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ありすとてれす  作者: 春乃
243/259

243話 てれすの提案、と

 わたしとてれすに対する熱烈(?)なコメントの犯人がわたしのお母さんだと気づかれないようにしつつ、わたしたちは後片付けを行う。

 わたしたちのクラスに投票してくれたのは嬉しいけど、さすがにあれは恥ずかしい……。


 片付けも一段落着いた頃、みんな疲れていること、あまり遅くなってしまうと心配もかけてしまうので、下校するようにという校内放送が流れる。

 それから数分後には見回りの先生がやって来たので、みんな後ろ髪を引かれつつも、今日は解散となった。


 賞状を担任の彩香ちゃん先生に届けるため、職員室に行くという高井さんと赤川さんに手を振って、わたしとてれすも帰ることにした。

 玄関で上履きからローファーに履き替えて、正門へと向かう。


 日中、あれだけ賑やかで明るかった校内も、日も沈んで暗くなり静かで寂しい。電気も職員室くらいしか点いていない。

 肌寒さも感じるし、季節はすっかり秋だなって思う。


「さっきまでさ、みんなとわいわいしてたから不思議な感じだよねぇ」


「そうね。あっという間だったわ」


「だね、楽しい時間は早いよ、ほんと」


 ここ数日、ずっとこの一日のために準備をしてきたから、お祭りムードで大忙しというのが日常になりつつあった。

 けど、明後日からは通常の授業が始まる。

 

 高校二年生であるということを考えると、もう受験に向けて将来のこととか考えなくちゃいけない時期……なんだろう。

 それがとても大切だってことはわかってるつもりだけど……。


「楽しかったけど、やっぱりちょっと寂しいかも。二日制だったらよかったのに」


「……そうね」


「あ、やっぱりてれすもそう思う?」


「え、ええ。思う、わ」


「ま、もう終わっちゃったんだし、言っても仕方ないんだけど」


 苦笑を浮かべると、ふいにてれすが足を止めた。

 いきなりのことに、どうしたのかな? と首をかしげる。


「てれす?」


「あの、ありす……」


「んー?」


「その、よかったらでいいのだけれど」


「うん?」


「今から、うちで何か……しない、かしら?」


 一瞬、てれすの提案が聞こえたけど理解が追い付かなくて言葉をすぐに発することができなかった。

 うちで何か。てれすのうちで……?


「えっ!」


 それって、打ち上げっていうか、この場合だと二人後夜祭? みたいなことにさそってくれてるってこと!?

 たしかに体育祭のときはわたしのうちでしたけど、まさかてれすから提案してくれるなんて。


 と、わたしの驚きをてれすはどう感じたのか。

 どうやらマイナスに受け取ってしまったみたいで、俯いて言い訳のように言葉を並べていく。


「あ、いや、その。無理にとは言わないし、ありすが嫌なら別に……」


「行く! めっちゃ行くよ! 超行く!」


「そ、そう?」


「そうだよ! えー! すっごい嬉しい! 明日休みだし、お泊り会にしちゃう?」


「え、ええ。ありすさえよければ。どうせうちには誰もいないと思うし、わたしは構わないわ」


「もちろんだよ! やった!」


 これは急いで帰って準備をしなくては。

 お母さんにも説明をしないといけないけど、てれすと一緒にって言えばきっと簡単にお許しも出ると思う。


 今年の文化祭はまだまだ終わらないね!


「じゃあ、てれす。帰ったらすぐ準備して、電車で行くね」


「ええ。駅で待っているわ」


「いいよいいよ、てれすはうちで待っててよ。夜はもう寒いんだし」


「いえ、それはありすも同じだし、一人だと心配だから……」


「一人でも行けるよ? 前にも行ってるし」


 てれすのうちには何回も行っている、というわけじゃないけど、前に行っているから道は覚えていると思う。

 ていうか、あれだけのマンションってあまりないから、そこを目指せばいいわけだし。


 だけど、てれすは引いてくれない。

 何が何でも駅までは迎えに来てくれるつもりらしい。


「いえ、そうじゃなくて……」


 なら、お願いしちゃおうかな?

 たぶん行けると思うけど、迷っちゃったら迷惑をかけてしまうし、来てもらうのが一番確実ではある。


「うん、わかった。お願い」


「ええ」


「準備ができたら連絡するね」


「わかったわ」


 少し急いてしまう気持ちを抑えつつ、正門を通過する。

 と、少し先に行った道路の脇にテレビのCMでもよく見かける白い普通車が停車していた。


 その車を見て、てれすがぽつりとつぶやく。


「あの車……」


「誰かのお迎えかな?」


 まだ学校には少ないけど人が残っている。

 心配で親御さんが迎えに来て、待っているのかもしれない。


 あ、もしかしたら、職員室に残っている先生の旦那さんとか?

 ちょっと素敵かも、なんて思っていると、車の運転席のドアが開いた。


 降りてきたのは、長い黒髪の美人な女性。

 黒のトップスにオレンジのタイトスカート、その上にチェックのコートと秋を感じさせる服装だ。

 年齢はわたしのお母さんよりは絶対に下。なら40代だと思うけど、でも30代かもと思案してしまうくらいには綺麗でぴしっとした美しい佇まいをしていた。

 芸能人……モデルさんとか女優さんと言われても疑わない。


 って、なんで降りてきたんだろう?

 まさか人攫い……ではないと思うけど。

 あ、まだ待っている人が学校に残っているか、確かめたいのかな?

 

 ちょっと不安になって、ちらと隣のてれすを見る。すると、てれすが目を見開いて固まっていた。


「てれす?」


 てれすは前をじっと向いて見つめたまま言葉を零す。


「お、お母さん……」


「え!?」


 て、てれすのお母さん!?


 かなりの衝撃を受けつつ、わたしは女性に再び視線を向けるのだった。


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