242話 文化祭閉幕
「お疲れ様でしたー!!」
文化祭が無事に終了を迎えて、わたしたちは自分たちの教室に集まっていた。
その中心にいるのは、文化祭実行委員の高井さんと赤川さん。
赤川さんが披露の色も見えるけど、充実感に満ちた表情でみんなに呼びかける。
「いやー! みんな本当にありがとうお疲れ様!」
その手には、一枚の賞状が握られていた。
閉会式のときに授与してもらったもので、赤川さんはみんなに見えるように掲げている。
文化祭はさっき閉幕してしまったけど、教室内は未だにその雰囲気や活気が残っていた。
そのクラスメイト達の輪の中で、同じくまだ文化祭気分に浸っているわたしは隣にいるてれすに話しかける。
「まさか、二年生のベストクラス賞をもらえるなんてね」
「ええ、そうね……」
全ての出し物を対象にアンケート投票が行われて、各学年ごとの部でわたしたちのクラスは見事第一位を獲得したのだ。
ちなみに、桜町先輩や十里木先輩の喫茶店がダントツで今年の文化祭の最優秀賞をもらっていた。
とはいえ、みんなで頑張ったし、楽しかったということが大切だとは思う。けど、それが評価されて来てくれた人も楽しんでくれたってことはすごく嬉しいことだった。
だけど、てれすの表情は浮かない。
「でも、わたしは遅刻をしてしまったから……」
「それはもう気にしなくていいよ。宣伝したし、誰も気にしてないと思う」
「それはそうかもしれないけれど、事実だから……」
賞状ももらえたし、みんなで楽しめたのだから結果オーライということにしてもいいはずなのに、てれすは真面目だ。
一緒に巡っていた時もずっと、心のどこかには引っかかっていたのかもしれない。
でもでも。
せっかくだから心からてれすに楽しかったって思い出にしてもらって終わりたい。
どう言葉をかけようかと頭を悩ませていると、クラスの輪の中心から赤川さんがこちらへとやって来た。
賞状は他の人の手にあるのか、赤川さんの手元にはない。
「最上さん、高千穂さん、ありがとね!」
「赤川さん!」
いいところに来てくれた。
ここは文化祭の功労者である赤川さんから、てれすに言葉をかけてもらうのが一番効果的な気がする。
「あのね、赤川さん」
「うん? どうしたの?」
「てれすがさ、まだちょっと遅刻したことを気にしてて……」
ちょっぴり肩を落としているように見えるてれすのことを見ながら伝えると、赤川さんは目を大きくさせた。
「え、まだ気にしてたの!?」
「え、ええ。だって、それは紛れもない事実だもの」
「いやいや。そんなこともう誰も気にしてないっていうか、正直忘れてた……」
「そ、そうなの……?」
文化祭実行委員の赤川さんの言葉に、てれすは衝撃を受けたようだった。
そのてれすに、赤川さんはうなずいて続ける。
「絶対みんなそうだよ。っていうか、うちのクラスが賞状もらえたのって、けっこう高千穂さんのおかげなところもあるんだから」
「わ、わたしが?」
「うん。宣伝とか頑張ってくれたじゃん!」
たしかに、てれすは遅刻してしまったけどそれを取り合えそうと、人前は苦手なはずなのに一生懸命宣伝をした。
きっとそれを見たり聞いたりして来たお客さんも多少はいたんじゃないかなって思う。
それに、ナースなてれすにつられて来てくれた人だって少しはいたかも……。
わたしなら、てれすがいるなら優先的に行ってしまうと思う。
赤川さんの言葉を聞いて、てれすの顔はやっと明るくなってきていた。
「ほら、てれす。もう気にしなくていいから、純粋に楽しかったぁってことでいいでしょ?」
「……そうね。ごめんなさい……いえ」
てれすは首を振って、わたし、赤川さんと視線を送り、またわたしに視線を戻す。
「ありがとう、ありす。赤川さん。すごく楽しかったわ」
ふわりと柔らかな笑みを浮かべるてれすに、文化祭の興奮がまだ冷めていないということが相まって、ちょっとだけドキリとしてしまう。
「あ、えっと、こちらこそ。てれす」
「あはは、どういたしまして高千穂さん。あ、そうそう、そういえばね」
わたしと同じく照れてしまったのか、赤川さんは頬を掻きながらポケットから用紙を取り出した。
「わたしたちのクラスに投票してくれた人たちの声っていうのももらったんだけど、それを伝えたくて二人のところに来たんだった」
忘れてた、と赤川さんは苦笑を浮かべる。
「基本的には雰囲気が良かった、とか、想像以上に本格的で楽しめた、とかあるんだけど、明らかに二人のことを指して投票してくれた人がいたから」
「わたしとてれす?」
「うん。例えば、ナースの人が綺麗だったっていうのが結構たくさん。最上さんの猫姿も可愛いって評判。衣装のクオリティが高かったからか、そういう感じで選んでくれた人も多いっぽい」
他にも、わたしやてれすのことを褒めてくれている内容のコメントを赤川さんが読み上げてくれる。
……めちゃくちゃ照れくさい。
てれすはたしかにナース姿素敵だったけど、まさかわたしもそんなに言ってもらえるなんて。
「あとはねぇ、あ! 2人の熱狂的(?)なファンみたいな人からも」
「ど、どういうこと?」
「えっと、そのまま読むね? 『ありすー! てれすちゃん! 2人ともすっごく可愛かった! ナイスキュート! ダブルビューティフル! 今日はありがとう! 二人で仲良くね!』だって」
「…………」
あ、これ絶対お母さんだ。
うちのクラスに投票をしてくれたのは嬉しいけど、そんな内容で書かないでよ……。絶対読まれたときのこと考えずに、面白いからこれでいいや、っていう感じで投票した気がする。
どうやら、てれすも気が付いているらしい。
「あ、ありす……」
「う、うん。ごめん……」
赤川さんはお母さんには気づいていないらしく、首を捻っていた。
「なんで最上さんは呼び捨てなのに、高千穂さんは「ちゃん」付けなんだろ?」
「な、なんでだろうね……」
帰ったら、お母さんとちょっとお話しなくちゃ……。
とりあえず今は、わたしは愛想笑いで乗り切ることにしたのだった。




