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ありすとてれす  作者: 春乃
241/259

241話 何だったのかしら

 魔女の館を後にしたわたしとてれすは、次に何をしようかと探しながら廊下を歩いていた。

 文化祭ももう半分以上は終わって、残り時間のカウントダウンが始まっている。

 それでも廊下ですれ違う人たちや各クラスの中は、まだ活気の衰えない文化祭の雰囲気に満ちていた。


「あの占い師の人、なんか不思議な人だったねぇ」


「ええ。適当というか、なんというか」


「あはは、たしかに……」


 思い当たる節がありすぎて、苦笑してしまう。

 一番最初の三億円のこととか。

 それがいいよ、そうしな? とか。

 さぁ? とか。


 こんな占いありなのかなって思うところも正直多々あった。

けれど。


「なんかわからないけど、完全に嘘って感じがしないんだよねぇ……」


「……少し、わかるわ」


「てれすも?」


「ええ」


 正直、ああいった感じの占いの館みたいな場所で占いをしてもらうのは初めてだったから、その雰囲気にのまれたのかもしれないと思っていた。

 でも、どうやらてれすも同じように感じていたらしい。


「その、清水寺のこ……おみくじの話をしたじゃない?」


「うん」


「わたしはおみくじがあまり良くなかったから覚えているのだけれど、その内容とさっきの占いとがけっこう似ていたのよ」


「え!」


 言われて、思い返してみる。

 おみくじ自体はおうちの自分の部屋にあるから、今確認することはできないけど、そう言われてみるとそんな気がした。

 

 てれすはたしか小吉で、自分から動くのがいい、みたいな内容だったと思う。

 今回の占いも自分を出していこう! って言われていたから似ているといって差し支えないだろう。


「でもさ、てれす」


「?」


「占い師さんの言ってたことが当たってるんだとしたら、わたしたちは大丈夫だよね」


「……ええ。でも、試練って何かしら?」


「それはわからないけど、今までもけっこう乗り越えてきたと思うし、今回も大丈夫だって」


 最初の友達になるところから始まって、球技大会やら体育祭やらを仲良くなり我なら乗り越えてきたのだ。

 けんかも何回かしたし、そのたびに高井さんや赤川さんには申し訳ない感じだったけど、雨降って地固まったと思う。


 どんな高い壁も大きな試練も、ばっちこいである。

 

「そうね。二人で密にコミュニケートだったかしら」


「うん。それって、今までとあんまり変わらないもん」


「ありすの言う通りね。心配しすぎも、よくないわよね」


「だね。さてと、もう時間も減ってきたけど、次は何しよっか」


 時刻は三時を越えたところで、あと二時間もすれば文化祭は終わってしまう。

 けっこうてれすともお母さんとも学校を巡って楽しんだと思うけど、まだ時間があるのなら、何かしたい。


 あまり混雑していないところはないかな、と探しながら廊下を歩いていると、ふいにてれすに呼ばれる。


「そういえば、ありす」


「んー?」


 顔を向けると、てれすは少し口をもごもごとさせて、歩みの速度を落とす。

 文化祭は終わりに向かっているとは言っても、まだ多くの人たちで盛り上がっているので、はぐれないようにわたしも速度を落として、てれすの隣に並んだ。


「どうしたの、てれす」


「えっと、その、お化け屋敷のときなのだけれど」


「お化け屋敷? あ、行く?」


「い、いえ。そうではなくて」


 首を横に振って、てれすは言葉を探す。


「その、そのときのことでちょっと気になってて……」


「気になる。それって、お母さんと一緒に入ったとき?」


 わたしが悪ふざけの餌食になって悲鳴を上げてしまったこと以外で、何かあっただろうか?


 再び格好悪いところを見せてしまったし、お母さんにはしつこくかわかわれたし、あんまり思い出したくはないなぁ。

 そんなことを思っていると、どうやらそのときとは違うらしく、てれすはまた首を横に振った。


「いえ、お化けをしていたときよ」


「あ、そっち。うん、どうかした?」


「ええっと、あの二人で来た先輩……だったかしら?


「二人……生徒会長と副会長?」


「ええ。あのふわっとした感じの」


「あぁ、うん。桜町先輩。先輩がどうしたの?」


「……ありすに話があるって言っていたじゃない?」


「うん」


 桜町先輩としては、今日お話をしたかったみたいだけど無理を言って時間を変えてもらった。

 文化祭が終わって通常の授業が再開されたら、という約束をしたのだ。

 

「何だったのかしらって。今更だけど、ちょっと思って……」


「うーん。あのときもそうだったけど、わかんない。わたしにも心当たりはなくて」


「そう……」


「たぶんだけど、クラス委員としての何か頼みじゃないかな。あ、例えばだけど」


「だけど?」


「少し先のお話になるけど、マラソン大会のこととか、あとは……卒業式の送辞とか?」


 自分で言いつつも、さすがにそれはないかな、と思う。

 卒業式なんてまだ半年くらい先だし、今の段階で自分が在校生代表に選ばれると思っているって、ちょっとおこがましい気もする。

 

 それに、卒業式の送辞は例年、新しい生徒会長がやることになっていたはず。

 ということは、マラソン大会のことかな? 

あ、もしかしたら、ハロウィンとかクリスマスとかにパーティーとかをするから、そのお手伝いの話かもしれない。


 まぁ、ここで考えても答えは出ないので、とりあえず。


「何か分かったら、てれすには話すね?」


「あ、いえ。別に無理に離してほしいわけじゃなくて、ちょっと気になっただけだから……」


「ううん、てれすならいいよ。心配してくれてるわけだし」


「そ、そう?」


「うん。そうしたほうがいい気もするし、そうするよ。うんうん、そうするね」


 言えないようなことは絶対ないし、ならてれすに話すべきだろう。

 てれすだって、心配してくれているのに何かわからないままだと、解決するまでモヤモヤしてしまうと思うし。


 と、てれすがくすりと笑みを浮かべた。


「ど、どうしたの?」


「あ、いえ。今の、さっきの占い師の口癖が移ったようだったから」


「え!」


 言われてみれば、自然と口から得た言葉だけど、影響されてしまっていたかもしれない。

 別にあの人が悪いってわけじゃないけど、わたしとしてはちょっと……。


「き、気を付けます……」


「ええ」


 指摘されたわたしは少しだけほっぺたが熱くなるのを自覚しながら、てれすと一緒に文化祭を見て回るのだった。


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