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ありすとてれす  作者: 春乃
240/259

240話 二人の相性

「それでは次に、ありすちゃんとてれすちゃん、二人の相性を占いまーす」


 そう占い師さんはわたしたちに言って、紙とペンをそれぞれに差し出してきた。


「これに名前と生年月日を西暦でお願いしまっする」


「わかりました」


「しまっする」


「な、なぜ二回……」


「うふふ」


 占い師の生徒はただ笑っていた。

 たしかに小ネタみたいなのもスルーしてしまったのは申し訳なかったと思う。

でも、正直言うとあれにどう返事をしたものかと考えていた結果、普通に受け答えをしてしまったのだ。


ちなみに、てれすは困惑した表情で黙していた。


 ……この占い師さん、わからないなぁ。

 不思議な感じがするっていうか、つかみどころがないっていうか。


 とりあえず、占い師さんからペンを受け取って、メモ用紙くらいのサイズの小さな紙に、フルネームと生年月日を書く。

 てれすと同じくらいの来民具で書き終わって、占い師さんにお互い紙とペンを渡した。


 占い師さんはそれを受け取って、名前の書かれた用紙をまじまじと見つめる。


「えっと二人とも質問なんだけど」


「は、はい?」


 どうしたんだろうか。

 何か間違っている……ってことはないと思うし、生年月日もちゃんと西暦で書いたと思う。


 もしかして、名前を見ただけでわかるくらい、めちゃくちゃ二人の相性が悪かったのだろうか?


 そんなわたしの不安が伝わっていたのか、占い師さんが苦笑を浮かべながら「まだ何もわからないから大丈夫だよ」と教えてくれた。


「聞きたいのは、二人とも名前はひらがなでいいのねん? ってこと」


「あぁ、そういうことですか」


 質問の内容がわかって、ほっと安堵する。

 たしかに日本人の名前って、同じ読み方をしても感じが違うこともあるし、使われている漢字とかその画数で占いの結果は変わるんだろう。


 わたしの名前は紙に書いた通りひらがなでの表記で正しいので、うなずく。


「はい、ひらがなです」


「おっけおっけ。てれすちゃんは?」


「わたしもです」


「はいよぅ、それじゃあ占いますよう」


 占い師さんは別の用紙を取り出して机の上に置くと、わたしとてれすが渡した養子と見比べながら、何やら書き込んでいく。

 しばし彼女のペンが動く音だけが聞こえ、わたしたちは結果を待つ。


 そしてついに占い師さんの手が止まって、顔を上げた。


「はーい。出ました」


「ど、どうですか?」


 

 隣の席では、てれすが緊張した面持ちで、ごくりとつばを飲み込んだ……ような気がした。

 その気持ちは、すっごくわかる。


「えっとね。基本的にはいいよね。うん」


「ほんとですか?」


「うんうん。まぁ、あれだよね。一緒にこうして占いに来てるし、仲は良いよね」


「た、たしかに……」


「間違いないよ。信じてみ? 名前もそうだけど、星の位置もいい感じだから」


 うんうんと占い師さんはうなずきながら話しているので、きっとその通りなんだろう。

 2人の中は最悪とか、一緒にいるのはあり得ないとか言われなくてよかった。


 良いって言ってるし、絶対そう。

 信じてって言葉を信じようと思う。わたしとてれすの相性はいい!


「あとはねぇ、そうねぇ」


 今まで、はきはきと滔々と淀みなく話していた占い師さんが、初めて言葉を詰まらせた。

 何か気になることでもあったんだろうか。


「どうしたんですか?」


「えーっと。二人の苗字を交換してみようか」


「苗字ですか?」


「うん。あー、今この瞬間ってことね?」


「は、はい。わかりました」


 これで何が分かるんだろう?

 疑問でいっぱいだけど、頭の中で苗字を取り返っこする。


 高千穂と最上を交換ってことだから、わたしが高千穂ありすになるってこと。

 え、それってまるで……。

 

 と、隣のてれすをちらと見る。

 てれすのほうも思うところがあったのか、わたしと一瞬だけ目を合わせたけど、すぐに逸らしてしまった。頬はほんのり色づいていて、わたしまで気恥ずかしい。


「あの、これで何が分かるんですか?」


「さぁ?」


「え、さぁ……って?」


「いやー、なんだろうね。二人はどうだった?」


「どうって、やっぱり違和感っていうか不思議な感じがしましたけど」


 苗字って、わたしは生まれてからずっと、16年間同じで別のものって名乗ったことがないから、落ち着かない感じだった。

 憧れの苗字のランキング、みたいなのを前にテレビでみたことがあったけど、わたしは特に考えたことがなかったし。


 それに、てれすの苗字になるってことは、たぶんそういうことだから……って、そういうことを余計に変に意識してしまう。

 いや、もちろん占いのためっていうか、遊び感覚に近いから、深く考えなくていいんだけど……。


「てれすちゃんはどうだった?」


「わ、わたしも同じです……変な感じっていうか、むず痒いっていうか……」


「そっかそっか」


 占い師さんは納得したように首を縦に数回振っているけど、わたしには、というよりわたしとてれすには、何のことだかわからない。

 

「あの、これって何だったんですか?」


「え? 何だろうね?」


「えぇ……」


 指示をした占い師さんもよくわかっていない占いって……。

 ていうか、そもそもこの苗字交換って占いじゃないと思う。うん。

 だって、これでは本当に何も占ってくれてない気がするし、恥ずかしかっただけだ。


「あ、それともう一つ。二人にとっても大事なことを忘れてた」


「大事なこと……」


「うん。とってもね。ハンバーガーのピクルスくらい大事」


 たしかにハンバーガーのピクルスは美味しいと思うけど、どのくらい大事なのかはイマイチわからなかった。

 けど、とても大事なことって言われたら気になってしまう。


「よくわからないんだけど、何か壁に当たりそうかも? うーん、あんまりこの感じって、見たことなくて、はっきり言えないのが申し訳ないんだけど……」


 占い師さんは、今日一度も見せたことがないような、悩んだ表情になる。

 あごに手を添えて、確かめながらゆっくりと続きを口にする。


「今までにない感じになるかも。試練っていえばいいのかな、ニュアンスとしてそれが正しいのか微妙だけど、何かありそう。それも、けっこう近いうちに」


「試練ですか」


「うん。なんだろうね、これ。本当に珍しいやつで、わたしも驚いてるの。でも二人でしっかり密にコミュニケートすれば大丈夫だと思うよ。うんうん、そうしな?」


「わ、わかりました」


 何かって何だろう。あくまで占いだっていうのはわかっていても不確定だからこそ、不安になってしまう。

 てれすも首をかしげていた。


「ありすちゃんとてれすちゃんの相性がいいのは間違いないから、そこは自信をもって?」


「はい」


「それじゃ、こういう感じで。今日はありがとうショータイム!」


「……は、はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 二人でお礼を言って立ち上がる。

 暗幕をくぐって教室の扉を開けると、けっこうな数の生徒が順番待ちで並んでいた。

 まだ文化祭が終わるまでは時間があるとはいっても、全員を占うことができるんだろうか、といらぬ心配をしてしまう。


 受付の生徒にもお礼を言って、わたしとてれすは魔女の館を離れるのだった。



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