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ありすとてれす  作者: 春乃
223/259

223話 いよいよ文化祭

 その後、わたしたちはクラスのみんなで一通り出し物のお化け屋敷を体験した。

 一回一回、入った生徒の意見を聞いて細かい部分の修正をしたので、仕掛けはもちろん、驚かすわたしたちの技術も少しずつではあるけど、上達したと思う。


 時間の許す限り、わたしたちは教室の飾りつけを直したり、仕掛けの位置を変えたり、驚かせ方を考えたりしていた。

 あっという間に時間は過ぎていって、下校を知らせるチャイムが鳴る。


 片づけしなさーい、と廊下を見回るように歩いていった先生に促されるように片づけを行う。そして。


「それじゃあ、みんな! 明日と明後日、がんばろう!」


 という赤川さんの掛け声に合わせて、みんなが「おー!」と返して解散となった。一致団結、だけどみんな最後の準備で疲れてしまっているので、特に用事のない人から帰宅していく。


 高井さんと赤川さんは先生へ報告へ、猫川さんと犬飼さんは最後に衣装をチェックして、空き教室の鍵を職員室に返しに行くらしいので、わたしとてれすも先に帰ることにする。

 四人が揃って歩き出したのを見送って、てれすに話しかける。


「てれす、わたしたちも帰ろう?」


「ええ」


 靴箱へ向かう廊下は、お祭りムードに彩られていた。

 各クラスの教室だけでなく、廊下や階段までもがいつもと違うカラフルな装飾がほどこされていて、非日常の雰囲気が漂っている。いよいよ明日が文化祭なんだなぁと改めて感じた。


「なんだか、学校じゃないみたいね」


「うん。明日が待ちきれないよ」


「そうね」


 みんなで力を合わせて準備をした文化祭。

 来年は三年生になって受験もあるから、今年ほど本気で楽しめるかはわからない。だから、今年を最後だと思うくらいの気持ちで楽しまねば。


「てれす、明日はいっぱい驚かそうね!」


「ええ。今日でコツを掴めたから、きっと上手くできると思うわ」


 てれすの表情は少し自信ありげだ。

 そういえば本番当日は、わたしは猫の花とかひげを顔に書いて、てれすは衣装を血に塗れた感じにするんだっけ。


 犬飼さんと猫川さんは、きっとその出来も確認しているのだろう。

 衣装についてはあの二人に任せておけが問題ないと思う。何も手伝えないのは申し訳ないけど、二人が衣装の係の中心になってくれて本当によかった。


 明日への期待や、その他いつも通りたわいもない会話をしながら帰路に就く。

 やがて、てれすとお別れをする交差点に来てしまった。

 

「てれす、確認なんだけど」


「……?」


「明日はわたしたち、一番最初にお化け役だからね? 忘れないでよ?」


 いつも学校のとき、てれすは時間ギリギリに来るので念のために。

 明日は着替えとか、もしかすると変更点とかもあるかもしれないから、一番最初にお化け役として教室に待機するわたしとてれすは、早め早めの行動を心がけたほうがいいだろう。


 やっぱり心配のし過ぎだったのか、てれすは苦笑を浮かべる。


「もちろんよ」


「あはは、ごめんね? 一応っていうか、こう言っておけば、わたしも遅れないかなって」


 人の心配をしておいて、自分が遅れてしまうわけにはいかない。

 ないとは思うけど、明日は土曜日だから、休みだって思わないようにしないと。明日は文化祭、明日は文化祭……。

 

 脳内に明日は休日だけど学校に行くことを刷り込んでいると、てれすが待っていた信号が青になった。


「それじゃ、ありす。また明日」


「うん。明日、がんばろうね?」


「ええ。成功させましょう」


「あ、てれす待って」


 一つ、言い忘れていたことを思い出す。

 

 てれすは駅に向かって歩き出そうとしてたけど、わたしへ身体を向けて首をかしげた。

 信号が変わるまではまだ時間があるとはいえ、余裕を持って渡ってもらいたいので、急いで伝えないと。


「明日、それと明後日も、クラスの出し物のお手伝いが終わったら、約束通り一緒に文化祭を回ろうね」


「――ッ! え、ええ!」


「じゃあ、またね!」


「ええ」


 胸の前で手を振って、てれすと別れる。

 駅の構内へと消えていくてれすの背中は、なんだかいつもよりも珍しく弾んで見えたのだった。


 いや、てれすだけじゃない。

 実行委員の高井さんや赤川さんをはじめとするクラスのみんなも。そして、わたしも。


 足取りだけでなく、心も弾んでいるのだった。









 次の日。

 ついに迎えた文化祭当日。

 

 お昼ごろに来てくれるというお母さんに「行ってきます」と言って、わたしは少し早めに家を出た。

 鼻歌混じりに学校に到着して、教室へ向かう。それからみんなで準備をしていったわけだけど……。


 準備もあらかた終わって、高井さんが心配そうに話しかけてくる。


「ね、最上さん」


「……うん」


「まだ、連絡はない?」


「ごめん」


「最上さんが謝ることじゃないよ」


「う、うん」


「大丈夫。まだ始まるまでは時間、ちょっとあるし」


 高井さんの言葉にうなずく。

 と、高井さんはクラスメイトの誰かに呼ばれて行ってしまった。


 それを見送って、わたしはぎゅっとスマホを握りしめる。


「てれす……」


 もうすぐ文化祭が始まってしまうというのに、てれすの姿がどこにもなかった。

 スマホの画面を見ても、てれすからメッセージは届いていない。 


 昨日、帰り道で約束したのに、どうしてしまったんだろう……。


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