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ありすとてれす  作者: 春乃
245/259

245話 桜町会長のお話って?

 文化祭が終わって数日。

 今日から今まで通りの授業が再開された。


 登校したばかりの朝の時間は、少しだけ文化祭の気分っていうか、雰囲気の欠片みたいなものが教室を漂っていた。

 それだけ楽しくてみんなの記憶に残ったいい文化祭ってことだけど、そろそろ切り替えなくちゃいけない。


 二学期は修学旅行に文化祭と学校生活でもビッグなイベントが続いていたけど、逆に言えばそれらはもう終わって、二学期自体も終わりに近づいている。

 ということは、もう二年生である時間も少なくなっていた。

 三年生になって受験もすぐそこに控えていると言ってもいいと思う。


 とはいっても、今日も授業を重ねるごとに浮き立った様子は薄くなっていたから、数日もしたら今までと同じ教室に戻るだろう。

 わたしもしっかり勉強モードに切り替えなきゃ、と久々に感じる授業を受けて、放課になった。


 カバンに教科書やノートを詰めて、てれすの元へ向かう。

 いつもなら一緒に帰るおさそいをするんだけど、今日は違う。

 文化祭の日、桜町会長にお話があると言われ、今日がそのお話をする日だった。


「てれす」


「ありす」


「今日の帰りなんだけど、ちょっとこれから用事があるの」

 

「そうなの?」


「うん。ほら、生徒会長に呼ばれてて」


 一緒にお化け屋敷でお化けをしていた時の話だから、てれすもすぐに思い出してくれたらしい。

 なるほど、と納得した様子を見せる。

 

「今日お話することになっていたのね」


「うん。できるだけ早い方がいいかなって思って」


「……そうね」


「うん。えっと、それで申し訳ないんだけど……」


 ここまでは、てれすも知っていることだからすんなりと話は進んでいった。

 だけど、ここからがちょっと心苦しい。


 わたしが言い淀んだのを見て、てれすが首をかしげる。


「どうかしたの?」


「会長がわたし一人で来てほしいって言ってたから、今日、一緒に帰れないの……」


「え」


 どうやら、てれすも予想していなかったことらしい。

 もしかすると、一緒に来てくれる予定だったのかもしれない。

 すっごく嬉しいけど、小さな子供じゃないんだし、今日のところは会長の言うとおり一人で行かないと。


 何かイベントを企画していて、そのお手伝いとかなら知っている人は少ないほうがいいってことだろう。

 てれすと会長は面識がほぼないから、会長の判断は仕方ないと思う。


 もしも大変そうだったら、てれすも手伝ってくれるかもって会長に進言してみよう。

 

