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ありすとてれす  作者: 春乃
232/259

232話 ありす母と文化祭

 正門付近に来ると、お母さんの姿はすぐに見つけることができた。

 来た人に帰る人、誰かを待っている人がたくさんいるけど、やっぱり家族だから何かあるのかもしれない。

 

「お母さーん!」


 てれすと手を繋いでいる手とは反対の手で、手を振って声をかける。

 少し駆け足になって近寄っていくと、わたしたちに気づいたお母さんが笑顔で手を振り返してくれた。


「あら、ありす」


 わたしを見て、それから隣にいるてれすに目を向ける。


「それに、てれすちゃんも来てくれたのね。わざわざありがとう」


「い、いえ。その、ありすと一緒にいたので」


「そうみたいね」


 お母さんはわたしとてれすの繋がれている手を見て、うふふと微笑む。

 見守るような温かい目に、わたしはもちろん、てれすも恥ずかしくなったのか、ほぼ同時に慌てて手を離した。


 ちらと横目でてれすを見ると、てれすと目が合う。てれすは目を大きくさせて、すぐに顔を逸らした。

 ……なんだか、わたしも照れてしまう。


 そんなわたしたちを見て、お母さんは苦笑を浮かべた。


「そういえば二人とも」


「ど、どうしたの?」


 話題を変えてくれたようなので、ここぞとお母さんの話に乗る。


「今日は可愛い格好をしているって聞いてたんだけど……」


 そういえば、お母さんにはお化け屋敷をやること。そしてわたしとてれすはお化けの役だから、その格好をすると伝えていた。

 しかし、今のわたしたちは制服姿なので、お母さんは不思議そうに首をかしげている。


「わたしたちがお化けをする番は終わったの」


「あら、そうだったの……残念ね……」


「あ、でも写真を撮ってるから、あとで見せてあげるね」


「ほんと?」


「うん」


 しかも驚くことに、わたしのスマホには写真だけでなく、動画まで入っている。それもただのナースてれすの動画じゃなくて、歩いているナースてれすの動画である。

 レアなんてものじゃない。希少性を例えるなら、日本で採れたダイヤモンドくらいの価値はあると思う。


 どうやってお母さんに自慢しようかと考えていると、ふいに制服の裾が引かれた。


「あ、ありす」


「ん?」


「その、写真……」


 そういえば、てれすは他の人には見せたくないから、動画は嫌だって言っていた気がする。わたしならいいけど、他の人には……と。

 でもお母さんには見せてあげたいし……。


「ダメ、かな?」


「…………」


「お願い」


「……あ、ありすのお母さんなら」


「ありがと!」


 わたしのお母さんというのは、半分くらいわたしだから、実質わたしだと思う。

 とにかく許可をくれたてれすに感謝だ。

 これで堂々とお母さんに自慢することができる。


「お母さんは行きたいところとか、見たいところってある? 案内する!」 


「いいの? てれすちゃんと回っていたんでしょ?」


 お母さんが気を遣うように、わたしを、そしててれすを見る。


「いえ、わたしのことは気にしないでください」


「そう?」


「はい。三人で回ったほうが」


「それなら、お言葉に甘えちゃおうかしら」


 てれすの言葉を聞いて、お母さんは数回うなずいた。

 これで三人での行動が決まったわけだけど。


「それで、お母さん行きたいところある?」


「そうねぇ、どうしようかしら。二人は教室にいないし」


「じゃあ、とりあえず校内を歩く?」


「そうね、そうしましょうか」


 どこの教室を見ても楽しく盛り上がっているから、適当に歩いていても何か興味が引かれるものはあると思う。

 大人はどうなのか、正直なところわからないけど……。


「てれすも、それでいいかな?」


「ええ、もちろんよ」


 てれすも同意してくれたので、わたしたち三人は校舎へと向かった。

 玄関でわたしとてれすは上履きに、お母さんは来客用のスリッパに履き替える。


 まずは三年生のフロアを見てみることにした。

 外の模擬店やわたしたちのお化け屋敷も盛り上がっていたけど、さすがは三年生というべきか。最後の文化祭ということもあるのか、すごく力が入っていて、より活気に溢れていた。


 すごいわねぇ、という感想を零すお母さん、ちらちらとわたしを見て、よく目が合うてれすと一緒に廊下を歩いていると、

 

「あらぁ! 最上もがみさんじゃない。またまた会ったわねぇ~」


 そんな声が聞こえて、声のほうに顔を向ける。

 そこには、クラシカルなロングスカートのメイド服に身を包んだ桜町さくらまち先輩の姿があった。

 ちょいちょいと手招きをされたので、自然と身体が先輩へと進む。


「先輩。何してるんですか?」


「何って、見たらわかるでしょー? 喫茶店よ喫茶店。うちのクラスわねぇ、メイド喫茶をしているの」


 扉から先輩のクラスの中を見ると、先輩と同じようなメイド服姿の生徒たちがウェイトレスをして、お茶やお菓子を運んでいた。

 いわゆる、メイド喫茶らしい。


 わたしが足を止めて話をしていたから、お母さんが尋ねてくる。


「ありす、こちらの方は?」


「えっと、こちらは生徒会長の桜町先輩」


 紹介すると、先輩はにっこりと笑みを浮かべてぺこりと頭を下げた。


「最上さんのお母様ですか?」


「はい。いつもうちの娘がお世話になっています」


「いやいや、そんなことないですよぉ。どうです、うちのクラスに寄っていきませんかぁ?」


「そうねぇ」


 とお母さんは少しの間悩んで、答えを出す。


「お邪魔させていただこうかしら」


「ちょ、お母さん」


 もちろん、お母さんが行きたいと思ったのなら行けばいいと思う。

 けど、わたしとてれすはすでにご飯を食べているのだ。満腹ではないけど……。


「いいじゃない、行きましょう?」


「う、うん。お母さんが言うなら……」


 一応、てれすにも確認しておこう。


「てれす、いい?」


「ええ。構わないわ」


 と満場一致となったので、わたしたちは桜町先輩に案内されて、教室に入るのだった。


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