魔は襲ってくるので、身を任せて寝ることにした。

 

 今日はこれ以上悩んでも答えは出そうもないし、仕方ない。

 また明日、気分をリセットしてから再度考えよう。





 次の日。

 いつも通りに登校して、玄関でローファーを上履きと交換する。

 やっぱり、一度桜町会長にいろいろな話を聞いてみたほうがいいかもしれない。そんなことを思いつつ、教室へ向かおうとしたとき。


「ありすっ」


 と、やや上ずったような声に名前を呼ばれたので振り返る。


「あ、てれす!」


 ここまで走ってきたのだろうか? 

 少しだけ息が上がっているてれすがいた。けれど、特に髪が乱れている様子もないし、いつもと変わらず凛として美人な顔。さすてれだ。


「おはよ」


「ええ、おはよう」


「どうしたの、今日早いね?」


「あ、いえ、その偶然ね」


「そっかぁ」


 日直でもないし、先生に呼ばれているわけでもないのなら、本人の言うとおり偶然なのだろう。

 たしかに、わたしもたまーに朝早く目が覚めちゃうときあるし。


 理由はともかく、いつもは遅刻ギリギリの時間に教室にやって来るてれすに会えたのだから、ラッキーだ。

 今日は朝から運が良い。

 てれすが上履きに履き替えるのを待って、一緒に教室へ向かう。


「それで、そのありす……」


「んー?」


「あー、いえ。なんでも」


「そう?」


「……ええ」


 何だったんだろう?

 てれすが何でもないって言っているから、何でもないのかな? とやや俯いてしまったてれすを見つめて思う。


 ……というか、わたしが生徒会長になったらこういう日も少なくなっちゃうのかもしれない。

 特に行事があるときは、一緒に帰るなんてことはできなくなる可能性が高い。

 行事がなくても、ちょっとした用事が出来て他の生徒に比べて帰りが遅くなってしまう日が増えるのは間違いないだろう。


 さすがに、てれすに待ってもらうわけにもいかないし……。

 むむっ、それは……。


 てれすも生徒会に入ってくれたら一番いいけど、それはわたしが勝手に決めていいことじゃない。

 桜町会長たちが昨日呼んでいないってことは、てれすの生徒会入りは考えていないってことだと思う。

 

 

 ええい!

 悩むよりもてれすに相談してみよう。それがいい!


 もちろん、てれすが言ったからといって、わたしがそうするわけじゃない。そんなてれすに責任をもたせるようなことは絶対にしない。

 けど、一人で抱え込んでいるよりはいいと思う。


 先輩たちも、他の人に話しちゃいけないとは言っていなかったし。


「あのさ、てれす。昨日のことなん――」


「え、ええ! どうだったの?」


 昨日のことなんだけど、聞いてくれる? と言い終わるよりも先に、てれすは食い気味に顔を上げた。

 思いのほか顔が近くてドキリとする。


「わ、びっくりした……」


「ご、ごめんなさい」


「ううん。それでね、ちょっと信じられないかもしれないんだけど」


「……?」


「昨日ね、次の生徒会長にならないかって言われたの」


「生徒会長……? ありすが?」


「うん。わたし」


「そうだったの……」


 何やら神妙な顔をして、てれすは考え込むようにあごに手を添える。

 もしかしたら、生徒会長になったわたしのことをイメージしているのかもしれない。


「あはは、やっぱり似合わないかな?」


「いえ、そんなことはないわ。むしろ、ぴったりな気がする」


「えー? ほんと?」


「ええ。ありすは優しいし、人にために行動もできるし。わたしが保証するわ」


「あ、ありがとう……」


 なんだか昨日からめちゃくちゃ褒めてもらっている気がする。気がするっていうか、そう。

 嬉しいけど、純粋に照れてしまう。


「それで、ありすはどうするの?」


「うーん、それなんだよね……」


 自分では悩んでいて答えが出ないこと、三日後に回答期限が迫っていることも合わせて、てれすに伝える。

 

「てれすはどう思う?」


「え、わたし?」


「うん。参考までに何か意見があればって」


「わたし……わたしは……」


 真剣に逡巡してくれて、やがててれすは口を開く。


「やっぱり、ありすのしたいようにするのが一番だと思うわ。どっちを選んでも、わたしは味方だから」


「てれす……」


 ふわりとしたてれすの微笑みに、気持ちが少しだけ安堵する。

 そうだよね。自分で決めなきゃ。やるにしても、やらないにしても。


 たぶん、仮に断ったとしても会長も副会長も怒ったりはもちろん、無理に出馬させようとはしないと思うし。


 そういう意味でも、やっぱり現生徒会長である桜町会長と、もっとお話をする必要があると思う。


「ありがと、てれす」


「いえ、わたしは何もしていないわ」


「それで申し訳ないんだけど、今日の放課後に、会長のところに行って話を聞いてみるよ」


「ええ、わかったわ」


「ごめんね。一緒に帰ろうって昨日約束したのに」


「気にしないで。がんばってね」


「うん。ありがとう」


 とりあえず、今日の方針は決まった。

 今のわたしでは生徒会長のことも生徒会のことも何も知らないから、それが一番だろう。

 いろいろ聞いたうえで、判断したいと思う。

 

 ……てれすに話してよかった。

 隣を歩くてれすの横顔を見て、そう思う。


 よし。

 放課後になったら、生徒会室に直行しよう!

 


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