「ほんとにごめんね」


「い、いえ……生徒会長がそう言うのなら、仕方がないわ」


「明日は一緒に帰れるから、一緒に帰ろう?」


「ええ……って、行かなくても大丈夫?」


 てれすに指摘されて、壁に掛けられている時計を確認する。

 放課後に生徒会室で、ということだけしか決まっていないけど、さすがに先輩を待たせるわけには行かない。


「それじゃあ、わたしは行くね」


「いってらっしゃい、ありす」


「うん、また明日」


 てれすと手を振って別れて、わたしは早足で生徒会室へと向かう。

 生徒会室は一つ上のフロアの奥にある……というのは知っているけど、これまでは機会がなかったから、入るのは初めてだ。


 階段を上がって廊下を歩き、徐々に生徒会室が近づくにつれて緊張してきてしまう。

 中にいるのは先輩とはいえ同じ生徒、だというのに、職員室に入るときみたいだ。

 いや、別に悪いことをして呼び出されているわけじゃないんだから、堂々と入ればいいんだけど。


 コンコンとノックをすると、中から「どうぞ~」と桜町さくらまち先輩のゆったりとした優しい声音が返ってきた。


「し、失礼します」


 扉を引いて中に入る。

 桜町会長は、カタカナの「ロ」の字に並べられている長椅子の最奥、つまりわたしの真正面でパイプ椅子に座っていた。

 その隣に十里木じゅうりぎ副会長が腰を下ろしている。


 壁側には本棚があって、議事録だろうか、なにやらファイルなどが山ほど詰め込まれていた。


最上もがみさん、いらっしゃい」


「は、はい」


「さ、こっちに」


 桜町会長に促らされるまま、わたしは十里木会長とは反対側の会長の隣に座る。

 先輩二人――それも生徒会長と副会長――のすぐ近くということもあって、視線と背筋が伸びる。


 これはあれだ。

 受験のときの面接を思い出した。


「最上さん、生徒会室は初めて?」


「はい」


「そう。でも、緊張なんてしなくていいわよ? あ、お菓子食べる?」


「お、お菓子ですか?」


 いきなりのことに困惑していると、わたしたちの会話に見かねたのか、十里木副会長が助け舟を出してくれた。


「桜町、そうじゃないだろう」


「あら、たしかにそうね。ごめんなさい、最上さん」


「い、いえ」


「お菓子じゃなくて、まずは飲み物よね」


「そうじゃなくてだな……って、いや。その通りか。……そうだな、そのくらいは出すべきか」


 と、十里木先輩は納得をして立ち上がる。


「最上。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」


「え! いや、そんな。先輩にそんなこと」


「いいからいいから。今日のお前は客人なんだし、わたしがやらなきゃ、こいつには任せられないし……」


 こいつ、と十里木先輩はあごで桜町先輩のことを示す。

 桜町先輩は目元に指をあてて、えーんとわざとらしく泣く演技を始めた。


「ひどいわ、ぐすん……」


「はいはい。それで、どっちがいい?」


「えっと、それじゃあ紅茶をいただいても」


「りょうかい」


 十里木先輩は慣れた手つきで三人分の飲み物を準備する。

 心の底から恐縮して紅茶のカップを受けとったところで、わたしはここに来た理由を思い出した。


 こうやってお茶を飲みにきたわけじゃない。


「えっと、それで先輩。お話って何ですか?」


「そうよね、気になるわよね。でも、もう少しだけ待ってもらえるかしら」


 わたしの他にも誰か呼んでいるってことだろうか。

 紅茶を覚まして飲みつつ待っていると、やがて扉が小気味よくノックされた。会長の返事と共に、勢いよく開く。


 そして入ってきたのは、

 

「おっはよーございます! すみません、遅れましたー!」


 肩口ほどの長さの黒髪をおさげにまとめた、どこか小動物のような可愛らしい雰囲気を持った生徒だった。

 まったく面識がないから、授業で関わることがない違うクラスの生徒かもしれない。

 

 その生徒は緊張した様子など一ミリも見せず、こちらへとスキップでもするかのような軽やかな足取りでやって来る。

 そして。


「あっ! ありす先輩だ!」


「え、どうしてわたしの名前を?」


「どうしても何も、占ったじゃないですかー! ついこないだ!」


「占った……? って、もしかして!」


 よくよく見てみると、この生徒は文化祭のときにてれすと一緒に占ってもらった、占い師さんだった。

 ……って、ありす先輩ってことは、後輩なの!?


「あのときの! え、でもキャラが違うような……」


「あのときは占いモードでしたので。ベールをかぶるとモードに入るんす!」


「あ、そういうこと」


 たしかに、プロの人って仕事をするときとプライベートは別人って聞くし、そういうものなのかもしれない。

 いや、こんなにハイテンションで人懐っこい感じだとは想像もつかなかったけど。


「はい! あ、自己紹介がまだですね! 水卜みうらは水卜なので、ぜひ水卜と呼んでください、ありす先輩!」


 後輩だった占い師さんの水卜ちゃんは上機嫌に、わたしの隣に座る。

 もしかして、桜町先輩が待っていたっていう生徒はこの子のこと?

 

「えと、水卜ちゃんも桜町先輩に?」


「ですです!」


 そして、どうやら待っていたのは水卜ちゃんのことだったらしい。

 わたしと水卜ちゃんが視線を向けると、桜町会長は一度咳払いをして、ゆっくりと話し始めた。




「二人には、来年の生徒会長と副会長になってほしいなぁって思っているの」 


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